理解不能の双葉
『姫様。』
「どうしたの?」
『先程、姫様が光合成していた場所で人間と魔物が鉢合わせした様でして…人間は全員餌になった様です。』
「そう…。」
私は魔物である。ただ、前世人間である。また、今もシュウ君の魔物使い等人間と生活している。人間が殺されるのは後味が悪い。
「うーん、人間に会うの覚悟で魔物を駆除しておいた方が良かったかな…。」
『姫様。ここは森の中です。姫様にとって最善策は人間、魔物、共に会わないことです。』
「………」
私は黙認した。実際、人間に会いたく無いと言う理由で早急に逃げたのは私の判断である。しかし、その結果、人間の死体が出てしまった。それで良いのだろうか…。私は何が正しいのか分からなくなりながら、黙々とリンゴを貯めるのであった。
(うーん、大分重くなったけど…まだ足りないわよね…)
カゴの中には大分リンゴの数が溜まってきている。マイ含めこれだけの量を背負いながら運ぶと言えど本来ならば酷の量である。ただ、マイにはツルがある。このツル、何度も言うが引っ張る力には物凄く強い。そしてツルは別に筋肉でもなんでもない。要は、マイ自身でもう持ち上げれるわけがない量のカゴの重さでも、背負ってツルで雲梯すれば運べてしまうのであった。しかし、質量が大きくなると言うことはそれだけ、エネルギーを使うと言うこと。私は光合成をしながら再度考える。と言うより植物から声がかかっていた。
『姫様?大丈夫ですか?お顔が宜しくないです。』
『姫様。お荷物が多すぎます。限界ではないでしょうか?』
「はぁ…はぁ…うーん…」
限界はかなり来ていると思う。とは言え、体感リンゴは80~90程度。学費はまだ足りない。体力さえあればまだワンチャンだが…。黄金リンゴがなっている木の側の土は養分が物凄く肥えている。それ故、マイの体力回復量が通常より高かった。それに伴いマイがさらに無理をしてしまう原因になっていた。さらにもう一つ課題があった。
(リンゴ残り何処にある?)
元々、成熟するリンゴの数が少ないのである。まあ、かき集めればある程度数は行くであろうが。しかし、あらかた全部かき集めちゃったのではないか。そんな感じがしていた。実際、植物に聞いてみても次の目的地の返答がまだ来ていない。植物の伝言は光速ではない。更に数が減ったとなると情報が来なくなってしまう。
「うーん…うーん…」
光合成を浴びながら私は次の連絡が来ないか待っていた。と言うより、体力面も考慮し無闇に動くことももう出来ないのであった。
『なあ…ちょっと良いか?』
私が考えていると、ある植物が声をかけてきた。
「うん?」
『あーいや。さっきから姫様の前の方へしばらく進んだ先なんだが…ある双葉が腹へったって言っているんだ。』
「うん?」
双葉ということは植物だろう。ただ、植物にはお腹が減るという概念はないはずである。むしろ、そう感じているなら養分不足で枯れる直前だと私は考える。双葉ということはまだ双葉自体に養分があるはず。わけが分からない。
『で、どういうことか聞いているらしいんだが…どうやら植物の声が聞こえていないみたいでな。姫様。別に双葉だから害はないと思うし、ちょっとみてやってくれねえか。』
「うーん、結局襲ってくるーとかだったりしない?」
『そうですね。可能性は0とは言い切れませんが…姫様に敵意は向けないと思われます。万一があれば事前に我々からお伝えしましょう。』
「うーん、じゃあ行ってみる。」
私は普段から植物と共生して生きている。大半は植物に助けられてばっかりだが…。植物達の依頼とあれば、危険じゃない限り聞いてあげるのも私という植物の魔物の使命だろう。重たいカゴを背負い直し、ツルを使って移動していく。目的地はマイ換算でそれほど遠くなかった。
「…お腹…空いた…」
側までくると確かに声は聞こえる。しかし、声から分かったことは、植物の声ではないということであった。植物には勿論口は無い。なので、念…とは違うがまあ、本当の音声では無いのである。ただ、この声は明らかに音声であった。
「何処?」
側なのはわかる。そして双葉という情報。更に植物から案内された情報…総まとめで私は場所を突き止めた。確かに双葉である。ただ、双葉ではなかった。いや、双葉というのは葉っぱが2つというのは知っている。しかし、双葉は大抵種の形がそのまま出てくるので丸っこいのが鉄板のはず。しかし、この双葉は明らかに細長であった。いや、細長いならまだ良い。葉っぱが茎からではなく地面から生えている点も突っ込みたいが…地面の接点を境にクルクルとヘリコプターの羽のように回っているのはもう論外であった。
「何これ?」
「…誰か…いる…?」
どうやら私の声も聞こえているみたいである。ただ、このもう物体でいいや…何処から声を出しているんだろう。
「…お腹…空いた…」
「お腹ねぇ…食べ物なら…まああるけど、これ食べれるの?」
私はリンゴのカゴを降ろし、1個をそのよく分からないものに見せつける。
「…どれ…」
「これよ。」
「…どれ…」
「これ。私が持っているリンゴ。」
「…見えない…」
葉っぱがしゃべっているのに見えないという。私は引っこ抜いてやろうかと考えたが可哀想なのでやめた。