「花」の意味
「メイ?どうしたの?」
顔色が悪い。
「お姉ちゃん…お腹すいた。」
「え?」
お腹が空く?私達は植物の魔物である。ちゃんとした水分を含んだ土と日光さえあれば何も食べなくても平気だし、お腹が空くなんて言う概念はない。梅雨みたいにしばらく曇りが続き太陽が見えなくたって、植物は枯れたりしない。私達も同じだから日光がしばらく出なくても平気。と言うより今日は快晴である。地面も表面は乾いているかもだが、奥の方は湿っているはずだし少なくとも私は何も問題ない。
(うーん)
よく分からないが、メイの顔をよくよく見ていると
(そういえば、花がもげちゃったんだっけ?)
メイの花があった部分は黄色い花びら1枚のみ。そしてそこの根元ら辺から水っぽいのが流れている。まあ、花の蜜であろう。
「花か。ねえ、聞こえてる?」
「私?」
「うんうん。草原の植物さんの方。」
『聞こえておりますよ?』
「メイの花って探せる?」
『姫様。それについてなのですが、先日現場を見た方からお伺いするに食べられてしまったとのことです。』
「そう…分かった。」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「うんうん。気にしないで。」
メイはまだ十分に成長出来ていない。だから、周りの植物と必ずしも会話できるわけではない。この会話については聞こえなかったようである。
「おばあちゃんに聞いてみようか。お腹が空いたときはどうすれば良いか。」
「うん。」
そして、おばあちゃんの木へ向かったが…予想に反して何も喋ってくれなかった。
(何?無視?どう言うこと?)
イラッとしたが、おばあちゃんもユイのことを考えているのかもしれない。とりあえず、自分が出来そうなこととして…
「じゃあメイ。私の花の蜜を飲む?ちょっとぐらいなら分けれるから。」
「いいの?」
「うん。妹の為だもん。お姉ちゃん頑張んなきゃ。」
と言うことで、頭を左に傾け溢れた花の蜜を左手ですくった。
「はい。」
「ありがとう!」
メイは美味しそうに飲んでいた。だだ、この悪夢は始まったばっかりだった。さらに数日後、再びメイが私の側に来る。
「お姉ちゃん。お腹すいた…苦しい…。」
そのまま座り込んでしまった。明らかに何かがおかしい。顔色良くないし…と言うより、今更感かもしれないが、メイの葉っぱが変色していることに気づいた。髪の毛は本来私達は緑色。まあ多分葉緑体でも入っているんだろう。ただ、メイの髪の毛は枯れ葉のように茶色くなりつつある。ブラジャーもどきの胸の葉っぱやツルも茶色く変色している。スカートもどきも同じく。私は悟った。メイはもう駄目なのだと。念の為、メイをお姫様抱っこしおばあちゃんの木の幹に寄り掛からせてあげた。私が出来る最後である。メイはこの後自分で動くことが出来なくなってしまった。葉っぱはどんどん変色し、最終的に枯れ葉となって崩れ始めた。
「…お姉…ちゃん…ごめんな…さい…」
その言葉を最期にメイは何も喋らなくなった。後々気付いたが、ユイの残った下半身も同じように変色し枯れていた。
「おばあちゃん…」
しばらく日数が経ち、おばあちゃんの木に声かけした。
「おばあちゃんも死んじゃったの…?私を1人にしないで…寂しい…」
その夜シクシク泣いた記憶が今でも残っている。しばらく泣いていると、
『394番目の子よ。もう良い。お主は十分頑張った。合格じゃ。』
なんだかよく分からないけど、合格と言われた。
「おばあちゃん!なんで、なんで喋ってくれなかったの!」
『394番目の子よ。それは妾も謝罪するのじゃ。ただどうなるか既に予想は出来ていてのぉ。声をかけようにも何を言えば良いのか分からなかったのじゃ。すまないことをしたのじゃ。』
「おばあちゃん…」
おばあちゃんの声もかなり落ち込んでいる様子だった。これ以上叫んでも誰も得をしない。私は気になる事を聞くことにした。
「おばあちゃん、お花がなくなった私達はどうなっちゃうの?」
お腹から上を食われれば人間だって間違えなく死ぬ。そんなことはどうでも良い。花が無くなったらどうなってしまうのか。既に見てしまったが、私の研究心が聞きたいと思っていた。
「394番目の子よ。お主の体は確かに植物じゃ。ただ、ちょっと構造が違ってのぉ。」
おばあちゃんの話によると、他の植物同様葉っぱと言うより葉緑体が入っている部分全てにおいて私達は養分を作っているとのこと。ただ、作った養分はそのまま使われるのではなく一度、花の蜜として蓄えられるそうである。そしてその蜜を再度分解し体に栄養を届けているとのこと。
『要はの。動物で言うところの心臓のような役割なのじゃ。多少の傷なら治るかも知れぬが、553番目の子のように損傷がひどいと、作った養分を再度体に送ることが出来ないのじゃ。じゃからその花は命であり急所であり絶対守らねばならぬのじゃ。』
メイの死因は養分を作れないではなく作ったや取り込んだ養分を体に送れないという、言わば対応不能の餓死であった。