採取依頼
(今回ばかりは詰みよね…シュウ君説得するしかないかしら…)
私的に子供の夢をぶっ壊す親は毒親認定であった。私は前世結婚すらしていないが…もし子供がいるなら死なない範囲で何でもやらしてあげようと思っていた。まあ、その考えが甘すぎるのであるがマイは気づかない。とにかくシュウ君の夢を叶えるなら生活費と言う多大なお金を稼がざるを得ない。じゃあどうするかであった。
(はぁ。)
ハンターに年齢制限がなければお金を稼ぐ手段は一応あった。4年適当に稼いでいればワンちゃんあったかもしれない。足りなくても例えば薬草採取が習慣になっていればギリギリ行けたかも知れない。そう思うと色々後悔するしかないのであった。一応補足だがこれはマイの問題ではなくシュウの問題である。マイがここまで苦しむ意味が全く分からないのだが…マイは前世からの経験上他人の負荷を勝手に背負う悪すぎる癖があった。今回その癖がマイを地獄に苦しめることになっていく。
(ハンター依頼ねぇ。)
良いお金を稼ぐ方法がないか。ギルドに来たとき依頼をいつも以上に見るようになっていた。勿論どの依頼もハンターでなければ報酬金がでない。見るだけ無駄なのだが、どうしても見てしまう。現実回避の最終手段であった。
(そう言えば、後数日でシュウ君10歳よね…卒業準備と言っていたし…これからどうすれば良いのかしら。)
孤児院は10歳になったら卒業である。勿論10歳になった瞬間に孤児院から追い出されるわけではない。それでは全員死んでしまう。ハンター登録をして、収入が安定してきたら宿を取って完了と言った感じらしい。まあ、それだけでもまだ色々課題はありそうだが…孤児院も財政難。それ以上は出来ない現実だった。
(うーん。)
シュウ君はいつも通り椅子に座って休んでいるが私は不安すぎて座ることさえ出来ず依頼をじっと見ているのであった。取り敢えずはお金。そろそろシュウ君は10歳。色々考える前に稼げそうな依頼がないか見ているのであった…そして飛んでもない依頼を見つけたのであった。
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種類:採取依頼
内容:黄金リンゴ採取
詳細:以下の領域に分布している黄金リンゴを採取する。
報酬:1つ辺り小金貨5枚
(果実の痛み具合により減額あり)
条件:なし(Cランクハンター以上推奨)
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小金貨は1枚日本円換算で1万円程度の価値である。1個で小金貨5枚と言うのはぼったくりも良いところであるが…まあ、地図を見る限り山のかなり深いところ。恐らく人工的に育てることも不可能な希少種なのだろう。そして気づいた。私一人なら取りに行ける範囲だと。多分往復2日程度。勿論採取する時間や休憩時間を考慮しない場合だが。
「ねえねえ。」
『お呼びでしょうか?』
私は側にあった観葉植物に問い合わせる。
「この黄金リンゴってなんでこんな高価で売れるの?」
いくらなんでも高すぎないか?そう私は思っていた。
『ああ、ハンター達の話や現場の植物からも聞いておりますが、Cランクの魔物が頻繁に出るそうです。場合によってはBランクの魔物もとか。また、地図を見て分かる通り分布位置がかなり拡散している点もあるとのことです。』
「でも見ている限り今年初と言う訳じゃないんでしょ?大体場所特定できないの?」
『いえ、確かにリンゴの木自体は動きませんが…各々の木々に個性がある様でして人間が求める果実を実らす木は毎年異なるのです。また、リンゴを実らす数もマチマチ。その為入手困難になるようです。』
うーん、主観的解釈になるけど…まあ、結論から言ってどこに実るのかが想定不可能な挙げ句強力なモンスターが居座っていると言う解釈かな。まあ、それでも取りに行くと言うことはそれだけ美味しいか何かなんだろう。とは言え山のかなり深く。移動の労働力と食費代等も考えると1つ小金貨5枚でも大赤字な感じはするが…。まあ、実っている木さえ見つければ一気に小金貨数十枚となればトントンなのだろう。
(栽培園でも作れば良いのに。話を聞く限りだけだと。)
実を言うとそんな単調な話ではないとそのうち気付かされることになる。と言うよりこの依頼はマイにとって面倒事に巻き込まれることになる。私はその時はまだそのことに気づいていなかった。
「ねえ、その黄金リンゴだっけ?が成っている場所って教えてもらえたりする。」
『果実ですので教えて頂けると思います。とは言え、どうするおつもりですか?』
「え、決まってるじゃない。私、自分の力は時と場合には本気で使わせてもらうわよ。」
マイは昔から森の中で生活していた。植物とも会話出来る。そこいらの雑魚魔物など速攻駆除出来る。臭い消しとしての帽子もある。勿論採取したところでお金にはならないが…後数日でシュウ君はハンター登録が可能。その次いでにこの黄金リンゴとやらを大量に売り飛ばしてやる。卑怯とかは言わせない。こっちだってシュウ君を生かすためなら手段は選ばない。マイの理性に本能が勝った瞬間であった。
「シュウ君。」
私は休憩しているシュウ君に声をかける。
「お姉ちゃんどうしたの。」
「うん。ちょっと用事が出来ちゃってね。ちょっとの間この町を留守にするけど大丈夫?」
「え?…また何か危険なこと?」
「うーん…まあ、半々かな。」
「…お姉ちゃんは僕の魔物だよ。危険なところに入っちゃ駄目!」
シュウ君ももう時期10歳になる。更にムサビーネ夫人の教育も…本人は恐々受けているものの…大分身についてきている。私の好き勝手…はそろそろ終わりを告げていた。
「そうね。まあ、そこまで私は危険じゃないから大丈夫。ただ、シュウ君は連れて行けない。あくまで私にとってであって、シュウ君にとってではない。」
「絶対戻ってきてくれる?」
「それは勿論。まさかシュウ君私を疑ったりしている?」
「うんうん。だけど、昔怖かったから。」
昔というのはどっかのハンターがどっかのケリンと言う私と同族の拠点に喧嘩をふっかけて私が犠牲になったことだと勝手に思った。
「だったら平気。少なくともあそこよりは大分マシだから。まあ、3-4日だから…と言うよりシュウ君の誕生日には戻ってこないとね。」
私はそれだけ言うと、シュウ君の腕をツルで巻き連行していくのであった。シュウ君も不服はありそうだが、私にツルとは言え手をとってもらって嬉しかったみたいである。そして、翌日…私は地獄の旅を始めるのであった。