不審者
「お姉ちゃん。お腹空いた。」
「あー、もうそろそろ夕方か。ここら辺で休める場所がないか植物に聞いてみるね。」
「うん。」
適宜私も光合成しないと疲弊で倒れてしまう。シュウ君も餓死するわけにはいかない。植物の指示のもと、軽い洞穴を見つけ今日はそこで休息とする。厄介だったのは翌日雨だった。私なら気にしないが…植物に取ってみれば恵みの雨である…シュウ君を濡らしてしまうと服が濡れ風邪を引いてしまう。まあ、私も帽子や服着ているのであるが…。1日動けず翌日移動再開であった。
(食料持つかしら。)
栄光パーティーにちょっと助言を受け、携帯食を数日分持ち込んでいる。まあ、それだけバックも必要になるのでそれはシュウ君に背負ってもらってシュウ君もろとも私が背負っている感じである。携帯食のため、そんなお腹が満腹になるような物は持ち歩けない。栄光らにしてみればまあハンターとしての修行と言う考えなのだろう。まあ、それを全部私が運んでいるのはどうかと思うが。
(体力消費もあれなのよね。)
シュウ君はもう10歳。身長も私と同じぐらい。私は植物ということもあり、10歳ぐらいの身長とはいえ人間の体重より軽い。要は私はシュウ君という大荷物と食糧という大荷物を両方抱えて動いているのである。私のツルが引く力に強く、これぐらいで切れないとはいえ私の体力的には問題があった。まあ、魔物じゃなければ速攻くたばってしまうだろう。
「お姉ちゃん。お腹すいた。」
「じゃあお昼時だし、私も休憩がてら昼食にしますか。」
「うん。」
光合成しやすい場所を探し、そこで私は光合成をする。土は森の中ということもありまあ私にとってはまともである。回復には十分。ただ、シュウ君の携帯食には限界がある。シュウ君に食べ過ぎると食べ物なくなるとは言ってあるが…十分な量を食べれないというのは酷であった。
「シュウ君大丈夫?今更引き返すのは出来ないけど、お腹がどうしても空くなら人間が食べれそうな果実探してみるけど。」
「で、でも…お姉ちゃんがもっと大変になっちゃう。」
「うーん…」
シュウ君は優しい。本来テイマーは魔物を手駒のように使うものなのだが…まあ、マイがシュウ君のそばに居続ける理由もここにあった。ただ、私は優しさは身を滅ぼすということを知っている。シュウ君を餓死させてしまっては後味は悪い。補足であるが、ケリンさんもこっちに向かってきている。追加でどうやら人間らが開拓した地域では既に村があり、食糧もあるとのこと。お金も多少下ろしてきたし、そこで食糧調達と考えていた。まあ、贅沢したら学費が破産するので出来ないのであるが…。食糧を運ぶためのカバンは買ったものの服装は孤児院の服装。森の中を歩くような格好ではなかった。今更だが、孤児院にもシュウ君を連れていくと言ってある。
『姫様。よろしいでしょうか?』
「うん?どうしたの?」
『雄花が1人姫様の元に向かっております。受け入れる気がないのでしたらお逃げになってください。攻撃するのもアリだと思います。』
「あー、事前に援護をお願いしているから…念のため聞くけど敵意は無いよね?」
『それは問題ありません。』
「じゃあ待つ。」
『畏まりました。』
そしてしばらくして、私と同じような容姿の魔物が木から降りて来た。その瞬間私は「ミスった」と思った。理由は単純。私の知らない雄花であった。人間も顔の形は十人十色。私達も同じなのである。まあ、見かけは全員人間の女性なり少女なり女の子なりなのであるが。見かけ年齢は18歳ぐらいか。
「えーっと…君?雌花は。」
「誰ですか?」
「誰って…僕名前無いし。」
「…えーっと、じゃあケリンって言う雄花知ってる?」
「誰?知らないけど…君って雄花もういるの?」
「えっと?どういうことですか?」
「なんか甘い香りする!」
シュウ君が鼻をクンクンさせている。この雄花の花か?いや、違う気がする。
「ああ。雌花が何故か人間の食糧を気にしているとかどうとか言っていたからね。ほら持って来てあげたんだよ。」
この雄花はツルで作ったであろう簡易袋から甘い香りのする果実を持って来ていた。小さいが多い。
「おおー」
「シュウ君。知らない人から食べ物を貰ってはいけないって習わなかった?」
「えっと…だけどお腹…」
「毒は入っていないよ。それにその人間は君の魔物使いなんだよね。僕は君達を助けたいんだ。殺したりしないよ。」
「………」
私は漸く理解した。植物経由で重要な情報が流れてこない理由を。植物達の声が聞こえる魔物は全ての情報が流れてしまう。勿論、関係ないところにいる植物には情報は流れないだろうが…ここら辺みたいに私とケリンさんの拠点の中間地点では情報が流れるのである。それを盗聴されてしまっているのか。
(こいつ、ケリンさんを知らないとなると…あの拠点外の雄花か?それとも、人数沢山いるって言っていたし知らない雄花もいたりするのか?)
私は警戒する中…
「美味しい!」
「だろ。僕は別に食べないからいくらでも食べて大丈夫だよ。」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「お姉ちゃん?僕は雄花なんだけど…。」
食べてるしシュウ君!
「はぁ…万一があったら私容赦しませんからね。」
「うーん、警戒されちゃってるなぁ…雌花なんて生涯で一度でも拝めれば奇跡なのに…。」
「一応聞きますが、何故私が雌花だと思うんですか?」
「何故って、見れば分かるんだけど。」
「あ。」
丁度私は光合成中のため、帽子やら服やら全部脱いでしまっていた。モロバレであった。シュウ君は勿論このことは理解してくれている。珍しく今回は魔物はいないみたいである。
「シュウ君はある程度回復した?」
「うん。大分食べれた!」
「そう。まあ、お礼はするわ。ありがとうございます。」
「いえいえ。雄花だったら雌花を助けるのは当たり前さ。」
所謂レディーファーストというやつか。私はこの考えを嫌っている。いや、男性が女性を助けることに文句を言うわけではない。ただ、レディーファーストを女性優先と考える女性だと男を見下し始める。極論は男性イコールATMである。優遇されるからそれを利用し悪用する奴らがいるから私は嫌っているだけである。
「じゃあそろそろ移動しますか。シュウ君おんぶするから来て。」
「うん。」
私は帽子や服装を整え、シュウ君を背負ってツルで巻こうとした。
「何しているんだい?」
「え?うーん、彼私の魔物使いだから私が運ぶのは当然でしょ。」
「…自分で歩けば良いじゃないか。」
「彼は人間です。私達みたいにツルを使った移動は出来ません。彼の移動スピードに合わせていたら彼が餓死してしまいます。」
「ふーん。じゃあさ、僕が運ぼうか?疲れているんだろう?」
「却下。シュウ君は渡さない。」
「じゃあ、その子供が背負っている荷物だけならどうだ。」
「…シュウ君。シュウ君が持っている荷物をあの雄花が運んでくれるって言っているけどどう思う。渡した瞬間に逃亡する可能性もあるけど。」
「うーん、お姉ちゃん。このお姉さんはそんなことしないと思う。」
「はぁ…、シュウ君。知らない人は全員疑わないとダメよ。殺されたとしても文句は言えないんだから。」
シュウ君が許可をしてしまっている以上、私は逆らえない。荷物は某雄花に持ってもらい移動することになった。私が背負う量が減ったため、私の負荷は軽くなる。それゆえ、休憩のタイミングが少々減りスピードが出るようになった。
知らない人について行かないようにしましょう。何か貰っても決して口の中には入れないように。




