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その11 箱入り娘の扱いは赤子の手を捻るに等しく。


『その1の前書きでもお知らせいたしましたが。』


姉・みつながお送りいたします。

これから、終わりまで、ずっと。


おつきあい、よろしくどうぞでございます!


「ね。ラス。も・すこししてから採寸した方が良いと思うの」

「例えば?」

「夕飯の後とか。その方が正確な寸法だと思うの」

「流石私のマチルダだ」

 

 深く頷いて請け負った。

 いつものように人払いをし、マチルダと二人きりのお茶会としゃれ込むのが唯一の息抜きとなっている。

 この娘には己の見栄えを少しでも良く見せようという考えが無いらしい。

 それはそれは素晴らしい。

 クロード辺りなどは『常識的感情の欠落』と嘆いているが、何。

 それくらいであってもらわねば困るのだ。

 我が国の王妃候補として名乗りを上げるのであればそれくらい、ある種のおおらかさが必要不可欠なのだ。

 それは図太さと呼ばれるのだろうが、それくらいなければ精神がやせ細る。

 図太いを通り越した何かを持ち合せていなければ、きっと持ちはしない。

 ここはそういう所だ。――この王宮という場所は。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

「マチルダ」

 

 その窓枠から身を乗り出す、細い背に声を掛けた。

 

 そろりとマチルダは振り返った。

「ラス・・・」

「どこに行こうというんだい?」

 ぅぐっと詰まったマチルダは視線を泳がせている。

 もちろん、窓の下の中庭には兵を配置させてある。

 それをかいくぐっての逃走劇など、マチルダにしてみればどうって事はないかもしれないが、俺にしてみれば歯どめが利かなくなりそうなのでぜひ控えて欲しい。

 何の歯どめかは改めて言葉にするまでも無いだろう。

 そう。

 例えば全力で歯向かう者には全力でねじ伏せるし、全力で逃げる者には全力で捕らえるだけでは飽き足らず、二度と逃げられないようにするとか。

 さらりと実行しかねない俺をそう挑発しないで欲しい。

 実行したが最後、マチルダをきっと追い詰めるまで解放してやれない自信がある。

 

「イイコだね、マチルダ?もちろん、そこから下りたとしても良い事なんてひとつもないってわかっているだろう?」

 ―― お い で 。

 そう無言で促がすべく、右手を差し出した。

 マチルダは心底悔しそうに顔をゆがめ、唇を噛み締めたが、ゆっくりとこちらに向ってきた。

 何か言いたそうな雰囲気だった。

 腕の届く距離まで踏み込んだ彼女を抱き上げる。

 下から覗き込むようにその表情を探ると、マチルダの唇が紡ぎ出す。

 

「ね。ラス。ワタシやっぱり夜会なんて・・・嫌だな」

「どうしてだい、マチルダ?あんなに楽しみにしていたじゃないか?」

「ドレス着込んでいてはろくにご馳走だって食べられないと思うし、それに――」

「それに?」

「きっとろくに渡り合うこと何て出来ないと思う。ラスが蹴散らかしたいと願う腹黒い野心家達と」

「そうか。マチルダは私が頭痛を起こして、トチ狂ったマネをしでかしても構わないと言うんだね」

「うぅっぐ・・・!ソレ、ふりじゃん!!解るんだからね、ばかにしないでよっ!」

 マチルダが目を逸らしながら、強気で言い放った。

 それなりに罪悪感があるらしい。微笑ましい事だ。

 ならば――もちろん。十二分に利用させてもらう。

「うっ!」

 抱えていたマチルダを下ろすと、そのまま身体を二つに折った。

「だ・・・騙されないよ!ラスなんて嘘つきなんだから!」

 ご名答。

 だから何だ?俺は微塵も罪悪感など沸きあがってこないのだ。

 自分の思い通りに事を進めるためなら、どんな些細な事でも利用する主義だ。

 

 我ながらサル芝居もいいところだと思うのだが、マチルダは明らかに動揺して見せた。

 

 そこでもう一押し、とばかりに大げさに膝を付いて見せた。手も口元に持っていく。

「ラ、ラス。その、人を呼んでこようか?ううん、待っていて!今、誰か呼んで来る!」

 マチルダの語尾は震えていた。

 どうしてこのわざとらしい状況で俺の心配ができるのかが知りたい。

 俺の肩はマチルダとは違った意味で小刻みに揺れている。

 

「マチルダ」

「何?苦しいの、ラスっ!?」

「ああ、マチルダ」

 

 おかしくて。

 笑いを堪えている分、死にそうに。

 

『ラス・ラス!どこか痛いの?お医者さん呼んでこようか?』

 今、目の前にいる成長したはずのマチルダと、その幼かった頃のセリフはまったく一緒だった。

 変わらない。

(どうかずっとこのままでいてくれ、マチルダ――。確かにそう願ったはずなのに)

 

 幼いままのマチルダにひどく安堵する自分と。

 もどかしくて、ひどく残念に思う自分がいる。

 確かに彼女は『箱入り』だ。

 箱に入るように仕向けたのは俺だから、取り出すのも俺でいいと思う。

 

「っ、ラスっくるし・・・ぃ!」

 

 抱き寄せ、その身体を捕らえると悲鳴が上がった。

 悪かったと宥めるようにその背を撫でた途端、怯えたように跳ね上がる。

 それが無性に腹が立った。

 幼い頃、あれほど安心して身を任せきってくれたのに薄情な等と勝手を思う。

 

「マチルダ。俺を助けてはくれないのか?借金のカタに。」

「うっわ!その情に訴えつつ、脅すってどういうことですかね?ラスよ!」

「情に訴えつつ、俺は権利を主張する主義だ。ラスとして、また、国王として両方の立場からマチルダに訴えるよ」

「なぜに!?」

「マチルダの晴れ姿が見たいから」

「この期に及んでそんなおふざけはいらないでゴザイマスよ、陛下。本音を言いやがれ!」

 震えながら啖呵を切る令嬢など、マチルダを置いて他にはいないだろう。

 何て貴重な存在だろう。

 この俺に言いたいことをぶつけてくるなんて。

 生意気極まりない。

 心底おかしくて、喉の奥で笑いながら答えた。

 

「そうふざけてるわけでもないよ、マチルダ。何せ国賓を交えての大舞台だ」

「な・・・何が小規模の夜会だよ、こっ・こんのぉ!」

「小規模だよ。招待客百人にも満たないから」

「そこに何故国賓が混ざるんだ!ますますワタシが出席しなけりゃならない理由が見当たらない。むしろ、部屋で待機命令が普通だろ!!」

「マチルダ」

 

 少し声音を落として、その耳元で囁いた。

 

「国王として夜会への出席を命じる。もちろん私のパートナーとしてね。そこで存分に働いてくれたら、チェルンザの負債もいくらか軽減するだろう」

「い、いくらか?全部はダメかなぁ?」

「それはダメだね。いくらなんでも破格の報酬過ぎるよ」

「ラス」

「何?」

「チェルンザの負債額は具体的にどれくらいなんだろう?」

「そうだねぇ。ハッキリ聞きたい?それとも、おおよそで?」

「お・・・おおよそで」

「ハッキリ言ってもいいんだよ?」

「遠慮しておきます!」

「ははは。そうだね。おおよそ、今期の国家予算の・・・」

「わぁぁぁぁ――!!ラス、っごめん!また今度にするわ!今は聞いたらこの胸が張り裂けそうな予感!」

「そう?それもいいんじゃあないのかな?一生俺の元でただ働きって事がわかればあきらめも付くんじゃないかな?」

「なんの!?何のあきらめ!?嫌だよ、人生はあきらめたらそこで終わりなんだから!あきらめないもん!ぜってー借金返してチェルンザ商会を立て直してみせるんだから―!!そしてまた豪商の名を欲しいままにしてやる!」

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

「じゃあ、頑張るんだね?」

「おお!もちろん、受けて立ちますともよ!」

 

 何を、とは尋ねなかった。

 彼女がやる気になってくれている。

 それだけで充分なのだから。(たとえ後ではめられたー!と言って泣かれようとも。)

 

 マチルダを抱え上げると扉の向こうに声を掛けた。

 

「入ってくれ。最高の物を頼む」

 

 言い終わるや否や、扉が開きしずしずと仕立て屋たちが商売道具を片手に入ってきた。

「こちらは豪商チェルンザ商会の令嬢だ。たいした目利きでもあるから、彼女のお眼鏡にかなう最高のドレスを仕立てて彼女を圧倒してやってくれ」

 

「はい、陛下。賜りましてございます」

 

 そう深々と頭を下げる仕立て屋たちの瞳もやる気でみなぎり、輝いていた。

 

 ――これだから、商人という人種はおもしろい。

 

 

 


『バトンかと思いきやそれは、ブーメランだったようです。』


ぱ~~~すぅ!

と勢い良く放ったバトンが、なぜかアッシに戻ってきましたよ?

W H Y ?


そんなこんなの『ぱへ。』


もう、気兼ねなくさくさく行こうと思います!


(そこで見てろよ、魚!!)

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