未熟と成熟
(うーん、朝かぁ。)
夜の森は真っ暗である。月明かりがあったから多少は見えたが、深夜の移動効率は明るいときに比べ格段と下がる。朝になった今がラストスパートであった。
(軽い光合成したらとっとと行きますか。)
休憩後、黄金リンゴがなると言われているエリアに直行した。そして目的地へ到達。無理しすぎではあったが大体想定した通りに到着した。
『姫様。恐らく先着のハンターでしょうか。ここら辺を捜索しております。目的は同じとはいえ関わらない方がいいでしょう。』
『姫様!姫様から見て右側の方で魔物が勘づいた可能性があるぜ?処理しちまった方が良いかもな。』
植物からも色々な警告が飛び交う。帽子は極力とらないで匂い漏洩防止しているが…光合成したいときには取らざるを得ない。まあ、疑似スカートだけでも出来なくはないが出来る限り光合成の効率をあげるためには仕方ないのである。
「で、黄金リンゴが成る木ってどれ?」
ぶっちゃけここら辺が生息地帯なら本人から聞きたいレベルである。私は植物と会話できる。今回ばかりは自分が出来ることをフル活用させて貰う。シュウ君の夢を叶えるなら従魔の私は多少身を犠牲にしてもやらなければならない。…シュウはマイに果実を取って金稼いで来い等とは一言も言っていないのであるが。
『目の前にある木がそうですが…』
『うむ?ワシに何か用か?』
目的の木が話しかけてきてくれた。植物と会話できるのはこういう時メリットがあった。そして気づいた。
「えっと…黄金リンゴってこんな小さいんですか?」
見た目はどう見ても5cmぐらいしかない。前世のリンゴを想像していたが…明らかに小さかった。色も緑色。熟していないんじゃないか?
『うーむ。今年は土の養分が少ないんじゃ。最も養分があれば果実も大きく出来るのじゃが。』
養分が少ない?うーん、今住んでいる街や拠点に比べれば良い土だと思うんだけどなぁ。むしろシュウ君いなければ私の拠点にしても良いレベル。…寝床が無さそうなのはあれだが。
「そうですか。えーっと、私黄金リンゴを取りに来ているんですが成熟している木とか知りませんか?」
『そうじゃのぉ。お主から見て右側の方角にある程度進むとあるかもしれん。今年はそっちの土が栄えていると話題になっておる。』
植物は植物同士で会話している。前世は聞こえなかったからどうだかは知らないが、この世界で私にとっての常識だった。
(土が栄えるねぇ。ある程度土がまともじゃないと果実が出来ないのかしら。)
私は推論する。とりあえず、植物達の案内のもと言われた方向に進んでいった。途中でハンター達が屯している場所があったので迂回する。やはり、稼ぎ時なのだろうか人が多い。まあ、とは言え過疎ってはいるのであるが。マイは1日強でついてしまったが、本来魔物とやりあったり登山道は急斜ではないのでジグザグに進んだりと本来3日弱はかかる。それに装備や食糧付き。マイみたいにちょっと遠足行ってくるぐらいの雰囲気で行く様な場所ではないのである。
(確か、ここら辺…お?)
私は果実を発見した。大きさは私が前世時代から知っているリンゴと同じぐらい。色は…まあ、名前の由来だろうか。本当に金色だった。5個成っている。小金貨25枚分。25万円の価値である。
(ウッフッフ…大金持ち〜。)
小金貨25枚ぐらいでそんなこと考えるのはマイぐらいだろうが…とりあえず、その木に声かけして果実を取った。
(うーん、どうやって運ぼうかなぁ。)
リンゴはまあ前世のリンゴもそうだが、地味に重い。5個となれば相当である。しかも、5個程度で学費が揃うわけがない。また、依頼内容に傷みがあると減額とかあった。それも吟味する必要があるのではあるが…
(まあ、数稼ぐか。)
私はツルを地面に刺し、かなり大きめのカゴを作った。背負う為。高さは私より若干高い。背負った時、カゴの底辺が地面につくように背負う場所を作った。背負った時に私の足が宙を浮くのは困るし、逆の場合重心が狂っている私は転倒してしまう。と言うより、とんでもない重さになると仮定して…背負った時カゴが宙に浮かぶ様では多分背負うことが出来ないと思っていた。私は筋力などないのである。移動だけならツルで出来るので今後は全部ツル移動かなと思った。