その15 遅まきながら社交界デビュウ。
お待たせしました!
こんな、ぱへ。でも気長にお気に入りしてくれてる方も
始めましての方も ありがとうございます~!
パッム!パン!パッムっ!
すかさず入った、やや肉厚感が否めない拍手の方を睨んだ。
「おお。流石は陛下だ。このマチルダにドレスまで着させて、こうやって夜会にまで出席させるのだから!」
おい。お父様よ、まるでワタシが野生児だと認めたも同然ではないですか。その発言。
「いや、何。お父上君が仰るほどマチルダは扱いにくくはありませんよ。とてもイイコだ。なあマチルダ?」
怖っわ!! ぶるぶる。
ワタシハ イマ ウマレタテノ コイヌノヨウニ フルエテイル ワ!
久しぶりに見た実父に、罵詈雑言も浴びせかけられないくらいに大人しいワタシ。
「いやはや。陛下のように洗練された御方にしてみたら、うちのマチルダはお見苦しい限りでしょう」
しみじみ、言いやがらないでクダサイよ。お父様よ。
「何を仰るやら。この王宮に必用なのは新しい血なのですよ。そうですね。知性や品性ももちろん大切な要素ですが、それより何より野生に生きるかのような逞しさだとかね?」
何そのサバイバル評価。
嬉しくも何ともないわ!
ねぇ、マチルダとにっこりと笑いかけられる。
頷けってか!?
無言の圧力反対だよ。反抗しちゃるつもりで恥らうフリをして、心の中では舌を出した。
ラスの腕に捕らえられ、彼の腕の中に閉じ込められた形で囚われた。
とたんに大人しくなってしまうのは、本能でラスには敵わないから逆らうだけ無駄に体力を消耗するだけだと知れるから。
それもある。それもあるがラスめ!
いったい普段どんな鍛え方してやがるんでしょうかね、ってなくらい、しなやかかつ鋼のような筋肉はこう密着してると嫌でもわかってしまう。
「やれやれ。マチルダ、もういい加減あきらめなよ」
それまで(またしても)見物を決め込んでいたトニアが言い放った。
いやだ!人間あきらめたらそこで終わりだ!
ぶるぶる。震えながらぶんぶんと首を横に振った。
だいたい何を諦めつけろって言うのか、言ってみろ!
ラスを見やればそれはそれは優雅に、膝折られましたよ。
「マチルダ・チェンルンザ嬢。どうかダンスの相手を務めさせてください」
「お断・・・」
「音楽を!!」
即座に断ろうと口を開いた。
それよりも早く、クロード先生が手を高々と上げていた。
待ち侘びていたかのように、ファンファーレが広間を響き渡った。
ワタシの意思は、音楽の力であっさりとかき消された模様。
ラスがうやうやしくも遠慮なく、ワタシの手を引いて中央に進み出る。
おのれ、嫌味小姑め!
おまっ、さっきまで手は眉間に当てていたじゃないか!
どうしてそのまま張り付いていないんだよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しぶしぶラスと向き合う羽目になる。
隠しようもないくらい運動神経抜群のワタシは、何気にダンスは得意なのだ。
誰だ!?ダンスはって笑ったのは?
「本当に心の底からマチルダには感心しているんだよ」
「ええ~と、とりあえずありがとう。でもどこが?」
「この王宮に在っても失われないどころか遺憾なく発揮されているであろう生き様が」
「そりゃ、どうも。ワタシはワタシだしね。ラスだってすごいじゃない?遺憾なく発揮しすぎですよ、その腹黒オーラ」
ラスがにやりと笑う。
うむ。これこそがラスらしいと思えた。
さっきのお偉いさん達に向けるお上品さ漂う眩しい微笑みは、どこか胡散臭くて空虚な気がしてしまうのだ。
ラスの神々しいスマイルに文句をつけるのは、ワタシくらいのものだろうが黙っている。
怖いから。
きっと言ったら最後そんな笑みを、め・いっぱい見せ付けながら毒を吐かれてしまうことでしょうよ。
「マチルダを観察していて確信した事があるんだ」
「へぇ?」
なんでございましょ~ね、陛下?
とりあえずステップに集中してるんだから、話しかけるな。
その嫌みったらしい軽やかステップを、思い切り踏ませやがれ!
それで少しはワタシの気も治まるかもしれないなら、よろこんで差し出すがいい!
右左、右左、くるり後、右左、右左、変則技で左!
っく!ラスめ、やるな!
ははははと無駄にサワヤカにラスは笑った。ムカつく!絶対踏む!
大人しくワタシに踏まれろ。
『おお!何と軽やかステップだ!』
『どこの ご令嬢だろうか!?』
そんな賞賛にますますパワーを頂いて、はりきってステップは続くよ、どこまで・・・だ!
いい加減、くたびれたわ。
意地で切らしてなるものかと思っていた呼吸も流石に乱れがちになってきた。
ラスはそれに目ざとく気がついたらしく、いくらか動きをゆるやかに導く。
そして少し遠くの楽団の方を、ちらりと見た。
それを合図に音楽もスロウなメロディに変わった。
うっわ!
ラスって怖っわ。その板に付いた王子様っぷりに軽く引くわ。
まぁ~ちょい前は王子様やってたんだし、当然といえば当然だろうけど。
どれだけ踏んだの、場数をさ。
感心すると共に出来る奴へに向ける、若干の嫉妬も込めて見上げた。
「さっきの続き、いい?」
「何の?ステップ合戦の2ラウンド目?」
「いいや。俺の観察記録から導き出した――答えをマチルダに聞いて欲しいんだ」
「何の観察日記ですと?」
「もちろん。マチルダに決まっている」
ラスが微笑む。
にやりでもなく、かと言ってにこやか~にでもなく。
例えばそう。
ワタシが大好物のカリム果実のケーキを前にした時のような。
ものすごく重い笑顔だと思った。
『無駄に王道を踏む。』
何の?
萌え萌え しゅちゅえ~しょん とやらの。
お城行って、やんごとなき身分の男に見初められ、ドレス着て、夜会!
全ての婦女子に捧げます!
オマエの研究成果はイマひとつなんだよ、というボヤキはきっと気のせいに違いない。
アッシの萌え♪はこの辺りにない事は自覚しています。
すみません。