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一輪の花による「花」生日記  作者: Mizuha
狙われた雄花
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変わり者の雄花

「今日中の昼前には目的地に着く予定だ。」


 時間軸はシュバレルやカリンが襲われた日の朝方まで遡る。朝食を食べたのち…まあ、食事はシュウ君以外いらないのであるが…森の中ケリンが先導を進み、マイとジェスが進んでいく。ジェスとは先日まで名前がなかった、ケリンとは血筋が無縁の雄花である。呼び名がないのは不便ということでシュウ君が命名した。


(昼前かぁ…もう少し早く付けないのかしら。)


 私はケリンやジェスにスピードを合わせて雲梯しているが…マイは実際もっと早く移動出来る。寧ろ、このスピードでは私の故郷の魔物から逃げ切るのは少々厳しい。やはり、生活してきた環境によって雌花は雄花より優っているようである。最も、マイは前世運動嫌いだったため…前世の経験というより150年故郷の森で生活し続けた経験が物を言っていた。暫くしてある程度日が昇ってきた頃、植物から声が聞こえてきた。


『ケリンさん。報告良いでしょうか?』

「なんだ。」

『カリンという雄花はご存知ですね。』

「ああ、あいつか。」

『先日から運用が始まっている村があると思いますが…彼処で男性に呼び止められたらしいです。』

「ほう。なんだ?人間が俺らに喧嘩でも売ったか?」

『いえ。どうやらその男性は研究者らしく…カリンを質問攻めにしているようですが…手を出すような事はしておりません。念の為、お伝えしようと思いご連絡した次第です。』

「そうか…あいつの人間好きには参った者だな。余計なことを言わなければ良いが…。」

「どうかしたんですか?」


 私はケリンが困ったような顔をしたような気がしたので聞いてみた。


「あー、まああまり気にしないでくれ。マイも知っている雄花なんだが…ちょっと人間好きすぎてな。まあ、シュウのために持ってきた食い物も大半はアイツが用意してくれたんだが…あまり人間に関わって欲しくないっていうのが俺ら全員の意見なんだが…まあ、こっちの話だ。」


 私は雄花達が人間を嫌っている事は知っている。とはいえ、人間に関わらないというルールが仮にあるとして根本から粉々にしている私は何なのかと自問自答していた。


「にしても大丈夫か。アイツはまだ植物とロクに会話出来ないし、戦闘経験も浅すぎる。まだおじいさまに自立の許可すら貰っていないのに好き勝手に人間の村に足を運んでいるらしいし…全く、心配な他の雄花が自分の縄張りにいる時には見ているから何とかなっているが…。」


 ケリンの独り言が聞こえる。ケリンのおじいさんの射程範囲に今回開拓された道や村は入っていない。とは言え、デレナール領側の元森の奥地は他の雄花達の縄張り圏内であった。村は平等を考慮し、2領のど真ん中に位置する。それゆえ、カリンがおじいさんの拠点から村に行くに当たり通り道は全部誰かしらの監視下にあるのであった。逆に言えば…デレナール領に元々あった道と開拓された道の交差点やその近傍については主要雄花の監視対象外である。寧ろ、人間が道を開拓しなければケリン達雄花と人間が鉢合うことも、存在を知られることも永遠となかったのである。雄花は人間を恐れ街道おろか街道近傍にすら行かないのであるから。


「会話出来ないということは…まだ生まれて数十年ですか?」

「ああ、それぐらいだな。ある程度成長した木々とは会話出来るみたいだが…まだそれぐらいだ。ああ、そうだな。植物達。カリンに伝えておいてくれ。今日の昼間前には着くってな。集合場所は行く前には伝えたから分かっているだろう。」

『了解しました。』

「待ち合わせしているんですか?」

「ああ、人間の村や道は極力俺は関わりたくない。だから、そこら辺はカリンに任せようと思ってな。まあ俺も着いては行くが…何度も行っているカリンの方がそこら辺は詳しいだろう。」


 どうやら適材適所の様である。前世の私は得意分野の仕事が一切出来ず苦手な事ばかりを押し付けられて生きてきた。そんな記憶が何故か私の頭によぎった。


「なあ、一回休憩しないか?」


 大分進んだところでジェスが音を上げた。まあツルを使った移動はエネルギーを有する。それは雄花雌花同じ。無理して突っ込んで魔物に襲われたらお仕舞いである。


「そうだな。マイ。一回休むか。」

「そうしますかね…シュウ君も縛られっぱなしだと疲れそうだし。」

「人間ってそんなに脆いのか?一番何もしていないじゃないか。」

「シュウ君は大丈夫?」

「うん!僕は平気!お姉ちゃん、ありが…」

『緊急です!』


 シュウ君が私にお礼を言おうとした時に植物から警告が聞こえた。


「何だ?」

『カリンという雄花が人間に襲われています。』

「何だと?!さっき聞いた研究者の人間にか?」

『いえ。寧ろ彼はカリンを守るために身を犠牲にし重症とのことです。』

「他の雄花はいないのか?そっちに連絡出来ないか?ここからではまだ距離がある!」

『それがですね…元々あった街道に随分近いところで襲われた様でして…他の雄花達からも全員距離があります。寧ろここが一番近いかと…。』

「く…とは言え…って、マイ!何処へ行く!」


 植物の報告とケリンが動揺している間にも、私は気づいたら襲撃ポイントに向けて雲梯で突っ走っていった。雄花2匹をおいて…背負ったままのシュウ君を連れて。

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