その16 いきなり手に負えない大物げっと。
社交の場は狩の場だと思います。
男も女も知恵を振り絞って、欲しいもの(者、人によっては物)を
手中に収めるが良いでしょう。
天井できらびやかな光を放つシャンデリアにも負けない輝く笑顔って、どうなの?
そんなもの向けられてみろ。思考は完璧に麻痺する。
言っておくけど、うっとりと見上げるからじゃないよ。
自分とはあまりにかけ離れたレベルの高さに、辟易しちゃうのだ・・・だ~!!
いささかの胡散臭さと、諦めにも似た感覚を誰だって覚えるに違いあるまい。
「マチルダにぴったりの職業を導き出したよ」
「商人」
これ以上は聞いちゃなんねぇという心の声に従って、勢い良く言い放った。
チェルンザに生まれた限り、生まれつきの商人だと言い切れる自信がある。
そんな職業適正診断なんて、他人からされたくはないわ。
迷いようも無くすでに商人ですが、今更何言い出しやがってんでしょうかね~ラスよ?
「そこも踏まえてだよ」
「ええ!?商人のさらに上を行っちゃうときたら、豪商?」
「残念だが違うよ。でもそれも含まれるかな?」
何!?そんな職業あったかしら。ちょっと、知りたいかも。
思わず水色の瞳を好奇心丸出しで見上げた。
相変らずトチ狂っていようとも端正なお顔だこと。
それに、じいさんぽい髪の色。
ラスは神経質に違いあるまいよ。
あまりおおらかとは表現できない容姿は、うちのお父様とはかけ離れている。
それなのに、何故か同じものを感じるのは何なのか説明が付かない。
きっとその瞳には、ワタシが思いつかないようなものを意識して見ているのだけは解る。
ラスはむき出しの好奇心に気を良くしたらしく、重々しい雰囲気で口を開くと語りだした。
「マチルダはこの国を導くリーダーになる相応しい資質を備えていると確信している」
「そりゃ、買いかぶりすぎだろ!」
「ご謙遜を。でも一番相応しいのは現国王である、このライザス・ガディ・サンザスだ」
「そらそーだ」
「だから、マチルダは二番手にあたる・・・」
「え?まさか眼鏡押しのけて宰相とか言っちゃう?」
「ハズレ。マチルダは国王の后が一番ぴったりの職業だよ。そう思わないか?」
ぽかんとした。ステップも中止だ。
口もだらしなく開ききったままだ。
というよりも、顎に力が入らない。
最初の頃の軽い調子で「マチルダは正妃に娶ろう」は、ただの冗談だと思っていた。
そう、正気じゃないってね。
「うううう、頷けるか!ラス、ラス、今正気?発作!?発作なのね?」
「俺はいつだって正気だよ」
「どの口がそれを言うのさ!」
「どのって?もちろん・・・」
くす、と笑うラスの吐息が頬を撫でたと思った。
無理やり、ちゅーすんな!と何べん言わせる気だ。もおおおお!!!
思い切り拒絶すべく、奴の顔を突っぱねてやったはずだったのだが~。
顎をがっちり固定されてはひとたまりも無い。
何の、とワタシも顔を背けるのを諦めない。
おかげで何とか唇に唇を重ねられるのだけは防げた。
防げたがあと僅かでも力が入らなかったら、もろに受けていたであろうという位置ではある。
左の口角のほんの僅かばかり上に、湿った感触が落ちる。
ううう。ラスに顎を強く掴まれているのと、是が非でも逃れようというワタシの力が相殺しあう。
おかげで口をとんがらせて、タコみたいじゃんよ!
熱いのは頬だけじゃない。
突き刺さるのは、視線・視線・視線・視線。
しかもこれだけ人が集まっているっていうのに、この静まり返った会場は何事!?
そんな中、視線だけが熱く物語っている。
老いも若いも、男も女も、皆みんなワタシ達の動向を固唾を呑んで見守っている。
おおお!白熱していて忘れていたよ、この人だかり。
忘れちゃならん状況を何で忘れるかな、ワタシよ。
思い切り責めたがもう遅い。
人はそれを後悔と呼ぶ。
恐れをなして、傍らを見やればラスめ!
胸に手を当てながら、跪きやがったよ!
しかもワタシの左手の甲に唇を近づけながら、トンでもない事を言い出した。
「マチルダ・チェルンザ嬢。どうかこのライザス・ガディ・サンザスの后になってはいただけませんでしょうか?」
『おおおおおおお!!』
『パチパチパチパチ!!』
『きゃあ、ライザス様ぁー!!』
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
さっきまでの静寂が嘘のように、いや、その分倍になって一気に人々の声が上がったから堪らない。
ラスめ。
は、はめやがったな!?
『ぷろぽーず。』
わかりやすい(狩・・・違った。仮)タイトルです★
わかってないのはマチルダ、君だけだ。by・ライザスを目指しました。
ラスはイキイキしちゃってますよ。
マチルダをこうやって、四方から追い詰めて行くのが楽しいらしいです。
次回、どう出る!?マチルダの巻でございます。