雌花の謎
「俺が言うのも変かもしれないが…お前ら魔物だろう?ここに人が住まう村がある。道も人が通っているだろう。看板には村や道を通れば俺ら人を襲わないような記載があったと思うが…本当なのか?」
「それは本当。」
「何故だ?お前の体系的に俺を食えば数日は持つだろう?」
「それが出来たら誰も困らないよ。村や道の人を襲えばおじいちゃんの命令に背くことになる。おじいちゃんの命令は絶対。更におじいちゃんに人を襲わないように言ったのは間接的かもしれないけどデレナール領に住んでいる雌花なんだ。契約違反していない人を襲ったら大問題になっちゃう。」
シュバレルは腕を組んだ。この魔物の生態系も調べようと思っていたが…話を聞く限り前例がないのである。彼がおじいちゃんと言ってるのはまあ恐らく、カリンの親とか祖父とかそう言う感じだろう。まあ、女王蟻とか女王蜂とかがいるぐらいである。魔物にもそう言ったものがいても問題はないとは思う。だが、オスメスと判断してその長よりメスが優位に立つと言うのはあるのだろうか。そして、その彼曰くの雌花は彼らが無鉄砲に人間を襲うことを禁じている。人間であるシュバレルにしてみればそれはありがたいことではあるのであるが…看板の中には、彼らはそこら辺のハンターでは手も足も出ないぐらい強いと書いてあるものもあった…魔物とは人間を無差別に襲うものではないのではないか?テイマーの魔物とかそう言うのを除く限り…。
(うむ。ますますその雌花に会ってみたくなった。雄花と雌花の違いだけだ。恐らく会話も出来るのだろう。何故そこまでして彼らを支配しているのか。何故、人間に肩を持つのか…聞きたいことは山ほどあるなぁ。)
シュバレルは頭の中で笑みをこぼしながらカリンに言った。
「すまないな。色々聞いて。僕はそろそろデレナール領へ向かおうと思う。カリンは定期的にここに来るのかい。」
「うん。」
「そうか。また会えると良いな。じゃあな。」
シュバレルはデレナール領へ向かおうと足を進める…と、後ろからカリンがついてきた。
「お兄さん。えーっと、一緒に行っていい?」
「え?」
「か、勘違いしないでよ。別に惚れたとかそう言うわけじゃないから。あれ、僕のお兄ちゃんがお昼前までにはこっちに来るって言っているんだ。で、集合場所が開拓されたこの道と既存にあったデレナール側の街道の交差点。だからそこまで一緒にどうってこと。」
この魔物は雄花というからオスのはずなのだが、外見を見る限りどうみても女の子なのである。そして若干不貞腐れている表情が可愛すぎた。シュバレルは色々な意味で罪悪感に囚われるのであるが…そのまま目的地に向かって突き進むのであった。
「これは…」
「この道を作るに当たって、トンネルを作ったみたい。確か魔物使いの魔物達が掘ったんだって。僕らは植物の魔物だから他の魔物にも襲われて食い殺されちゃうことも多いんだ。だから、僕は直接関わっていないんだけど…ここを掘るときに色々トラブルがあったんだって。」
「そうなのか…さっきの村と言い、この道と言い…色々大変だったんだな。」
「そう思うなら人間が僕らの拠点を通る道なんて作らなければ解決なんだけどね。まあ、僕は人間と話してみたかったし…僕は満足といえば満足なんだけど。」
彼らはトンネルを歩き進んだ。かなりの長さがあったと思うが…無事抜けることが出来た。中は真っ暗闇のため、松明が置いてありご自由にとのことのようである。
「あ、お兄さん。良いこと教えてあげようか。」
「なんだい?」
「お兄さん雌花に興味があるんだよね。」
「あー、まあな。研究者として雄花を見たら雌花を見たいというのはある。…欲を言えば解剖だが、人間同様自然死しない限りそのような事はしないから安心してくれ。」
「うーん、雌花が殺されたらここら辺に住んでいる…というより、雌花が住んでいる領地の人間ぐらいの範囲で全員殺されると思った方が良いよ。今だったらお兄さんも対象内だね。」
「恐ろしいな…。」
「お兄ちゃん達の死骸かぁ。うーん…見た事ないなぁ…いや、見たりした時には僕も魔物か何かに殺されてそう。」
カリンは苦笑いしていた。この魔物が想定以上に自身に協力的なのは驚いた。何か意図があるんだろうか。
「でね。お兄ちゃんと待ち合わせしているって言ったけど…お兄ちゃん、雌花も連れてくるって言ってたよ。だから僕と一緒に来ればデレナール領に行かなくても雌花に会えるかもね。あ、雌花にはちゃんと名前があって…マイ、だったかなぁ…確か皆そう呼んでたと思う。僕も名前なかったんだけど、人間って不思議な生き物で名前を付けたがるみたい。僕もあの村に何度も行っているうちに名前を聞かれちゃってね。お兄ちゃんに相談してカリンって名前を付けたんだ。」
「マイ…か。…うん?!」
シュバレルがマイという名前を聞き物思いにふけながら覆い茂る木々を見た時、日光の光に何かが反射した。