その22 いつの間にか日が経っている事に気がついているようで、そうでもない箱入り娘。
お待たせしました!
そんな調子でラスの部屋に軟禁状態のまま早、三日目を迎えている――と思う。
ぐうたらしていると時間の感覚がおかしくなるってもんだ。
本当に、三日ほどで済んでいるのか謎である。
……ちなみに「軟禁なんて可愛らしいもので収まってるの、この状況? 監禁の間違いなんじゃ」という疑問符は封じ込め中だ。
ラスいわく、ワタシは絶賛取調べの最中らしいよ。
そんならあの三段腹をしょっぴこうよ、ねえ!?
ねえったらねぇ~?
しつこく訴えたがあっさり無視されて、取調べとやらが続く。
ラスの言う取調べは「犬と猫のどっちが好きか」だの「食べ物は何が好きか」だの「子供の頃に受けた授業で語学と数学どちらが得意だったか」等などのどうでもいい質問がこれでもかと続く。
勘弁してくれ。うんざり。マジで拷問だと思います。
でも黙っていると手が伸びてきて、ぎゅうぎゅうに抱きついてきたり、頬をふにっ・ふにっと掴まれるから答える事にした。
そのうち飽きるだろう、と踏んでいたのだが、ラスは無駄にしつこい。
ちなみに「猫が良い」と答えると「飼いたいか?」と訊かれた。
別に散歩の手間がないから楽でいいや、って理由で選んだんだけど。
食べ物はキライなものを答えた方が早いと思う。
ワタシは何でもよく食べるよ!
子供の頃も何も、今現在に至るまで得意科目は運動全般です。
言われなくても解ると思うけどー?
訊かれた事に答えてマチルダ、と優しいくも恐ろしい口調に注意を促がされる。
お金の計算は得意だよ! 商人だからね。
もうしつこいって言うか、もうそんな言葉では間に合わない感でいっぱいだよね★
そんな疑問符も絶賛封じ込め中だけどね、いい加減この状況の異常さに、無理やり封じ込めた蓋が持ち上がっちゃってますよ。
ガクぶる~!
だ・れ・か・た・す・け・て・!
柄にも無く、信号だか暗号だか祈りだかを送り始めていますよ。
この際、のろしでも良い!
誰か焚いて!!
・。・★・。・★・。・★・。・
戸口でラスとクロード先生が立ち話をしている。
何やら打ち合わせ中らしい。
軽く押し問答になっているのが伝わってくる。
「陛下いいかげんに」
「執務ならちゃんとこなしている」
「外交の方も」
「何のための宰相だ」
「本気ですか正気ですか陛下」
「当たり前だ。あと一日だ」
クロード先生がこちらを覗き込もうとするのを、ラスが邪魔するんだよ。
一体、どうしちゃったんだろうか。
ここの所、食事の時間になるとやって来るのどうしてなんだろう。
ま、別にいいけど。
食事を運んでくれる侍女さんたちに混じって、トニアも来る事が無いっていうのにさ。
あの裏切り者~! トニアのくせに。むかむか。
なのでラスを待つことも無く、お構いなしで昼食を始める事にする。
いただきまーす!
「おまたせ、マチルダ。俺が仕事なんか持ち込むからいじけたんだね。さあ続きを」
「何の?」
いじけたように映っているのなら、ラスの目は相当狂っている。
一体、どんなフィルターが掛かっているのやら。
怪訝に思いながらも、深くは追求しない事にした。
「もちろん」
お医者さんごっこ?
ぶふー!!
思いっきりむせたよ。
「まったく、クロードは野暮でいけない」
「嫌味眼鏡……じゃなかった。クロード先生にも立場ってモンがあるんだと思うな。うん」
「ふぅん?」
「な、なに?」
「……。」
クロードの肩を持つんだ。妬けるね。
耳元で囁くなよ!
ここここここ怖ぇえええええ!!!
ここはアレだ。うん。とにかく腹ごしらえをして、落ち着かねばならない。
空腹だとどうしても悪い考えに向っちゃうからね。
「いただきまーす!」
再び無理やり言ってから、元気よく食事をたいらげた。
・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・
「おはよう、マチルダ」
そうか。
ワタシに学習能力は備わっていなかったのか。
昨日の昼食以降の記憶がありませんよ。
このっ、また一服盛ったのか。
また、まんまと盛られちゃったのか、ワタシよ。
ぼんやりしてると本当に、ラスに捕食される日は近いと嫌で……絶賛封じ込め中。
「取調べは無事に終わったよ」
「本当っ!? 長かった~」
「つれないな、マチルダ。俺と一緒の時間をもっと望んでくれてもいいだろうに」
「なぜ? こんなに長い事居たじゃない。充分でしょ」
「全然」
何故にワタシが責められねばなりませんか。視線で。
おおぅ、目には映らぬブリザードの幻が朝日と供に訪れた。
体感温度がガクンと下がったよ?
・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・
一応、着替えてから部屋を出ても良いと許可が出た。
「やたっ! 本当にいいのね?」
「いいとも。ただし、このドレスに着替えてからだ」
「ええ~っ。また仰々しいドレスだね。こんなの朝っぱらから着なきゃなの?」
侍女さんたちが差し出すドレスは、薄淡いピンクでひらひらしていて、趣味じゃないやって感じだった。
「マチルダ。出たいんだろう?」
にっこり。
出たよ。王室悪徳スマイル。
逆らえるのなら逆らい続けてみなよ、でも後はどうなってもいいんだね?
――ねぇ?
「イエッサ! 着ますとも!」
ちくしょ~!
長いものには巻かれるしかない、可哀相なマチルダちゃんに、誰か救いの手を!
『いちゃこら、つづき。』
ティンコーってあんた。
あんぐり。
放置した私が悪いんだけどさ。
ぶつぶつ。