部下の引っ越し
『ご主人様!リスタルが暗殺未遂に遭いました!』
家族会議開いて居る最中に、ヘラから緊急連絡が入った。
「お父様会議中申し訳ありません、帝国で問題が発生した様です」
「それじゃあ、帝国まで行くのか?」
「ええ、現地の様子を見て来ます」
実の所は、慌てなくても良いのだ。
本物のリスタルは今家族会議に出席中なのだから。
魑魅魍魎が渦巻く帝都の皇宮にリスタル本人を置いてはいけない。
俺の都合でエイミーと離れ離れは嫌だろう。
数は少ないけどアンドロイドが居るのだ。
アンドロイドは影武者に最適だ。体型も顔も自在に変化できる。
リスタルの記憶や性格をインストールして居る。
多分実の親で有っても気が付かないだろう。
前世の医療技術位なら、事故に遭って病院に担ぎ込まれて手術を
受けても、医療従事者は気が付かないと思う。
ただし、遺伝子検査をされると厳しいかな。
此の世界なら、医療技術もそれ程は進んでは居ない。
もし不審死をしたとしても、司法解剖とかはしないだろうし。
疑惑とかも湧かないと思う。
それに、怪我に応じた演技も出来るし、毒にも対応可能だ。
致死量を超えると、藻掻き苦しみ倒れる様な演技が出来る。
アカデミー賞を貰える事も可能な演技力は有る。
帝都のガビアン家地下に転移する。
『ヘラ、詳しい状況を教えてくれる』
『朝食に出されて居た飲み物に毒物を混入して居ました。良く考えて
調合されて居ます。自然界にある毒物で、毒キノコに蛇の毒等ですね。
α-アマニチン ツボクラリン ジギトキシン アマニチンその他色々でした』
『混入した量にも因るけど、普通の人族なら数千人が死ぬような毒だろう?』
『そうですよ、アンドロイドの№Ⅰヌルだからこそ一命は取り留めて居ますが。
まあ、演技ですけどね。アンドロイドは毒物では破壊できませんね』
『それで、犯人は分かって居るのか?』
『ヌルが飲み物紅茶ですが、一口、口に含んだ瞬間に毒物を感知して居ます。
その瞬間に毒紅茶を盛大に吐き出して居ます。辺り一面に、飛沫が
掛かって慌てて逃げ出したメイドが居ました。多分犯人でしょう』
『そうだよな、普通の紅茶が掛かった位では慌てないだろうな』
『強烈な毒物ですから、飛沫が掛かっただけでも非常に危険です。皮膚や目に
掛かっただけでも危険な状態に成ります。三名が死亡しました』
『リスタルはどうして居る?』
『ヌル(リスタル)は、今はベッドで生死の分かれ目を演じて居ます』
『これは、良い機会かも知れないな。新設の斥候部隊の初陣にしよう』
『今訓練の最中ですが、優秀な物には魔法を習得させましょう。隠密活動には
魔法が必要です』
『前世の忍者風にバージョンアップをさせよう。短距離転移と空中浮遊とか
姿が消せる魔法が良いな。それと、通信手段を何とかしたいな』
『そうですね、情報収集が仕事ですから逃げる事に特化した魔法が良いです。
通信手段ですか?念話が使えたら良いのですが。ハルは特殊個体ですからね。
此の世界のモールス信号を開発したら使えそうですけど』
『モールス信号か、それは面白いけど。伝播手段が限られるからな。音だと
大きいと意味不明でも怪しまれるな。光も見られるから居場所が特定されるし。
異世界独自の魔法的な方法を考えてくれるか』
『了解いたしました』
屋敷の執務室に入る。其処には主のシュルツとボアルネ伯爵家の元将軍
ボリスが居る。
「リスタルが暗殺されそうになった様だな」
「はい、我々も先程知らせを聞きました。皇宮に居てお傍に居れば分かりますが何分レプニン家が主導権を握って居ます」
「お前達ではどうしようも無いな。其処で、ボリスお前がリスタルを蔭から
守れ。今訓練中の兵士が五十名居る。どう使うかはお前に任せる」
「はい、了解いたしました」
「それと、相手は毒殺と言う手を使って来た。皇宮に入るには武器は持ち込み難い。だが毒物なら隠しやすいし一番暗殺向きな手段だな。しかし、毒物の配合には色々な知識が必要に成る。優秀な薬師が関わって居そうだな」
「そうですね。私は田舎の地方出身で軍隊を動かす方が得意でした。暗殺者を
特定する事は不向きですが色々勉強に成ります。アドラ様よろしくお願いいたします」
「ボリス一度超優秀な薬師の所に行って見ようか」
ボリスを収納してフロル王国の王都上空に転移する。
ステルスモードでゆっくり降りながら人気の無い裏通りに着地。
ボリスは冒険者風の衣装を着せて居る。
久し振りに薬舗 マクレナンに入る。
今日はサンス商会のサンスが居ないので、表から入る。
「御免下さい、ジャンさんお久しぶりです」
今日は店番をして居た様でジャンさんは居た。
「いらっしゃいませアドラさん久し振りですね。薬草を持って来たのですか?」
「今日は特殊な薬の配合方法をお聞きしたくて立ち寄りました。何処か
人に聞かれない所は無いでしょうか?」
「それでは商談室でお聞きしましょう」
ジャンさんに案内されてボリスと二人で付いて行き商談室に入る。
中には応接セットが設えられた商談室に成って居る。勿論防音効果も
有るのだろうな。
「ジャンさん、先に情報料をお支払いします」
白金貨一枚をジャンさんの前に置く。
「ほう!情報は極貴重な物なのですね?」
「そうですね、仮の話をしますよ。フロル王国の王を毒殺する場合は
どの様な毒を用いますか?」
「ほう! ほう! そう来ましたか。無味無臭の即効性の毒を飲み物に
混入しますね。一口、口に含むだけで千回は殺せます」
「その様な毒物は一般の者でも簡単に手に入れられますか?」
「まず無理でしょうね。素材となる毒草を自分の手で手に入れられたら
良いでしょうけど、冒険者に依頼した時点で目を付けられます」
「その毒草は身近には無い物なのですね?」
「茸類なら身近で手に入れられます。毒草の調合の仕方にも極意が有るのです。
普通は毒草を足して行きますが、特殊な毒薬は毒草を掛け算する様に調合します。それに依って毒薬の効き目が飛躍的に上がります」
「その様な調合が行える薬師の方は、フロル王国の中で何人くらいいるのでしょうね?」
「片手の数程度かな。例えば、高貴な貴族の方が不審死をします。死に方で
薬師の特定がなされる場合も有る位に特殊な調合法が有るのです」
「と言う事は、代々の薬師の家系に因る一子相伝の様な調合法でしょうか?」
「其の通りです。毒を盛られて亡くなる。使われた毒物の特定も死相に現れます。
一番最高の毒は、穏やかな顔で苦しまずにですね。駄目なのは毒の性で喉が黒く変色する物です。
一目で毒殺と分かりますから」
「ジャンさん貴重なお話、ありがとうございました。もう一つ聞きたいのですが。
帝国にも優秀な薬師様は居ますよね?」
「帝国には、噂ですが闇の薬師組合が有るそうですよ。関わり合いには成らない方が良いですね。代々暗殺専門の薬師の集まりの様ですから」
「分かりました。近づかない様にします。本日はありがとうございました」
お礼を言って店を出る。ボリスは俺のボディーガード役を演じて居る。
ジャンさんも聞かない。
店を出てから二人で歩きながら人気の無い路地を探す。
「ボリスは、嫁も子も居るのだろう?」
「はい、居ますよ。帰りたいと思いますけど戦乱の世です。落ち着くまではと」
「それなら、俺が住んで居る領地に連れて来るか?」
「アドラ様!良いのですか!」
「お前は俺の部下に成ったのだ。遠慮はしなくても良いぞ。でも嫁と子が
嫌だと言ったら別だけど」
「領地はフロル王国ですよね。それなら嫌とは言いませんよ」
「良し、それなら迎えに行くか」
『ヘラ、ボリスの嫁と子を迎えに行くから転移座標を頼むよ』
『ご主人様、了解いたしました』
『58°41’49.11”N 94°06’17.88”W 高度千m入力完了』
転移した所は極北にはまだ少しは有る様だが、冬は寒いだろうな。
上空からステルスモードでゆっくりと降りる。
ボリスの家はヘラが知って居るのだろう。案内表示が出て居る。
海が近い海岸沿いに町が広がっている。
漁業が産業なのかも知れない町の様だ。
町の中心部に有る城がボアルネ伯爵家の城だろう。
城下町の一角にボリスの家が建って居る様だ。
人に見られない所を探してステルスモードを解除する。
収納からボリスを出して案内させる。
ボリスは数か月振りだろう、早足で家に急ぐ。
今の時刻は昼前だ、家の庭では中学生位の女の子と小学生高学年位の
男の子が遊んで居る。ボリスは茶髪なので女の子が父親に似たのかな。
ボリスを見た子供達は抱き合って喜んでいる。
その声を聴いたのだろう、家の中からボリスの嫁と思える女性が出て来た。
金髪の小柄な女性だな。男の子は母親似かな。
親子四人でボリスの無事を喜んでいる。
邪魔者は暫く近くの家の影に隠れて時間を潰す。
十分に家族のふれあいを堪能したのだろう。
「アドラ様、もう良いですよ」
「家族に話をしたのか?」
「ええ、この寒い国から出られるなら。暖かい国なら何処でも良いそうです」
「アドラ様ですか、私はボリスの妻のアリナです。娘のジアーナと息子の
アズレートです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく。ボリス家族は此処に居る人だけなのか?
ご両親は居ないのか?」
「アドラ様、この辺りは寒いので長生きをする人は少ないのです」
「そうか、荷物はどうする。家事持って行っても良いぞ。まあ、昼間は
無理だけど後で取りに来ても良いか」
「アドラ様、家も持って行けるのですか?」
「そうだな、フロル王国の辺境の男爵領だけど慣れ親しんだ家の方が
良いだろう」
「取り敢えず住む所が有れば良いですよ」
「それなら、行こうか。家は住む場所を見てから運んでやるよ」
「よろしくお願いいたします」
家族四人を収納してから、カリペド男爵領に転移する。
カリペド男爵領は移住者が多いので仮設住宅が多い。
急に移住者が来ても対応は十分に出来る。
ボリスは幹部クラス予定なので、お父様に紹介はしないと行けない。
でも慌てなくても時間は有るのだ、戦時中では無いからね。
今夜は仮設住宅で泊まって貰い明日からは自宅を置く場所を下見予定。
俺は、今夜は夜勤をする予定だ。
ボリスの家を引き取りに行かなくてはいけない。
辺境の小さな伯爵領。辺境伯領では無い、寂れた小さな町。
やはり、寒い北国では何か特産品でも無いと寂れるばかりだろう。
元々は何か其処に町が形成される理由が有ったのだろう。
カリペド男爵領の様な鉱石が取れる町が有るけど。
採掘をして居たら何れは掘り尽くして取れなくなる。
此の町にも同じような事が起こっているのかも知れない。
ボリスが居なくなった町だ、原因究明は必要無いな。
カリペド男爵領とは随分離れて居るから、当然な事に時差が有る。
多分三時間位は有ると思う。此方が夕方以降なら行っても大丈夫だろう。
転移してボリスの家に着いた。
夜の八時頃かな、人通りは無いな。家が突然に消えたら驚かれる。
変な噂が流れても良く無いからな。
コッソリとボリスの家を基礎事収納する。
そのまま、カリペド男爵領の自宅に帰る。
次の日にボリス家族を案内してカリペド男爵領を廻る。
男爵領内で男爵屋敷の近くは、都市計画が終わって居る。
余った土地は多くは無い。
「ボリス、住むのに希望は有るのか?少し離れては居るけど畑が近い所なら
庭も広く取れて家庭菜園も出来る場所は有るけど」
「そうですね、暖かい所なら畑で作物を作りたいです」
「妻も畑で何か作りたい様ですから、畑の近い所で良いです」
夫婦の希望を聞いて決まった所に家を出して置いた。
木造の二階建ての家だ。
「アドラ様の奥様は、エルフなのですね。良いなあ、お父さん僕も大きく成ったら
エルフのお嫁さんが欲しいです」
ボリスの息子が、嫁のアンジェラを見て言った。
「アズレート君、エルフの女性を嫁にするには難しいと思うよ。それにね、
君が亡くなってからもエルフの女性は長く生きるからね。悲しい思いを
させるよ」
がっくりと肩を落とす息子をなだめる、家族の姿が有った。
そうだよな、前世も女性の方が平均寿命は長かったな。
夫に先立たれた未亡人は多かったのだ。




