栄光の敗北
(なんだこれは?)
時間は少し遡る。栄光メンバーのリーダー、リールは目の前の惨状に顎をはずしていた。
「これってキングエレファントよね…。」
アーチャーのウィリーは呆然とする。タンクのベイル、魔術師のメリーは全員唖然としていた。黄金リンゴの採取のために登山をしているのであるが…巨大な魔物、キングエレファントが巨大なツルに固定され身動き取れず状態になっていたのである。登山道そのものを妨害しているわけではないが、登山道から見える範囲でその情景が見えていた。キングエレファントは8mはある。ちょっと離れていてもちゃんと分かるのであった。
「探知魔法で魔物が引っ掛かってたけど、動かなかった理由ってこれかぁ。」
魔術師のメリーが愕然とする。彼女はマイが話していた植物の伝達に4人の中で一番興味を持っていた。植物から伝達が来るお陰で敵の奇襲に早く気付ける。自分や仲間のためにそれを何か生かせないか?最終的に、代わりとなりそうな探知魔法を習得…と言うより強化出来ないかとマイに話を聞いてから修行をしているのであった。範囲は1km弱だが…いや…優秀過ぎるが…奇襲される可能性が大幅に減りリール、ベイル、ウィリー共にメリーに感謝していた。ただ、あくまで相手が人間かそれ以外かと言った判定しか出来ていないと言う課題があった。
「これやったやつも魔物だよな。」
「多分な。…心当たりがあるのがあれなのだが…。」
前に、マイが狩った魔物を運ぶ手伝いをしたことがある。その状況と大変似ていた。
「私もあるけど…マイちゃんここに来てるの?」
「あいつの魔物使いはハンターじゃねぇ。狩りに来る意味はないと思うが…。」
栄光メンバーは全員マイやシュウと適宜交流していた。花の蜜を貰ったこともあるが…見かけが幼い二人がギルドに定期的に来ていることに対し、他のハンターより心配していると言うのもあった。
「あれ、探知魔法に2つ何か引っ掛かったわ。」
魔術師のメリーが言う。このメリー、栄光メンバー唯一のCランクハンターである。他は全員Bランク。とは言え、年齢は漸く20歳を越えた辺り。更に探知魔法自体が低レベルの魔法と言うわけではないと言うこともあり非常に優秀な魔術師だった。Cランクハンターである理由も実践数不足と言うだけである。
「2つ?敵か?」
「人間じゃないと思う…うーん、相手も動きを止めたみたい。勘づかれたかも。」
「相手はどれぐらいの場所にいるんだ?」
「うーん1km弱かなぁ。私の探知範囲に丁度はいってきたみたいだし。」
「この距離で気づく魔物か。かなり高レベルの魔物の可能性がある。警戒を解かず、万一があったら言ってくれ。」
「分かったわ。」
リーダーのリールが指摘し、メリーが応答する。登山道は紆余曲折している。そして登る方向がたまたま探知魔法で検知した方向だった。警戒しながら進んでいく…これが運の尽きだった。世の中知らなかった方が良い場合の時もあるのである。
「ヒャ!」
アーチャーのウィリーが悲鳴を上げた。何事かと残りのメンバーが彼女を見ると…足元に太めのツルが絡んでしまっていた。
「こ、これ何!」
「今切ります!」
メリーは炎魔法を放ち、ツルを燃やした。
「熱い!」
「おいバカ!火傷するだろ!」
リーダーのリールは剣を抜きツルを叩ききった。メリーは実力があるが経験が浅い。トラブルに対し、脳筋になってしまう悪い癖がある。
「あ、え?!」
今度はメリーにツルが巻き付いた。
「く…」
リールが再び切ろうとしたとき、自身の足も縛られていることに気づいた。
「なんだこれは?!」
知らぬ間にベイルの足にも巻き付いていた。
「くそ、かてえ!」
ベイルはタンクである。腕も4人の中で一番強い。しかしそれでも引きちぎろうとしても切れない。
「キャアア!」
最初にバランスを崩し転倒したのはウィリー。転倒したのが原因で手やら体やらを固定されていく。
「ウィリー!」
メリーにとってウィリーは同じ女性ハンターとして親密だった。覆い被さるように体を動かす。
「駄目だ!お前は魔術師だからそんな方法では…」
とか言っている間に、メリーも地面に固定されていく。残り2人の男性も腕前をどんなに発揮したところでツルの大群には勝てなかった。
(俺らはここで終わりなのか…)
リールは身動きが取れなくなりながら人生を振り返り始めていた…栄光結成時の記憶、追加メンバーとしてメリーを迎え入れたときの記憶…その時不思議なことが起こった。確かに全員ツルで束縛されていることには変わり無いが、束縛されながらもツルで体を誘導されている。あくまで絞め殺すような動きではなく、4人を背中合わせで座らせる形に変えるかのように。動かされた後足を地面に固定されたが…このツルは自分達を殺そうとしているようには思えなかった。
「このツル一体なんなの?!」
メリーは愚痴っているが…逆に言えば全員愚痴るぐらいの余裕はあった。
「リーダー。ねえこれって…」
「………」
リールは少し考え、ある程度の声で発言した。
「マイ。聞こえるか。俺だ、リールだ。栄光パーティーの。何故こんなことをする。従魔はハンターへの攻撃は禁止だぞ?」
ツルはほどけることはしなかったが、少しして上の方から物音が聞こえた。栄光達の縛られた場所にもよるが見えたハンターはマイが木から降りてきた様子が見えていた。そして彼女の顔が真っ青なのも…。リールとウィリー側でマイは背負っていたカゴを下ろし土下座していた。マイの下半身は足ではなく根っこである。まあ、人間の足のようには動かせるのではあるが…本来根っこは擬似スカートの中なので見ることは出来ないが…それでも多少無理をしてでも土下座していた。