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その14 夜会に繰出す箱入り娘。

色々・・・ありマスが、こんな調子で続いていきます。


(遠い目。)

 

 ラスがおかしい。

 いつもの事といったらいつもの事。

 なんだけど~ね?



 何がどうおかしいのかって!?

 あっさりワタシの晴れ姿やらを差し置いて、さっさと夜会に顔を出した辺りかな?


 う~~~~ん?

 何ていうのか上手くまとまらないけど、ラスにしてたら変なんだよ!充分。

 絶対べったりひっついて離れずに、そのまま夜会に引き摺られて行くことだろうよ、何て予想もあっさり回避。

 拍子抜けっちゃ、拍子抜け。


(まあ、いいや。ラスの出方を待とう。勝負はそれからだろうし!)


 そんな事をぼんやりと考えながらサンドイッチを頬張る。

 まずは何においても腹ごしらえが最優先事項でしょう。

 そんなワケで、もぐもぐ。


 さっきしっかりと身体はほぐしたから、瞬発力抜群のはず。

 今、自分自身の状態をマチルダ様は解るのだ。

 腹筋運動のち背筋運動に加え、脚の屈伸に腕立て伏せを軽々こなすワタシってどうよ。

 いつもの事ながら絶好調じゃないの!

 このしなやかな身体の土台は筋力がものをいうのだ。


 我ながらどうしてこんな事知ってるんだろうか、ワタシよ!?


 こちらの都合何てお構いナシに夜会は開催される訳ですよ。

 要はどれだけあがいたって、この窮屈なおドレスに着替えさせられるってワケ!


(うぬぬぬぬぅ~ラスめ!外堀から埋める周到さには・・・うん。もうカンベン!)


 自身の装いを見下ろせば、そっりゃ~華やかなおドレスである。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 ラスを~フォローしやすいように~普段の動きやすい服装で臨むのが一番だと思います!

 何だったら、そのお姉さん達みたいなお仕着せが良いな!

 王宮のメイド服何てものすごくマニア垂涎の的だよ!!それは置いておいて。

 その服装の方がさり気なくラスの助けになれるしね!


 何て意見は即却下。


『なりませんよ、マチルダ様!』

『ええ、ええ!そんなお戯れを申されては陛下も悲しみます!』


『陛下はマチルダ様の着飾ったお姿をそりゃあ楽しみにしておいででした!!』


 力説されてもなぁ。

 だっるいわ。


 やる気しないで~すってな雰囲気を漂わせてしまうワタシに、侍女のお姉さん達はおろおろするばかり。

(あ!そだ!トニアに着せてやれば?替え玉ってヤツよ!!)

 あんまりにも困った様子でしまいにゃ泣き出されそうだったので、そんな言葉は飲み込んだよ。

 こっちがいじめてるみたいじゃん!と罪悪感から仕方ないなーと思っていたら、扉の外でヤツが叫んだ。


『マチルダ嬢!!陛下に恥をかかせたりしませぬよう!!』


 このお上品な方々のお集まりの会で、普段のナリで出席なんて言語道断とばかりにクロード先生にまで叱られた。


 どこで聞きつけてくるんだよ。びっくりだ。感動すらする。


 アンタ本当に姑だよ。


 彼の叫びの、正しい意味合いを脳内で変換してみよう。

 きっとこうなる。


 いいですかアンタ、借金のかたにこの王宮に居候してるって事をくれぐれもお忘れなく!

 陛下のお心に添った行いをして、せいぜいしっかり働いて返してください。

 ちなみに貴女は陛下にではなくこの国に対して借金を負った身なんですよ?

 一歩間違えれば罪人扱いだって避けられなかったのですからね?

 そこら辺、わかってるんですか!?


 きりが無いので(下手をすれば延々と永遠と続くだろうから。)脳内変換は、その辺で切り上げてお着替えしたワタシって健気!

 誰か褒めてよね。


 だからせめてもの意向を通させてもらったよ。

『コルセットは無しでお願いします!』

 ふふふ。これで当初の目的、腹十二分目を難無くクリアーって感じ!

 ゆったりしたハイウエストのデザインがお気に入りの訳はそこにある。

 このドレスの最高に秀でている部分だと思うよ。アランザード装飾品店のみなさん、ありがとねー!!


 口々に褒めちぎってくれた侍女の皆さんに、満面の笑みを見せたワタシに眼鏡が心を読んだ一言を発しましたよ。


『くれぐれもいつもの調子で食い散らかしたりされませんよう!』


 くれぐれもを嫌に強調されて送り出された次第である。

 そんなワケでちょっとばかり避難中なのだ。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 ここはテーブルの下。


 灯台下暗しとは正にこの事でしょう!


 誰に見咎められる事も無く、こうやって存分にご馳走を堪能出来るって最高よね。

 ご馳走のお代わりが欲しくなったら、素早くテーブルに手を伸ばせばいいんだし。


 右手には鳥のもも肉のローストに左手にはサンドイッチ。

 肉、サンドイッチ、肉、サンドイッチ。

 右、左、右、左と交互にもぐもぐ。

 もぐもぐもぐもぐしながら、警戒は怠りません。


「ああ、では。そのように。陛下もまた・・・物好きな」

「まあまあ。おかげで我々のような者にもチャンスが巡って来易くなりましたしな」

「そうですね。祭典の際には小麦の価格を吊り上げましょうか。何、ほんの僅かばかり。それすらも女神様への奉納金とすれば民は納得するでしょうから」


(民は納得するかもしれないけど、女神様が納得するかよ!)


 テーブルの下で悪態を付く。


 どっこの悪領主、悪徳商人だろうか。その声の主の靴をよくよく観察する。

 あとでラスにチクッてやるからお楽しみに~!

 それにしてもまだ確たる情報が少ない。まだ、酒の入った席のお戯れの領域から飛び出さない。

 だから、泳がせる事にする。

 まぁ、そもそも公の場所で話す内容じゃないでしょうよ。



 その野太い声二人の会話はいかに有力者に取り入る事が安泰に繋がるか、そのためにもどうやって人より抜きん出るかを話している。

 だからか。この辺を任されている地方有力者の情報交換らしき内容なのは。

 ふむふむ。そこん所は一般知識として、ワタシも知っておきたいかも。

 耳を澄ます。


 ジャスリート家の跡取り様は品行方正で有名だけど、その交渉はなかなかしっかりしているらしい。

 公爵様の片腕として容赦なく不正を正しておられるようだ。

(ふむ。ただのお坊ちゃんじゃないようだね。)

 ウルフィード地区は割合とのどかで荘園が盛んなんだけど、腐れ貴族の噂も少ないからなかな豊かなんだよね、あそこ。

 長年問題だった灌漑(かんがい)事業も解決したみたいで、ますますの実りを期待できるものという見通し。

 いいことだ。


 もぐもぐ。ちょっと、咽喉が渇いてきたな。


 素早くテーブルの下から身をほんの少しだけ這い出して、目ぼしいグラスを掴んで身を潜めた。


 ふむふむ。くんくん、と細かな泡が立つ液体に鼻を近づけた。


 異常なし!いただきます~!


 (しまった。ちょっとこれお酒かも!まあいいや。めんどくさいし)

 ちゃんと食べながらのお酒ちょびっとじゃ、大丈夫でしょ。

 それにこの二人の話も気になるしね。

 再び会話に熱中する中年の二人に耳を傾けた。


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 そうか、そうか。


 ジャスリートの公爵家に大きく力添えとなったのが、エキナルドの新しいご領主様か。へぇ。


 公爵様の管轄の地エキナルドのご領主殿はまだそんなにお若いのか。

 しかもまだ後を継がれて一年足らず。

 その割りに公爵様にばんばん税金納めちゃってるらしいから、その働きぶりは凄いって事だ。

 こちらも交渉上手らしいね。

 この中年のお二人も一目置いているが、なかなかお近づきになれないらしい。

 だろうねぇ。それくらいのお人ならば、この二人のような腹に一物蓄えたような人物は、遠ざける目をお持ちだと思うよ。

(それにしたってさぁ)

 いったいどんな手を使って、あそこの大地主にうんと言わせたのだろう。

 素直に感心しながら、飲み物に口を付けた。


 じいさまは大金持ちだがものすごい偏屈なのだ。

 ワタシも商用でお供をした事があって、結構親しい。

 親しいが思う。だから口にする。


 『じいさま、偏屈も大概にしとけ!そりゃ寂しい老後だぞ、おぃ!』


 『うるさいぞ、じゃじゃ馬!行かず後家間違いナシじゃ!』


 そんな罵りあいをする仲でもある。ある意味仲良しだ。


 そんなじいさまと一面識あるワタシとしても、そのエキナルドのご領主殿すげー!!と拍手を送る。



 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 さて。

 さりげなく夜会に戻ろうか。

 このテーブルの下の秘密基地も、居心地が良くて離れがたいんだけどさ。

 そうもいかない内容になって来たれば、流石に二人席を離れたのだ。

 おっさん二人で中庭辺りにでも繰出されましたでしょうかね。

 この上なく嫌な逢引ですこと!

 そのドン引きな逢引のデバガメになろうっていうワタシも、ちとアレでしょうけどね~。

 しかし、放置はしたくないので腰を上げた。


 すささっと這い出した割りに、ものすごい勢いで姿勢を正した。

 何事も無かったかのように淑女とやらのフリをする。

(ん?んんん!?って、アレは!?)

 そんな視界がいくらか高くなったワタシの目に飛び込んできたのは、見間違えようも無いシルエットだった!!


 見事な太鼓腹に巻きついた成金丸出しのベルトに、指に食い込んだ指輪の数々が光る。

 二重にどころか三重にまでたわんだ顎にまとわり付く脂肪は、その目蓋の上にも重そうにのっている。

 そのせいで彼の表情はいつも、ふくよかな笑みを浮べているかのごとく映るがそれは違う。

 この細めた目で見てるのは何か違うもんだよ!


 何か商売の糧になりそうなものを常に見定めてる目だよ!


 間違いない、その名を呼びつつ駆け寄った。



「お父様ぁ~!!」

「おお、おお!!マチルダ~~~!!」


 親子の感動の再会を果たすべく、勢い付けて駆け寄ったのは言うまでも無い。



 こんの!!

 覚悟。


 相変らずこの成金丸出しのしまりの無い筋肉め!

 ぶにょぶにょだっつの。ああああ、もう。

 この手の筋肉ははっきりいってワタシごときの体重じゃ、あっさりその脂肪に吸収されてしまうのだ。

 何気に側に控えていたトニアに、意識を向ける。

 しゅっ、と無言で繰り出した拳はあっさりとトニアの拳が受け止めていた。

 ちぇ。

「何さ、マチルダ?」

 何さ、には何を突然+何をするのさという両方の意味が込められているものと思われます。

「ワタシの腕もなまっちゃったかな~と思って」

 すかさず、掴まれた方とは別の拳も繰り出す。

 それもあっさり掴まれた。

 ぐぎぎぎぃ~~~とお互い押し合いっこになる。

「敵わないからってボクに八つ当たりはナシでしょ、マチルダ」

「トニア生意気!トニアのクセに!」


 額と額がくっつきそうになる寸前に、おでこに圧力が加わった。

 後ろにのけ反る方向で。

 ラスだった。

 トニアとワタシの額に手を当てて、引き剥がした模様。べりっとね。


 視界の端で眼鏡が沈痛な面持ちで、こめかみを押さえているのが見えた。


 仕草までが小姑である。



『誰が森の妖精か』


いたずらにもほどがあるわ!!


(とりあえず仕事なんでくわしくはまた~!!いってきます!)

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