大地の妖精と果実の木
「そうね…じゃあ、仮に私が魔物として…貴方はどうするの?逃げる?戦う?」
私は彼女が戦うと言った瞬間にツルで捕捉する気満々であった。既にツルを地面に差し込み、不意打ち準備さえ整えている。妖精はしばらく黙った後…
「ねえねえ。さっきの水どこ?」
と、突拍子の無いことを言い始めた。
「うーん、もうここにはないわね。」
「ないの??」
「無いわよ。何?作って欲しいの?」
「え?作れるの?!」
「やだけど。」
「え、なんでなんで?!作れるなら欲しい!ねえ、頂戴!!」
「はぁ…。」
私は作れない理由を簡潔に説明した。私の体力がもう限界。それだけで良いだろう。実際は体力と言うより精神力だが。
「ねえねえ!じゃあ、どうやって作るの!教えて、自分で作る!」
さっきまで怯えていたのに急に私のところまで飛んできて、そばを飛び回っている。
「私が魔物って怯えていたんじゃないの?」
「うーん。お姉ちゃん、多分ボク襲わないと思う。」
「どうして?私怖い魔物よ?」
「だってだって、今までボクを襲った魔物は不意に出て来て追いかけてくるんだもん!その度にボク逃げ仰せたり地面に潜ったり戦ったりしたけど…お姉ちゃん今だってボク襲わないもん!」
「はぁ…そうやって油断させて食い殺そうとでも思ってるかもよ?」
「それは無いなぁ…ボクが知ってる魔物そんな複雑っぽいことしないよー?」
たまに思う。シュウ君もそうだが、何故そこまで私は魔物として恐れられないのだろうか。まあ、見かけが可愛い10歳の少女というのもあると思われるが。世の中第一印象は大事なのであった。
「じゃあ、まあ私は引き続きリンゴ探しするわ。助言しておくけど…私ぐらいよ。魔物の癖に貴女を襲わないのは。私は植物の魔物。貴女を食べるぐらいなら光合成していた方が良いわ。じゃあね。」
そうして、私は次のリンゴの木へ向かうのだった。余計なことをしてまた大量に花の蜜を作ってしまったため、体力が大分回復している。精神力はオーバーキルなのであるが…私は大量発生したリンゴをカゴに詰め込み、まあ必要数揃ったかなというところで、カゴを開け中身の確認をしていた。そして、もう一匹…厄介なのがついて来ていた。
「なんでついてくるのよ。」
さっきの妖精である。
「だって、お姉ちゃん。強そうなんだもん。それにさっきのお水作れるんだったら一緒の方が良いかなぁって。」
「強そうって…私、魔物の食物連鎖で底辺の植物の魔物なんだけど。」
「じゃあ絶対強い!」
「は?」
「そんな底辺の魔物が、こんなところ自由に歩けるわけないじゃん。食べられちゃってるよ普通ー。」
ど正論であった。私は再度ため息をつく。
「まあ好きにすれば。私の気が変わって貴女を食べようとするかもしれないけど。」
「そうなのー?さっき、光合成の方がマシーって言ってたー。」
面倒臭い妖精だな!はいはい、もう好きにしてください。
「何してるのー?」
「リンゴを数えているのよ。」
「こんなに一杯?人間が定期的にそれ持って帰ってることは知ってるけどーそんなに持ち帰ってどうするのー?」
「貴女には関係ないわよ。強いて言えば、主人のためかしらね。」
「主人?」
「私は人間の従魔よ。それだけ。」
「魔物に全部仕事押し付けてるのー?」
「違うわよ。彼そろそろ誕生日なの。だから誕生日プレゼントよ。」
「…1個で良くないー?」
「全然足りないわ。」
「主人はリンゴマニアー?」
「妖精の癖によくそんな言葉知ってるわね。」
「差別は良くないよー。」
「はぁ。」
面倒臭い妖精である。まあ、もう適当に流して…数も121個あったし…帰りましょうかね。
「じゃあ私は下山するわ。リンゴが痛むと困るし。」
「じゃあ一緒に降りる!」
「は?」
「だってだって、お姉ちゃんのお水飲みたい!」
「なんなのよ。貴女は…。」
『姫様。待ってくださいなのじゃ。』
「うん?黄金リンゴの木さん?どうかしましたか?」
『姫様。その妖精を連れて帰るおつもりですか?』
「邪魔だから置いて行きたいんだけど…この雰囲気だと縛り付けないと一生ついて来そうね。」
「暴力反対ー暴力反対ー!」
『その妖精は大地の妖精じゃ。そして、その妖精がいるから土が発達し…恵まれたリンゴの木だけが実りを成熟出来る。じゃから連れて帰られると来年から誰も実らせることが出来ぬ…。』
「はぁ?」
そのことを妖精に問い詰めると…「うん?ボク知らないー。」だった。おそらく推論だが、こいつが住み着いた、あるいは通った場所だけ土が栄えるのではないか。で、これは妖精である。どうせ気まぐれで飛びまくっているのだろう。そう推論すれば、果実が成熟する木と成熟しきれない木がランダムで分散する理由も納得出来る。
「まあ、そういうことだから…貴女はこの森にいないとダメね。諦めなさい。」
「ヤダヤダ!ボクこの2800年ずっとここにいて飽きたの!それでねそれでね、こんな美味しいお水初めて飲んだの!作り方ボクが出来るまで絶対離れない!!」
一応言っておく。この妖精が言う水というのは私の花の蜜である。この妖精が作れたら逆に驚くわ。颯爽、一生ついてくる気だろ。