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その17 こんな時のための俊足なんかじゃない。


このままゴールまで 走り切りたいです。

 


 やがて会場全体から「おめでとうございます!」の大合唱輪が上がり始めた。


 か ん べ ん し て く れ !


 おまえ等の目は節穴か!?

 そうなんだな、違いないな?

 ただの木の板の、あの目みたいに見える節穴なんだな!?


 どこにぶつけたら良いのか解らない怒りの眼差しで、着飾った紳士淑女の皆さんを見回す。


 頼むから、この中で一人でもまともな思考を保っている奴はいないのか?


 必死で探す。


 だって、そうでしょ。

 でなけりゃ、どこをどうとったら「おめでとうございます」=「この求婚は受理されました、良かったネ★」みたいな逃れられない流れになるんだよ。

 こんなに怯えてマジでカンベンと全身で訴えてる乙女の心の叫びが解らないの。

 誰もわかってくれないの?


 だから誰っ、どこに乙女がって笑ったのは!?


 以上が意識を失いそうになりながらも、唸る拍手の中でたたき出した罵詈雑言よ。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 


 優雅にそれに応えつつ、さり気なくもしっかりと手を放さないラスに連行されました。

 ええ。しょっ引かれたという表現以外に相応しい言葉が浮かびません。


 連行先は広間の隅の控え室といった所だった。


 とはいっても帳が幾重かされているだけで、隔てている扉は無い。

 一時休憩所。

 王族専用だから、誰も部外者は近付いて来れない。


 ――はず、なんだけど。


 けっして広くないその場所に、見慣れた三人の顔もあった。

 苦い顔をした眼鏡に、物凄く場を占めているお父様に、一人で咽喉を潤してくつろいでいるトニアの三名。

 正直、二人きりにならずに済んでほっとした。


「お疲れ様~マチルダも飲む?」


 無言で奴の飲みかけのカップを取上げて、一気に飲み干した。

 飲まずにやっていられるか。

 何だろう。この変な雰囲気は。


「陛下は・・・まだ王位に付かれる前にある条件を出されていたのです」

「あっそ。いいよ聞かなくて!」


 厳かに切り出した眼鏡に瞬時に答えていた。

 ってか、やめ~~~い!!マジでマジで怖いから!

 舌を出しながら、自分の両耳を手で覆ってやった。

 聞きたくありませんのわかりやすい意思表示だというのに、べっりと剥がされましたよ!

 その肉厚の感覚。

 振り返ると意外な事にお父様だった。


「マチルダ。よく聞きなさい」

「お父様?」

「身分や階級で人を判じない国作りこそが、わがサンザス国の発展に繋がるとされてね。まずは王族がその手本となるべく行動を起こそうと仰られた。その条件満たした国づくりを目指して政治を行うから、それが納得行かないなら王位は継がない、前陛下の弟君に譲るとされたのだ」

「 だ か ら ? 」


 何だっていうのか。

 ワタシには関係ないだろう。


 そう言ってやりたいのに言葉が出てこない。


「そういう事だよ、マチルダ」


 お父様がたわんだ首のシワをたぷたぷ言わせながら、頷く。

 トニアも、まっ・そういう事だねと頷く。

 クロード先生までもが!


 振り向くのが怖い!

 そのまま壁際に、にじり寄る。

 そしてタイミングを見計らって、今入ってきた帳を飛び出した。


「そ、そんなワタシの意思はまるっきり無視かよおおおおおおお!」


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 


 おい、逃げたぞ!


 あ~、マチルダ。無駄だと思うけどがんばって~。


 (ちっくしょう、トニアめっ!あいつもグルかよ!?)


 走りに走ってひた走る。正門目指して一目散。

 ちくしょう!ドレスじゃなきゃ、っもっと早いのに!


 それでも自分の人生がかかってんだから、命懸けで駆け抜けるに決まっている!


 ぜぇはぁと呼吸を乱しながら、正門にたどり着く。


 まだ夜会は続いているようだから、招待客らしき人影もほとんど見あたら無い。

 あそこでおめでとうございます等と、のたまった人影は無いって事だ。

 逃げるなら今だ!

 今しかない。今しかないって言ってるだろう!!


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 


「どいて」

「なりませんよ、マチルダ様」


 一人は頑として言い放った。もう一人はこくこくと頷く。

 いつかも渡り合った衛兵の兄さん×2である。


「いいから、どきなさいよ!そうでなけりゃ一生恨んでやるからね」


 本気の本気で睨んだ。


「ううっ。そ、それでも、よけませんよ!陛下に一生恨まれるよりマシですからね!」

「何だとぉ!このチキン野郎が、乙女の一生が掛かってるんだから、ちったぁ譲歩しやがれ!」


「マチルダ様!お気を確かに」

「確かに持てっていうのなら、それはラスに言いなさいよ」


 そんな怒鳴りあいの押し合いへしあいの中、急に衛兵達の動きが止まった。

 視線に怯えと尊敬が浮かぶ。

 見据える先はワタシの頭上だ。


「やあ、ご苦労。下がって良いよ。マチルダ、どこに行こうというんだい?」


「帰るの」

「どこに?」

「うちに」


「それは出来ないな」


「じゃあ逃げるまで!」

「俺から逃げられると思ってるの?見くびられたもんだな」


「帰る・・・帰るったら、帰るの!ラスなんか、大っ嫌い!!」


 渾身の力を込めて叫んでやった。

 ラスの表情から作り笑いすら消えた。

 まったくの無表情。


 な、なんだよ。

 ラスに耳と尻尾なんてあるわけ無いのに、幻が見えるよ。

 耳はへたって後ろ向き。尻尾もへたってぐんにゃりで、そよともしないよ。


 こっちがいじめたみたいじゃんか!






『やりゃ、できるじゃん。』


ええ。いつ、横から(自称)森の妖精が出てくるか ビクビクしながら

連続投稿です。

ここでまたやられたら、ゴールが遠ざかるので本気です。


さて。


どうなる逃走劇。


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