弱肉強食の実態
「そっちの方にいる植物さん達。私のツルを地面から出すからどっちの方角か案内して!」
ツルを地面に突き刺し、予想されるところからツルを出す作業。とは言えその前に自身が木から落ちたら終わってしまうため、まずは自身を木の枝に縛り付けてからの作業。このツルは意外に切れにくく切れやすい。引っ張る力には強いが…例えば、歯で噛み切ろうと思えば噛み切ることが出来る。勿論、地面から生えるツルは太さも変えれるので噛みきれないようにすることも可能。今回の場合にはある程度固定できれば良いので右手からツルを伸ばし木に体を結びつけ噛み切った。ツルは経験上、人間で言うところの髪の毛みたいな感じである。肩の付け根から抜こうとすればそれは痛いが、切る自体は問題ない。体を固定したのち、両手のツルを地面に向かって突き刺す。片手でも出来なくはないが、片手の場合地面から伸ばせるツルの数は1本まで。両手の場合何故か2本でなく無制限になる。まあ、各々は私の意志で動くのでそんなに大量に出したら制御出来ないけども。
「ここら辺?」
『姫様。もう少し奥のようです。』
「分かった。」
植物同士は密集しているため伝言ゲームのように情報を伝達することが出来る。視覚情報以外から手探りでものを探す場合、時間は掛かるが間違いなく安全。万一ツルを魔物に切られたり食べられたりしても私は死なないからである。余談ではあるが、髪の毛で例えたものの…痛みが感じないだけで触覚的な役割はある。要は触れたとか切られたとか何されたかは見なくても大体分かるのである。ここについては人間の叡智を超えてしまっているが、「私も魔物だから」で片付けることにしている。人間は視覚情報で蝶の性別を判断できないが、蝶自身は視覚情報で判断できる。そんな感じである。
『姫様。そこらへんだそうです。そこにユイ様のお体があります。』
「了解。」
植物の伝達スピードは伝言ゲームよりかは遥かに早いが、光のような速度ではない。なのでタイムラグはある。それも吟味し、手探りならぬツル探りをしていく。そして、葉っぱっぽい感覚と若干柔らかい…お腹のような感覚のものに触れた。
(多分これかな…)
抵抗するような素振りは見せない。その意味は薄々分かっているが、とりあえず運ぶことにする。運び方は簡単。ユイの体を縛り上げ、2本のツルを木の枝にかけて浮かばせる。その後、新たに別のツルを別の木の枝に引っ掛けてユイの体を引っ張る。そして、奥の方のツルを外す。地道な作業であるが、この運び方が私の出来ることにおける理に適った行為であった。時間はかかったが、おばあちゃんの木の上からユイの体が見えるようになってきたので、勢いをつけて草原の方へ放り投げた。私は両腕のツルを地面から外し、体の固定したツルをほどいて下に降りる。飛び降りると死ぬので、両腕で木の枝にツルを巻きつけ地面へ飛び、ツルをちょっとずつ伸ばしながら降りていく。
「メイ。ユイを連れてきたよ。行こう。」
「…お姉ちゃん。ありがとう。」
本音を言って行きたくないがユイの体を落とした所へ行く。行ってみて思った事は…いや、思考が停止した。お腹よりちょっと上を境に何もない。いかにも食いちぎられました、であった…。
「………」
誰も喋らない。悲しみとかそう言う話ではなかった。
(下半身は無事だったんだね…)
この状態を見る限り良く全部食べられなかったな。と、寧ろ別のことを考え始めていた。思考放棄である。メイは私の腕を掴み震えていた。多分さっきまで大泣きしていたし、もう泣く気力さえ残っていないのであろう。私は思考が完全に死んだ中で、ユイの亡骸を手で持ち上げよう…として、そんなに筋力がないことに気づいたが…お姫様抱っこをしておばあちゃんの方へ持って行った。メイも付いてくる。
「おばあちゃん。ユイ見つけたよ。」
『………』
おばあちゃんは何も喋らなかった。私は、ユイの亡骸をおばあちゃんの木の幹に横たわらせた。スコップも何もない状態でユイを埋めれるほどの穴なんて掘れない。要は埋めることも出来ない。私が出来るのはこれまでである。運ぶのに大分苦戦したと言うことがあり、既に日が沈みはじめていた。
「メイ。早いけど、今日はもう寝よう。おばあちゃんも何も話してくれないし、私も疲れた。メイも疲れたでしょ?」
「お姉ちゃん…ごめんなさい。」
「…謝らなくて良いよ。これが自然の摂理なんだから。」
私自身も心にポッカリ穴が空いてしまった感じだが、夢であるかのように寝床に入って寝転がった。寝床はいつも通り、おばあちゃんの木の根元部分。結構広いので、私と妹2人ぐらいが就寝するぐらいではまだ余裕があった。ただ、今日から1人いなくなる。
(どうか夢でありますように…)
そう祈るかのように私は眠った。そして数日後、いつも通り植物と会話していると肩を叩かれた。