雌花VSハンター
「貴女って名前あったりするの?」
「名前ー?無いよー。」
「ふーん。」
「なんでー?」
「あー、気になっただけ。」
「じゃあお姉ちゃんはー?」
「私?私はマイって呼ばれているわ。私の名前というより、シュウ君が付けてくれた名前だけど。」
「シュウー?」
「私の魔物使いよ。」
「えー、良いなぁー名前欲しい!」
「欲しいの?」
「うん!」
「…名前つけたら契約とかそんなことはないわよね?」
前世の知識で名前をつけると自動契約されてしまうという話を聞いたことがある。魔物使いと魔物については名前を付けたら契約ということは無かった。まあ、ギルド登録で名前が必要になってしまったからシュウ君が命名しただけである。
「うーんー無いんじゃないー?知らないー。」
あーダメだ。なんで最近皆んな丸投げなの私に。
「でも名前欲しいー!」
「あー」
余計なことを聞いてしまったと後悔した私であった。仕方がない…。
「じゃあ、貴女はアースで。」
「アース?」
「貴女大地の妖精なんだってね。植物から聞いたわ。だからそれを英語にしてみただけ。」
「植物ー?英語ー?」
「私は植物なんだから、植物と会話出来るわ。英語については忘れて頂戴。ずっと昔の言葉よ。」
「ふーんー。まあボクアース!気に入ったー!」
昔の言葉と言う言い訳には無理があると思うが…この妖精数千年生きているが…まあ、妖精だからか…取り分け気にならないようであった。
「じゃあアース。私は寝るからここには入ってこないでね。」
「え?」
「私は1人で寝るの。寝てる間に何かされたくないから。ちゃんとツルで私が寝る周辺は塞いでおくし、入ろうものなら撃退するからよろしく。」
「うー…わかったー。」
マイは現状一緒に寝ることを許可した相手は物凄く少ない。妹のユイ、メイ…後は事故でシュウ君ぐらいであった。アースは仕方なしに地面に潜って寝たようである。マイの警戒心の強さはこう言ったところでは人を寄せ付けないと言う悪い方向に走るのであった。おいおいだが…この妖精、マイが忠告していなければ本当に襲撃していたと思われる性格であった。襲撃と言っても、花に手を突っ込み蜜を舐めれないかと言う感じであるが…。人間換算だと他人の急所に手を…やめておこう。そして翌日。私は起床し下山の準備を始める。
「あら、あの妖精は?」
『あそこの地面に潜っているようです。』
「流石大地の妖精なのかしら?」
私はくるくる回っている双葉を見ながら思った。
「ま、このまま放っておけば付いてこないかしらね。じゃあね、アース。」
私にして見れば気分で私を殺しかねない妖精を側におきたくはないのであるが…
「ちょ、ちょっとー。置いてくなんてお姉ちゃんひどいー!」
私が彼女を離れ、リンゴカゴを背負おうとしたらこれである。
「本当について来るの?言っておくけど、私人里に入るわよ最終的に。それでも良いの?」
「うーんー、その側に転移魔法設置して繋いでおくー。お姉ちゃんは会いに来るのー。」
「嫌よ。いつから私貴女の使い魔になったの?」
「えー。」
若干喧嘩ではあるが、どうこうしていても先へ進まないため、再び下山していくのであった。魔物が引っ掛かれば颯爽駆除である。しかし、世の中そんな簡単に行かないのが現実であった。
『姫様。左側から人間が来ております。』
「了解。」
私達は下山に向かっているが、ハンター達はリンゴを狙いに登っているのだろう。彼らは私みたいな距離ルートではなく、無難に登山ルートを使っているはずである。まあ、どっちにしろ狙いがリンゴであるかぎり放っておいて大丈夫である。但し、会いたくはないため右側へ舵を切る。
『姫様?右側からも人が来ているようだぜ?』
「え?」
植物の話を聞くと、どうやら登山道は複数あるらしい。リンゴがなる時期は一定期間のため、実力者が集まるとはいえ範囲も広いのだろう。リンゴがなる分布範囲が広いのも問題である。どこを狙うかによりスタートからゴール地点も変わるのであろう。マイみたいにツルを駆使して分布範囲を全部網羅する方がおかしいのである。
(挟まれてるのか…)
登山道同士はかなり離れていると植物から情報は入っている。両方を避けようとした場合…一度登山をしなおし右側か左側をぐるって遠回りしなければならない。あまりにも非効率である。真ん中を突っ切る場合だと、植物換算で互いに800mぐらいまで接近してしまう模様。
(うーん、人間だからなぁ相手は。)
人間は普通に考えて800m先にいる花の匂いなど関知できるわけがない。と言うよりサバンナとかでもない限り、そんな遠くで生き物が動いたところで黙視すら出来ないだろう。強力な魔物じゃないのであるから気づく方がおかしい。私は匂いで敵を釣らないよう帽子も被っている。
(まあ、問題ないかな。早く真ん中を突っ切ってしまいましょう。)
とのことで真ん中を突っ切ることにした。その結果…
『姫様。姫様から見て左側の人間達が姫様達に気付いたようです。』
「嘘?!」
あり得ない。相手は魔物じゃないし、匂いも消してるよ?!
『姫様の方を見て警戒して止まっているみたいです。いかがいたしますか?』
どうする?警戒していると言うことは向こうも襲われると思っているのだろうか?それよりこの距離気付くか?人間だよ相手は。ここ森の中だよ?
『姫様。どうやら少しずつではありますがこっちに近づいているようです。』
「マジで?!」
『迎撃しちゃった方がいいんじゃね?どうやら弓やロッドを持ったやつもいるようだ。遠距離攻撃してくる可能性もあるし。』
「うーん…」
私の人間襲うなと言う理性と身を守れと言う本能が戦っている。そして残念ながら本能が勝ってしまった。と言うより場合によったら炎魔法で燃やされたり頭の花を矢で射ぬかれる可能性もある。魔物としては当たり前の対応であった。
「アース。下山中断。離れないでね。」
妖精についてまどろっこしいとか思ってる割には何だかんだで仲間は守ろうとする私であった。
「ほーい。」
私は木の上に登り、植物から標的の場所を聞く。そしてツルで奇襲にかかった。
「アッツ!」
誰かを掴んだ感覚はあったが、炎で焼かれた感じがする。私は更にツルによるトラップを増やし縛り上げようとする。途中で何かに切られたような気がしたが他のツルを使って縛り付ける。暫くして、全員を束縛することに成功した。まあ、人間にしたら頑張った方だと思う。
(さてと…どうするか。)
今回は相手が全部悪いと言うわけではない。まあ、私の襲われそうになったら反撃すると言うルールに引っ掛かっただけである。
(殺すわけにもいかないしなぁ…とは言え、ハンターの可能性が高いからなぁ。このままハンターが帰らなかった場合、最悪私指名手配されちゃうかも…?)
反撃中は何も思わなかったが、いざ事が過ぎると一気に不安が押し寄せてきた私であった。ハンターが死んだとして原因が何処かの魔物ならあーあでお仕舞いかもしれないが、テイマーの魔物とバレたら最悪シュウ君に被害が被る。
(うーん、仕方がない…事情を話して何とかして貰うか…)
私は頭を抱えながら…ツル移動なので頭を抱えることは出来ないのだが…束縛したハンターたちのもとへ向かうのであった。後ろからアースも付いてきていると感じながら…。
先に手を出したら負けと昔よく教わりました。しかし、先に手を出されたら大体肉体か精神が殺されるのが受ける側です。後から何も出来ず死んでしまうのですが…何が正解なのですかね?




