その7 どうしろと、この箱入り。
『どうしろってんだ!』確かに前回叫びました。
ちっくしょう!あの魚!
みちょれよ、この!つじつま合わせは得意(?)なんだ!多分。
みたく、がんばりました。
『いよいよ箱から取り出される箱入り娘★』
箱に大人しく収まっているはずも無く。
どのみち箱から取り出されるのが定め。
もしくは己から飛び出すか。
★ ☆ ☆ ★
バターンン!!と勢い良く扉を開け放つ。
しかも『属性・珍獣』の『分類・猛獣』であったとしても、女性のいる部屋に対して取るべき態度ではない。
普段の己では考えられない行動だ。
いついかなる時でも冷静に。それが宰相でもある自分の役割であり、身の置き方だと教えられてきたから。
「マチルダ・チェルンザ!!アナタって人は陛下に何をしたのですか!?」
怒りに任せて部屋に入れば、辺りには羽毛が飛び散っているわ、足元に花瓶は割れて粉々になった破片が飛び散っているわ、カーテンはあらぬ方向へ垂れ下がっているわの無残な有様だった。
何があったか等と改めて問わずとも、容易に想像が付く。おおかた力任せに暴れつつ逃げ惑ったのだろう。
まったく、父親が父親なら娘も娘だ。どれだけ煩わせてくれれば気が済むのだろうか。
出来る事なら今すぐにでも、地下の牢屋の方に案内してやるつもりだった。
「アナタは何を暴れて――っ!?」
うずくまるように身体を縮ませていた少女の様子がおかしいのにようやく気が付いて、怒鳴り声を途中で飲み込んだ。
「何があったのですか?」
顔を上げた少女の頬は涙で濡れており、しかもこすり過ぎたためなのか真っ赤だった。
「ラスがっ、急にっ、・・・っわたしに」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、少女が嗚咽を堪えきれずに漏らしている。その様は見ていて何とも苦しそうだった。
「陛下が!?」
恐るおそるその先を促がす。
慌ててしゃがみ込み、少女の肩を両方から掴んだ。覗き込むと、その大きなの瞳にまたみるみる涙が溢れ出す。
「赤ちゃんが出来ちゃったら、どうしよう」
言われた言葉に脳が処理できなかったらしく、数瞬身動き出来なかった。
な、なに!?
が、出来たらどうしようだって!?
『赤ちゃんが』
そう彼女の泣き声が繰り返す。
「ライザスっ、陛下――――――!!!!」
気が付けば怒りは彼へと向っていた。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
「何だ」
「こちらのセリフです」
脳しんとうを起こしてぶっ倒れた割りに、回復の早い陛下に詰め寄った。
流血もされていたが、傷は浅かったらしい。
それは何より。不幸中の幸いだろうと内心胸を撫で下ろしつつも、また違った意味で動揺が隠せない。
包帯を巻かれた頭を抱える、陛下に睨まれた。
「頭が痛い。大声を出さずとも聞こえている」
「当然でしょう。だったら、大声出させるような原因を拵えないで下さい。
頭が痛い?それもこちらのセリフです」
流石にあのままのマチルダを放り置くわけにも行かず、側に仕えるよう侍女を一人手配した。
必用とあらば医師を呼ぶようにとも伝えてある。
必用だったら等と思っただけで、頭が割れるように痛む。
思わず眼鏡を外して目頭を押さえ込んだが、痛みは引かない。むしろ増して行く。
「何だと?」
「陛下。マチルダに何をしたのですか!?大層泣いて取り乱しておりましたよ」
「それはいけない。あのまま一緒にいたら殺されかねないと思ったから、引き上げたのだが。
あのまま殺されれば良かったな。どれ、慰めに行こう」
「余計に泣かせる事になると思うので辞めて下さい!何が殺されれば良かったですか。物騒な」
「ふん。女が男を殺すといえば決まっているだろう?何を無粋な」
とん、とんと陛下は長椅子に身を預けたまま、ご自身の閉じた瞼を指先で叩いた。
女が男を殺すといえば『目で殺す』と言いたいのだろう。
要は色香で男を骨抜きにする女性を指すのだが、それがあの珍獣のこなせる技巧とは到底思えなかった。
「無粋なのは貴方でしょう、陛下!珍獣とはいえ、女性に何て事を!」
「マチルダは何と?」
「・・・・・・。」
一瞬ためらったが、口ごもりながらも先ほどの彼女の衝撃の一言を告げる。
その途端、陛下が勢い良く吹き出したのには眉をひそめた。
「そうか!それはいい。そうなったらいいな」
「何が!いいものですか!」
「何だ。嫌に突っかかってくれるな」
「当然です!」
一つも悪びれた様子の無い陛下の態度に、何故か無性に腹が立つのを抑え様が無かった。
「どう、責任を取るおつもりですか!?彼女を妾にでも据える気ですか」
「妾などとは!とんでもない」
「では、どうするおつもりですか?戯れに手出しをした事に対して責任は負いきれぬと?」
「それこそとんでもない。全力で責任を取るに決まっている」
「全力で、ですか?」
自信に溢れたその笑顔をもっと外交の場で振りまきやがれ、と内心では悪態を付いた。
こういう彼の笑顔の裏にある企みはいつだって破壊的だった。いつでも!
――いやぁな予感がした。
それこそ長年の付き合いのせいで察しが良くなったのか、単にその含み笑いの後にさんざら手こずらされてきたせいなのかは解らないが。
「そうだ。マチルダは正妻に迎えよう」
さも名案だとでも言い出しそうなその勢いに、誰一人として乗ることなど不可能だろう。
やはり彼は期待を裏切らなかった。
何が名案か。迷案の間違いだろうが!という罵倒も、内心で留め置けずに爆発していた。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
激昂する宰相もまた珍しい。だからといってそのまま放置する気にもなれない。
やかましくてたまらないから、事の顛末をかいつまんで話してやった。
クロードがまた違った意味で面白いくらい取り乱し始めたのも、そうそう拝めないといえばそうだが。
「はぁ?彼女はいくつなのですか?」
「確か十七歳だったな」
「そろそろ適齢期ではないですか!?親は何を教えてっ・・・」
「教えてないからあの様なのだろう。多分彼女が両親から躾けられたのは商人としてのあり方だけだろうな。
それはそれで教えがいがあると思わないか?あの様子じゃ未だに恋もしたことが無いのだろう」
「陛下。お戯れもほどほどにしていただかないと」
眉をひそめる小姑気質の宰相を適当にあしらいつつ、マチルダの元へと向った。
着けば部屋の前は何やらにぎやかだ。
侍女たちが数名、ひっきりなしに出入りしている。
「一人だけ付くようにと指示したはずですが」
クロードが不機嫌に言い放つ。
「その一人を誰に、とは指名しなかったのだろう?だから面白がって、
入れ替わり立ち代わりで付いてやってるのではないか?」
その通りだった。
「陛下、」
声を上げた侍女に目配せで静かにと伝える。
そっと中を覗き見ればマチルダを囲んで、侍女たちが集まって髪を撫でてやったり、お茶をだしてやったりと競って世話を焼いていた。
その傍らには当たり前のようにトニアが陣取っている。
「はい、チェルンザのお嬢さま。お菓子をどうぞ」
無言でマチルダは頬張りながら頷き、新たな菓子を受け取る。
「はい。これもおいしいですよ。哀しいときは甘いものが一番」
もう一方からも差し出され、マチルダはこくこく頷きながら受け取った。
両手に菓子を持ち、マチルダは律儀に両方をそれぞれ交互に口を付けている。
その様子はほほ袋のある小動物を連想させた。何ともかわいらしい。
「やあ、マチルダ。ご機嫌は直ったかな?」
そう声を掛けつつ進むと、マチルダが固まった。
今しがた噛り付いたばかりの菓子の破片が、ぽろっと口から落ちたのを見る。
それすらもおかしくて、愛しくて。
たまらず菓子を持ったままの彼女を抱上げていた。
「どうした?俺が聞いてるのだから答えなさい」
先ほどと同じ事を笑いながら告げた。
菓子を頬張ったままとあっては、返事など出来そうも無いのは承知の上でだ。
くしゃりとマチルダの驚きで強張っていた表情が歪むと、その明るい茶色の瞳が潤みだす。
その様子をただただ見守った。
ふいにマチルダが手にした菓子を、口に押し込んできた。しかも彼女の食べかけだ。
「わ・・・」
避けようも無いまま頬張る。
それはとんでもなく甘い。パイ生地にクリームを挟み込んだ焼き菓子。
見上げるマチルダはむぐむぐと必死の様子で口を動かしている。
この行動は菓子を頬張ったままで返事が出来ると思うのか、という訴えに他ならない。
確かに出来やしない。負けじとこちらも必死で飲み込もうと口を動かした。
お互い無言でその様子を見守る。
先に食べ終えたのは俺の方だった。
「!?」
それを見逃すことも無く、慌てたマチルダはもう一つの菓子を押し込もうとしてきた。
二度もおなじ手を食うかと難無くかわす。
代わりにそのマシュマロのような頬に、唇を寄せようとした。
「あのさー二人とも。皆が見てるって事をお忘れなく!」
トニアが呆れながら、茶の入ったカップを差し出す。
見渡せばしかめっ面のクロードに加え、何やら瞳をきらきら輝かせた侍女たちの視線を集めていたようだ。
まるで気が付かなかった。
『その6の感想。』
ラス、やっつけといたよ★苦情は受け付けない。
――じゃありません!
ぎょうこさん。マジで勘弁してください。
なかなか『ぱふぇ』何てつけただけある内容に持ってこれて、姉としては満足です。
行く行くはR指定しておく?
パスだ!受け取れぃ!!