2者の食い違いと及第点
「あ…ま、まあ…」
「なんでなんで!!僕いつも言ってる!勝手に危ないところ行かないでって!なんでお姉ちゃん僕の約束守ってくれないの!お姉ちゃん僕の魔物なんだよ!なんで!なんで!なんでよ!!!!」
「………」
私は喋ることが出来なかった。私は自分の欠点をいくらか分かっているつもりである。そのうちの一つに今回の事象は引っかかっていた。私は他の人と比べ、「危険」や「リスク」と言う概念が根本から違うのである。他者にとって「これぐらい…」に抵抗があって進めなかったり、逆に「これをするのはおかしい」を平気でやってしまうのである。今世に始まったことではない。前世からそうであった。それ故、周りとの意見の食い違いで苦しんだ過去を持っている。
「お姉ちゃんが死んだら僕はどうしたら良いの!僕お姉ちゃんに助けられたんだよ!お姉ちゃん死んじゃったら僕は僕は…」
シュウ君も黙った。彼も泣いていることはわかる。何が言いたいかは私自身なんとなく分かった。ただ、これで本当に良いのだろうか。私は自由奔放な生き方を望んでいる。これは前世も今世も同じ。前世は結局のところ、社畜で鬱になり…やりたいことすら全部打ち砕かれ人生に愛想を尽かしてしまっていた。今世はそれを拒絶している。シュウ君の言い分では結局互いを束縛するだけになってしまう。私のツルは相手を束縛出来る。ただ、物理的にも精神的にも自身を束縛することもシュウ君を束縛することも私は抵抗しているのであった。
「私が死んだらシュウ君はどうするの?」
「…僕も、死ぬ…。だって、だって…僕は、僕は…」
その時私は無意識に彼のベッドに乗り込んでいた。そして、彼を束縛した。腕で。
「シュウ君。それやったら私本当に死ねなくなるからやめて。私を地縛霊とかにでもしたいの?」
私は自身が不安になった時、誰かに抱いてもらえたら…と思ったことがある。前世男性とか関係ない。ただ、安堵したい場所がほしかっただけ。シュウ君も恐怖に怯えていたのだろうか…私にしがみついてきた。
「ヤダヤダ!やっぱりお姉ちゃんが死ぬのやだ!どっか行かないで!ねえ、お願いだからどっか行かないで!僕の魔物なんでしょ!それぐらい聞いてよ!お姉ちゃん!!!!」
私はもうシュウ君を撫でることしか出来なかった。はい分かりました…とは言えなかったのである。これは私の性格の問題。はいと言うことは自身の存在否定になってしまう。とは言え、いいえとも言えなかった。多分この子の心が壊れる。そんな気がした。暫く沈黙が続く。シュウ君は大泣きしてしまっている。私ももらい泣き状態。植物達も何も言ってこなかった。シュウ君がある程度落ち着いてだろうか。私は口を開く。
「シュウ君。私は昔からこういった性格なの。シュウ君が生まれる前からずーっと。だから、今すぐ私の性格は変えれないし…多分今後のこう言うことはあると思うの。」
「………」
「だからこそお願いしたい。私が間違っている…って思うなら全力で止めて。場合によっては殺しにかかっても良い。花さえ攻撃されなければ私はそんな簡単に死なないから。」
「…ヤダ。」
「………」
「殺すのなんてヤダ!お姉ちゃんもっと自分を大事にして!」
「…そうね…。そう言ってくれるのは貴方ぐらいよ。」
再度沈黙が続く。
「お姉ちゃん…お姉ちゃん…やっぱり僕の言うこと聞いてくれないの?」
「…場合によるわね。シュウ君。何度も言うけど、私は魔物よ。人間じゃない。まあ、人間魔物問わず考え方は違うから…全部は無理。」
「全部なんて言わない!だけど…お姉ちゃんが僕を置いていっちゃうのは嫌!」
「………」
私はシュウ君を再度撫でた。
「分かったわ。極力私も貴方を連れて行けるようには努力する。ただ、シュウ君。何度も言うけど私は魔物よ。本当についてこれる?」
「行く!僕はお姉ちゃんみたいに強くなる!だから、置いていかないで!急にいなくならないで!」
私は落とし所はついた感じがした。私は自由な魔物である。好きなところに行きたい。シュウ君が死ぬ100年なんて待てない。ただ、だったら今後はシュウ君を連れて行けば良いだけの話である。実際私は極力シュウ君を連れていってあげている。疲れた顔を見るのはあまり心地良くはないが…。数年前、同族の場所へ乗り込んだ際はシュウ君が死なないようにするため。今回は出来るだけ高速で行きたかったからだけである。まあ食糧問題とかもあるが…。多少制約がかかってしまうが…もう終わってしまったことはしょうがないが…これから気をつければ良い。彼を私に依存させるのはどうかと常々思ってはいるが…多分シュウ君も変わることはもう出来ないのだろう。だったら互いの妥協点で収束させる。私なりの結論だった。
「シュウ君。」
「うん?」
「今回遠くまで勝手に行って誕生日祝えなかったことは謝る。ただ、その代わり今年は初めてだけどプレゼント取ってきたの。2日遅れだけど。受け取って欲しい。…だめ?私を許せない?」
「………」
シュウ君は黙認した。私は待つ。それ以外出来ない。
「プレゼントって何?」
「見てのお楽しみ。きっと美味しいよ。」
「食べ物なの?」
「うん。どう?」
シュウ君は再度黙ったが…お腹の音だろうか。グーとなった。かなり時間が経ってしまった。多分本来の昼食の時間は過ぎてしまっている。
「あ。」
「一緒に食べに行く?孤児院の給食は私は食べれないけど…私のお土産なら一緒に食べれるよ?」
「う…うん!一緒に食べる!!!」
とのことで漸く、私にとっての地獄は幕を閉じるのであった。結局は私のコミュ力ではなく時間が物事を解決してしまったが…これで良かったのか私は未だに分からない。ただ、テイマーと従魔と言う関係はより一層固く確実になっていっているのであった。シュウ君は私の手を繋ぎ、私はツルでシュウ君の腕を巻き付ける。ミサさんがいたなら「また巻き数が増えた。リア充爆発しろ。」とツッコミが入ったかもしれない。とりあえず、寝室を2人で出て談話室の方に行った。
私は思います。違いに本当に信頼し合っていればどんなにぶつかっても絶対互いの結びつきは切れないと。逆に信頼しあえなくなった時…物理的にはどうであれ、既にその関係は終わっていると…。