不足する生活費
「はぁ…あのババア…全くもう。」
中庭から帰り、シュウ君も疲れたとのことでギルドの椅子に私達は座っていた。私はもう恒例であるが机に突っ伏している。
「マイさん。相変わらずだらしなくて何よりです。」
「ミサさんは暇なんですか?受付に縛り付けておきましょうか?今なら、1分に付き銀貨1枚です。」
「ちょっと何言っているか分かりませんが、15分休憩ですよ。」
ミサさんは休憩時間、私達がギルドの机にいると大体やってくる。栄光パーティーのメンバーもギルドにいると声をかけてくれることもあるが…まあ、彼らはBランクハンター。ギルドにいる時の方が圧倒的に少なかった。
「それより聞いてくださいよー。」
「どうかなさいましたか?」
ミサさんが休憩とのことで椅子に座る。
「シュウ君。あの先生擬きから貰った紙見せてあげて。」
「うん!」
「貴女達は伯爵夫人のことをなんだと思っているんですか。」
「ババア。」
「鬼!」
「散々ですね。シュウさんも昔はお偉い方と言う態度でしたのに。」
「だ、だって…先生怖いんだもん…。」
「お気持ちはわかりますが…それをここで断言します?…やっぱり、子供の教育にマイさんは駄目ですね。シュウ君の教育係人選失敗してますよ。」
「そう?怖いものは仕方がないんじゃない?」
第三者目線ではマイの教育は甘いだった。と言うより、本人は魔物は怖いものと孤児院の子供に教えようと努力しているのに結果としては子供達は「魔物は人間とフレンドリーである」と勘違いしてしまっている。マイが全部原因で。これで良いのかどうかはわからない。まあ、とりあえず…ミサさんはシュウ君から受け取った紙を閲覧する。
「え、学校ですか?えーっと、私もこの学校出身ですが…生活費どうするんです?私は実家暮らしでしたが。」
「その言葉そっくりそのままミサさんに聞きたいんですが。無理じゃないですか?」
「確かに…うーん、とは言え、ムサビーネ夫人からこれを貰ったと言うことは貴族目線で気に入れられたんですかねぇ。」
「どっちでも良いですが…行かせたいなら補助金下さい。」
「マイさん。本音言って良いですか?」
「え、構いませんが?」
「マイさんいつから人間になったんですか?」
「え?私魔物ですけど…え?もしかして人間になってます?」
「違いますよ。普通魔物はお金なんて考えないでしょ。むしろ、そこら辺を考えるのはシュウさん…あーいえ、シュウさんでも若いので孤児院の先生じゃないんですか?」
「誰が考えても良いじゃないですか。シュウ君は私の魔物使いですよ。」
「立場が逆転しているんですよねぇ。マイさんいつからシュウさんのお母さんになったんですか?」
「え?違うの?」
「はぁ…もう良いです。」
ミサさんに投げられてしまった。残念である。私はシュウ君に聞いてみる。
「とは言え冗談は置いておいて…うーん、シュウ君。シュウ君は学校行きたい?」
「うーん、分からない。」
「マイさん。シュウさんは孤児院育ちですよ。判断出来ないと思いますが。何するかもよく分からないでしょうし。」
「じゃあ、ミサさん。説明してあげてください。卒業生なんですよね。私なんて150年以上森に住んでいたんですよ?それこそ分かりませんよ。」
「はぁ。まあ良いでしょう。費用面をどうするかの前に人生を考えることも必要ですからね。」
と言うことで、ミサさんが色々話してくれた。まあ、どっかのお受験学校とは違って…このグルトナ学校の場合、将来何をしたいかで学科を決め、そこで色々学び専門知識を得た上で…それにまつわる職業に就職するらしい。ハンターになるために武学を学んでもよし。魔法の道に進んでもよし…まあ、魔法については魔力の有無があるためある程度の水準がないと魔法学科には入れないらしいが…受付嬢の学科は無いが女性としての作法を身につける学科とかもあるらしい。男女差別とか何処かから聞こえそうである。
「私は魔物が好きだったので生態科へ行ったんですよ。そこで魔物について色々知識を経て、受付嬢になったんです。」
おまけであるが、学科とかの変更は認められているものの…どこぞの国とは違い全部の職業がキャリア採用らしい。要は、学校時代ある程度専門に学んだ分野以外の職にはつけないとのこと。日本で言えば、例えば数学を学んだ人は工場や弁護士等全く異なる分野は絶対無理ということになる。10歳のうちからもう決めるのかと思われそうだが、私の意見としては職業ミスマッチしてブラック企業へ行って鬱になるよりよっぽどマシだと思っていた。
「まあこんな感じです。シュウさんには難しかったですかね。」
「うんうん。僕学校行く!楽しそう!」
(楽しそうねぇ…)
マイは前世学校でボコボコに虐められていた。マイ自身、こう振り返ってみると前世何故生きていたのか甚だ疑問に思うレベルであった。
「だそうですよ。お金どうするんですか?私学費出しませんよ。これでも結構カツカツなんです。」
「えー。…まあ、それについてはミサさんおろか誰も期待していないから良いです。…さて、どうしたものか。」
私は手段を考えたが何も思いつかず…とりあえずここにボーッとしていてもしょうがないので、ミサさんが休憩を終了すると同時に私達も孤児院へ帰った。私は暫くまた地獄を見ることになる。と言ってもハンター襲撃や全面戦争とかではなく…シュウ君の今後について本格的に考えていた。孤児院の先生への問い合わせは勿論「不可能」一択。どうしてもなら、ハンターで大量にお金を稼ぐしかないとのこと。口で言うのは簡単だがそれが理論上可能なら孤児院の生徒も学校へ通っている人もいるはずである。なお前例はない模様。それが現実を物語っていた。