呼び出し
「こんにちは。」
孤児院のドアを叩く。後何回これが出来るのだろうか。
「あ、マイさん。シュウ君呼んできますね。」
このやり取りもそろそろ終わりを告げていた。
「あ、お姉ちゃん!こんにちはー。」
「こんにちはだね。」
孤児院からギルドへ移動する。その際気になることを聞いてみた。
「孤児院卒業目処って、後どれぐらい?」
「うーんとね。やっぱりギルドのカードに多額のお金が入っちゃってるから…もう卒業して欲しいって言われちゃってる。」
「うーん、マジか。学費とは言え行動早すぎたかな…。」
「うんうん。どっちにしても今までのお兄ちゃんお姉ちゃんも長くても3ヶ月残ったかそこいらだったから…多分お姉ちゃんいなかったらもっときついと思う。」
「そう。でもあれだよね。収入安定していないんだよね。」
「お姉ちゃんが時折嫌な顔するから…。」
嫌な顔と言うのは、採取依頼で薬草系をシュウ君が選ぶとき私は罪悪感がよぎってしまうのである。薬草採取即ち植物の殺害。人間換算だと、他人とは言え他者を殺しに行くようなものなのであった。シュウ君は私との付き合いが長い。それ故、私が嫌悪の顔をしてしまうとその依頼を受けるのをやめてしまうのである。私も気を付けているが…私を従魔にしてしまった弊害であった。
「お姉ちゃんってどういう依頼なら大丈夫?」
「あー、うんそうね…ほら私植物だから…果実とかなら大丈夫かな。本体も葉っぱをとるだけならまあうーん、と言う感じ。根こそぎだとちょっとね…ごめんね。植物にうるさい魔物で。」
「うんうん。お姉ちゃんに助けられたんだもん。それぐらい何とかしてみる。」
シュウ君は昔、親に売られ…馬車で運ばれているとき魔物に襲われ死にかけていた過去を持つ。それを私が助けたわけだが…これで良かったのか未だに疑問であった。直近の九死に一生でやった黄金リンゴ乱獲もシュウ君がいたから実施した感じである。この雰囲気だと共倒れしそうでどうしようもない。とか言っている内にギルドについた。今日の目的はギルドに行くより魔物の教育訓練講座である。私はもう飽きていた。大きなお世話である。まあ、それはあくまでマイだから…なのであるが。
(だるいから早く終われー。)
ムサビーネ夫人の講座を適当に聞き流し…
「あ、シュウさん。ちょっと残ってね。」
と、夫人が言うまでは思考は明後日であった。また講座の後呼び出される。
「あ、えっと…」
「簡単なヤブヨウよ。」
この夫人の放課後のやり取りで良かった試しがないんだよなぁ。
「さてと…学校は行けそうなのかしら?」
「えーと、お姉ちゃん…どうだろう。」
「シュウさん。あなたに言ってるんだけど。貴方もうハンターよね。魔物に頼るのはやめなさい。魔物はあくまでハンターに従うものよ。ハンターとして自立できる年齢なんだから自分で答えなさい。」
「うう…えーっと、これだけお金あればいける?」
シュウ君はギルドカードを見ながら言った。一応だが、ギルドカードにお金は書いていない。書いてあったりした場合、見せたときに問題が起きるからだろうか。
「どれぐらいあるの?」
「お姉ちゃん。金貨沢山あったよね?」
「うんまあ…その後のシュウ君の稼ぎもあるけど…50枚ぐらいはあるんじゃない?」
「はい?」
ムサビーネ夫人は唖然としてしまった。
「はい?じゃないですよ?学費どれだけかかると思っているんですか?」
「学費?グルトナ学校は学費無料よ。言ってなかったかしら。」
私とシュウ君ともに「あ。」と言う声が出た。仲良しである。ムサビーネ夫人が眉を上げたので私は反論することにした。
「だ、だけど…生活費がかかりますよね?シュウ君孤児院からもう追い出されそうなんですよ。」
「あー、そうね。失念してたわ。」
ムサビーネ夫人はこの伯爵領の主、リグルト・デレナール伯爵の妻である。お金なんて勝手に入ってくるし、生活費は全く考慮していないのであった。
「そうね。グルトナ学校には寮があるから…確か毎月小金貨3枚で入居出来るはずよ。5年行くとしても金貨18枚あれば十分ね。」
「入居だけじゃ困ります。シュウ君餓死してしまいます。」
「寮費に食事代を入れた場合は…いくらだったかしら。学生だから小金貨5枚プラスで行けるんじゃない?」
「えーっと、って考えると8x12x5ですか。金貨48枚?ギリギリじゃないですか。」
「足りてるじゃない。それに既に貴方達ハンターとして依頼を受けているんでしょ。その分の稼ぎもあるだろうし…まあ、問題なさそうね。」
相変わらずムサビーネ夫人は他人事なのであった。学校側から服やら教材やらが何処まで支給されるか分からないのである。これだから金持ちは困る。私は前世の経験上学校生活には長期休暇というものが存在するだろうと勝手に考えていた。要はその時に大量に稼がないと終わりということである。某日本ではその休暇時期は全部勉強しないと進学もクソもなかったが…進学云々の前に生きるために必死にハンターとして依頼を受けざるを得ないなぁと私は頭を抱えるのだった。…本来はシュウ君が考える内容なのであるが。




