領立学校
(あー、また同じような内容だぁ。)
最近私はムサビーネ夫人の講義を聞き飽きていた。最も、魔物使いは適宜新しいペアが出来たり解散したりと入れ替わりもある。その為、内容が重なることについて文句を言えないのも事実だが…講義を受けていてももう何も得られることはなかった。シュウ君は知らないが、私の意見である。
「では、今日の講義はこれにて終了します。あ、君達2人はちょっと伝えたいことがあるから残りなさい。」
「あ、はい。」
シュウ君がムサビーネ夫人に指示されていた。何かやらかしたか?まあ、私はもう授業なんて適当だがだからと言って問題を起こすような行動はしていない。シュウ君も同じ。あの伯爵夫人が心を読める能力があるなら別だが、人間である限りそんなことはないであろう。私達2人を除いて全員が離席した。
「さてと…あ、構えなくて良いわよ。別に説教とかそういう話ではないわ。」
「あ、うん。」
シュウ君はいつもながらビクビクである。この女性怒らせると怖いし貴族の妻だし、まあビクつく理由などいくらでもあるが。
「貴方達、これは知ってる?」
何か紙を渡された。「デレナール領立グルトナ学校」と言う文字は分かった。私は植物の魔物。人間の文字を読む機会など本来無いが、人間の街で生活していく過程でちょっとずつ身に付けていった。まあ、植物のフォローもあるが。シュウ君に至っては孤児院で勉強しているのでもう大抵は読めるようになっていた。難しい文字はまあ、無理だが。それはどの大人の日本人も漢字検定1級が早々取れないのと同じ意味である。
「学校?」
「そう。私思ったのだけど、貴方達はハンターになるより学校に通った方が良いと思ってね。丁度シュウもそろそろ10歳でしょ。」
「う、うん。もうちょっとで10歳。」
「だったら学校へ行くと言う選択肢もあるわ。ここデレナール領の学校は1つだけだけど基本的に義務教育なの。まあ、義務と言っても家庭の都合上等で無理な場合には無理していく必要はないんだけどね。」
「学費は?」
私は直球で突っ込んだ。第一孤児院の子供が学校に行けない理由はお金がないからである。シュウ君とて例外な訳がない。
「相変わらず魔物らしからぬ質問ねぇ。…学費は無料よ。領で生活している限り無料。まあ、学費だけだけど。」
私はある程度理解した。要は学校に行くだけなら無料である。逆に言えば、それ以外…衣食住は残念ながら有料だと。孤児院は衣食住は無料である。服も貸してくれるし、食べ物も出る。孤児院にいる間はそこで寝泊まりも出来る。じゃあ学生はどうか。学ぶ場は学校にあるだろう。他は?である。追求してみると、昼食は無償で出るらしい。…昼食だけでは困る。学校には遠くからでも通えるように寮もあるらしい。そこいらの宿よりは安いとのこと。要は有料であった。寮費とは別に食事もお金を払えば出ると言う話ではあるが以前問題である。
(無理じゃね?)
私は植物の魔物。服なんてどうでも良い。まあ、帽子は貰っているので好きに出来るが…服は孤児院の借り物だから返さなければいけないけど…とはいえ、魔物だから本来着なくても良い。食べ物なんて光合成をすれば十分。まあ、この街の土は枯れているので森で土から養分を吸わないとはいけないが…。住処は今でも森の中である。関係ない。ただ、これをシュウ君に当てはめたら即効詰むのである。即効で餓死してしまう。孤児院の子供が学校へ行けずハンターにならざるを得ない理由もここにある。
「うーん、保護者目線で言うと…シュウ君お金ないので稼がないと学校も何もないのですが。」
「いつから貴方は保護者になったの?」
「いつからでしょうね。で、学費0以前に学校は5年らしいですが…その間、シュウ君はどうやって生きていけば良いんですか?」
「どうやってって…そうね。まあ、親もいないんだし、寮暮らしなのかしら?」
「お金は?」
「…孤児院に通っているのよね。入学まで後半年あるから先生方に相談してみたらどう?」
あーだめだ。この貴族。自分が金持ってるから他人事だわ。孤児院は言わば人件費がギリギリのオンボロ校舎状態。子供達を見るだけでも精一杯なのである。相談したところで生活費用を出してくれるわけがない。むしろ、それが出来るなら学校卒業の15歳まで孤児院に通わせてあげてであった。それが出来ないから子供達は10歳から出来るハンターへならざるを得ないのである。
「一応聞きたいのですが…シュウ君がハンターじゃなく学校へ行った方が良いと判断した理由はなんですか?」
「あら、それは貴女が一番分かっているんじゃない?」
「…そうですね。」
シュウ君は剣を振り回したり魔法を放ったりするようなオーラが全くないのである。勿論ハンター低ランクなら薬草採取とか手伝いとかその程度で済む。とは言え、森に入れば魔物はいる。低ランクの場合、まあそんな危険な場所で薬草採取なんてあり得ないが万一は戦わないとアウトである。どっちにしろ、ハンターで生きていくならランクが上がれば魔物討伐は付き物。確かにシュウ君はテイマーであり、私と言う従魔はいるが…私自身シュウ君を危険地域に入れるのはゴメンであった。
「と言うことで、この紙は渡しておくわ。孤児院の先生方にも話して見て頂戴。半年間でお金を稼ぐ方法とかも身につけておくのもありね。」
それだけ言うと、ムサビーネ夫人は帰って行ってしまった。どうしようもない貴族である。半年で生活費を稼ぎ切れたらそれこそチートでもない限り無理である。学校生活は週5日。残り2日で何かしらでお金を稼ぐのであろうか。シュウ君が死んでしまう。ブラック企業中のブラック企業である。




