商売をする魔物
(ここが2領の間に位置する名もなき村か…)
ケリン達が拠点としている住処からある程度離れたところにはここ数年で完成したまだ名も無い村がある。現状、村長が決まり運用が始まったばかり。領間で村名を決める話も出て来ているがまだ纏まっていない。目的としては2領の物資の売買等を目的としているが…最近見つかった新種の魔物が住んでいると言うこともあり観光目的にも使えないかと言う案も出ている。勿論人間にとって有害な魔物であれば観光どころではない。駆除しなければならない。しかし、デレナール領でさえテイマーがいると言うぐらい魔物イコール全部悪と言うわけでもないのである。
(確かこの村のそばに生息する魔物は人間で太刀打ちするのが困難と聞いたな。うーむ、研究心が激る。)
この名もなき村で一服しながら、魔物研究者のシュバレルは心躍っていた。シュバレルは今デレナール領に向かう最中。理由は単純明快、魔物研究者としてテイマーが最も住まうデレナール領は一度は行ってみたい場所だったからである。彼ももう時期30。研究が安定するまで身動きが取れなかったが漸く念願が叶うのである。
(しかし…村の住人の話では時折奥に生息する魔物がこの村に売買をしに来ると行っていたが…魔物とはそんなに頭が良い生き物だったのか?)
シュバレルはこの村に来る途中にある看板を思い返しながら考えていた。詳細はあまり覚えていないが、ここには新種として命名された「アルビトラウネ」…原種で「アルラウネ」と言う魔物が存在するが、それの突然変異種ではないか?かつ行動が人にあまりにも近すぎるからと言う意味で名付けられたとのこと…が見えないところで至る所に住んでいるとのこと。また、奴らは村や舗装された街道以外に侵入した人間は容赦無く襲ってくるので決して村や道から外れないことと言う内容だけは鮮明に覚えていた。
(逆に思うが…奴らは道や村にいる人間は絶対襲わないと言うことか。いや、刺激すれば襲うだろうが…魔物の域を超えているとも思えるな。)
本来魔物は街道中を歩いている人間だろうが関係なしに襲ってくる。それをしっかり選別出来ると言うことは常識を凌駕しているのであった。
「ほい。会計を頼む。」
「ああ、全部で小銀貨2枚と銅貨5枚だ。」
「わかった。」
シュバレルは移動の休憩がてらに一服していた食堂を後にし、デレナール領に向けて出発しようとしていた。その時、
「あ、カリンちゃんいらっしゃいー!」
村の端っこの方からそんな声が聞こえる。特に意図はなかったが振り向いた時、目を疑った。そこには6歳ぐらいの女の子がいる。ただ、女の子ではない。スカートは履いているが…上半身は胸当て以外全裸。しかも左側の頭には顔の半分ぐらいであろうか、大きな花がついている。両腕にも葉っぱが着いたようなツルが3周ぐらい巻いてある。魔物研究者のシュバレルは直ぐにそれが人間ではないと悟った。
(まさか…あれが新種のアルビトラウネか?)
シュバレルは好奇心に勝てなかった。彼女の元に向かっていった。
「君。あーえーっと、ちょっと…」
「うん?おじさん?うーん、お兄さん?どうしたの?」
「あ…あー、僕は魔物を研究しているんだけど…、君がアルビトラウネなのかい…と言うより、仮にそうだとして…人間の言葉がわかるのか?」
「うーん、お兄さん。いきなり出て来て質問攻めは良くないよ?僕のお兄ちゃん達だったらお兄さん食べられちゃうよ?」
「な?!」
「冗談冗談。いいよ。聞きたいことなら教えてあげる。ただ、僕も新しく作ったこれを売りに来たの。だから歩きながらになるけど良い?」
彼女は手にツルで作ったのだろうか。丸い入れ物を持って来ていた。村人の話がよぎる。本当に魔物が商売をしているのであった。
「ああ、構わない。えーっとだが…俺襲われたりはしないか?」
「うーん、人間ってよくわからないけど…用もないのに相手を攻撃するものなの?」
「いや、そんなことはない。」
「じゃあ襲われないんじゃないかな。あ、だけどこの花だけはあまり関与しない方がいいかも。僕は人に慣れちゃったから見られてもいいけど…触られるのは嫌だし、お兄ちゃんの中には直視しただけで攻撃するのもいるから。」
「そうなのか。えーっと、見せてもらっても良いのか。」
「うーん、今は先にこれ売ってからでも良い?まだ僕も人間が何なら高値で買ってくれるか考え中だから。」
「わかった。うーむ。失礼だったらすまないが…6歳ぐらいなのか?いや、魔物の場合ぱっと見で判断するのは良くないが…僕が知っている6歳ぐらいの女の子とは立ち振る舞いとかが全然違ってだな。」
「ハハハ。」
「え?」
「僕みんなに間違えられるの。6歳ぐらいの女の子って。僕これでも30年以上生きてるんだよ?後僕雄花だから…人間だと男だよ。」
「なんだって?!」
あまりの奇想天外にシュバレルはびっくり仰天してしまった。




