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その10 箱入りにもそれなりに考えがある。

『うわ。もう一ヶ月空いてしまいました!』


いや。もう。マチルダがね。暴走しちゃってね、

収拾つかないです。

もっと単純な話の予定が、狂ってます。どうぞ!


「ね。眼鏡先生」

「クロードです。マチルダ嬢」

「そ。マチルダでいいってばさ」

 何度言わすんだ。

「馴れ合う気などありませんから」

「そっすか」

「マチルダ嬢。まだまだ課題をこなしたいと見える」

「気のせいだろ」

「追加です」

 どさどさどさぁ――っと、持っていた資料本を山と積みまして、ワタシの視界を遮りましたよ。

「ああ、無駄無駄。課題とか言われてもこなせないって!やる気ねーですもん。だっるいわ!それより、」

「追加です」

 どさどさどさどささささ――――と、ついに机上でなだれが起きたじゃんかよ!もう!

 言っとくけどコレは積みすぎたアアタの責任でしょ?何でワタシを睨むかなぁ、もう。

 下町っこ言葉は私には聞き取れません、の構えは何がどうあっても崩さない気満々なんですねっと。

 うんざりしつつも仕方が無いので、嫌味眼鏡でも理解できる言葉使いで話を切り出す。

 

「あのですねークロード先生。ラス止めてよ。おかしいでしょ。思わずごちそうにつられて行きます、なんてお返事しましたけど」

 

「!」

「何その反応」

「いや。一応思慮深い面もあったようなので驚きを禁じえないだけです」

「禁じてくださいよ。この嫌味姑気質。そんなんじゃどこにもお婿にいけないぞ★」

 ワタシの悩殺的なウィンクに、心底冷え切った眼差しで返すニクイお方よ。なんちゃって。

 

 

「余計なお世話です」

「ふぅ。だってさ。さっきも見てたでしょ?」

「何を」

「カリムの百発百中★種鉄砲」

 ばきゅぅん、なんちゃってねー?とか言いながら指で打つ真似をする。

 あ。

 もちろん!ここに断言しますけど、戦争反対だからね。

 鉄砲だってハトに食らわす『まめでっぽ』か恋の不意打ち系じゃなきゃ駄目だかんね?

 議会に提出。真剣に、それは毎会欠かさないの。

 チェルンザ商会の願いよ。戦争で潤う商人にだけは成り下がらないのが信条よ!

 話が逸れたのはこん眼鏡が固まりすぎだからさぁー?

 早い所、戻ってきて見据えろや。現実をさ。

 マチルダさんは心が広いから待っててやるんだよ。

 ほかの事を色々考えつつさ〜〜〜ってか飽きてきた!まだか!!

 

 たっぷりと間を空けてから、眼鏡がため息を付いた。

 

「ああ。すいません。あまりの衝撃で記憶から抹消していました」

 抹消かよ!

 跡形も微塵も残さず消去かよ。それじゃ戻ってくるのに時間がかかるわな。

 そうかそうか。はっはっは・・・歯を食いしばれ!!

「思い出させてあげよっか?」

 拳を握り締め後ろに引いたと同時に、しゅっと素早く繰り出してやっていたけど。

「結構です」

 それを難無く己の拳に納めて、クロードは押し返してくれた。

 意外にも眼鏡は運動神経だの動体視力はいいらしい。ちっ!

 もう一方も懲りずに固く握り、振り上げて見せる。

 それすらも片手で制しつつ、ついに眼鏡が顔をそむけた。感じ悪っ。

 もうガマンもカンベンもならねぇですわよっ!お姑さまっ、覚悟!

 椅子から飛び降りて両足を踏ん張った。クロードも椅子から降りる。

 そう。対する眼鏡ときたら、さも面倒臭そうに人を見下しつつワタシの拳を封じてくれている。

 要はコイツの方が余裕だってこと。

 だから何ですかー?何なんですかー?

 それくらいで諦めるマチルダさんじゃありませんことよ?

「たぁぁっ!」

 気合の入った掛け声と共に、ワタシは右足を振り上げる。

 無論、まわし蹴りをこやつに見舞うためだ。

 しかしこの身長差が仇となり、せっかくの華麗なる回し蹴りもヤツのわき腹には届かなかった。

 くっそぉ!脛だの膝上だの辺りじゃ太刀打ち出来ません事よっ!何でかって?

 そりゃ、男の筋肉の作りが女にしてみたら、鋼にも等しい鎧代わりになってくれちゃってるんだよ!

 狙うんだったら鳩尾。みぞおちだよ!

 あばら骨の無い辺りを狙えるのなら、そこら辺がベスト。

 柔らかく無防備な腹を狙うのがポイントだよ。相変らず何でこんな事知ってるかな、ワタシよと自問自答。

 加えて何だかんだで、男と女の体格差が恨めしい結果を生み出している。

 要はワタシの体重が足りないせいで、威力はそうそう無いのがわかった。

 このインテリ眼鏡は恐らく勉強ばっかしてるだろうから、身体はひ弱っこを予想してたのに残・念・賞!

 だからといって引く気にもなりませんが、何か問題でもセンセイ?

 

 ぐ・ぎぎぎぎぎぃ〜〜〜〜とばかりに歯を食いしばりつつの、押し問答は続く。

 

「そ。ラスさ、正気と思えない。ワタシがあゆことするのに『夜会』だぁ!?気が知れんわ」

「正気の沙汰とは思えませんね」

「お前が言うな――!!」

 頭にきたら、力が入った。ワタシが一歩、クロードを押した。

「自分から言い出したでしょう」

「かわいくないね―!トニア並みね」

「一緒にしないで下さい」

「いいやぁ?あんたら似てるよ」

「どこがです」

「高みの見物客を決め込むところ」

 ぐっと言葉に詰まったらしい眼鏡の眼光が鋭くなった。やべ。一歩後退。押し返された。

「それこそ、どこがです!?こっちは迷惑してるんですよ。そもそもアナタの家が元凶でしょう」

「そう言う割りに口だけを挟んでくるところ」

「あなたに何が解るって言うんですか」

「ごめん。トニアの方が可愛げがまだあったわ。あの子はワタシの事面白がってるんだもんね。それに引き換えあんたは単にラスを止められないからって、ワタシに当たってるだけだね。いい加減、うんざりくるんだけど?」

 ごめんはもちろん、ここにはいないトニアに対してのもの。

 こんなぐちぐちうだうだしたヤツと似ているなんて言って、ごめん。

 まるっきりではなくて、ほんの一部分が似ている気がするのよと心の中で訂正。

 

「マチルダ・チェルンザ!!」

 はい、図星。

 人は都合の悪い、しかも本当のことを言われると怒り出すもんなのだ。

 ものすっごく大きな声で名を呼ばれたと同時に、爪先が浮く。

 そのまま勢い良く後頭部を打ったのは、背を壁際に押し付ける格好となったからだ。

 押し合いっこは、ワタシには分が悪いという事がよくわかったが遅い。

 しかしどっちが売ったか買ったかわからんケンカだが、もうその売買は始まっているのだから引くわけには行かない。

 そんな気もさらさら無いけど。ま・商人の意地ってやつ。

 両手首は掴み上げられ、同じように壁に押し付けられたが怯まずに睨んだ。

 床には先ほどの本が散らばっている。何てこった。本を乱暴に扱うのは好きじゃないのに。

 怒りで震える宰相殿が、大方引っ掛けた拍子に落ちたんだろう。アンタが後で拾いなよ。

 そんな方向にムカついてる場合じゃないが、手首に食い込む痛みより抗議したいのはそちらの方だった。

 我ながらどうかしている。 

「文句あるのか」

「おおいに」

「そ。例えば?」

 だいぶウップンが溜まっていらっしゃる事だろう。

 なので吐き出させようかと思って、怒らせてみたのだったりもする。

「アナタの存在全てがですよ!まったく何なのですか、その言葉使いは!アナタは例え落ちぶれようとも、豪商と謳われたチェルンザ商会の令嬢でしょう?しかもその手癖足癖の悪さは何なのです!すぐ暴れる。ケンカを売る。木をつたって逃走を図る。なっちゃいないテーブルマナーに教養の無さが浮き彫り。それでも陛下はアナタを側に置きたがる!」

 うむ。もうちょっとかな。

 何が、かって?もうちょっと怒鳴らせれば、クロードの気も静まるって事。

 人間怒鳴ってもねぇ、そんなに長い時間持たないって事。

 それこそ何百回も怒鳴られてきてる、マチルダさんは学習済みなのだよ。

 人間本当は、怒りたいときは怒った方が良いと思う。

 まあまあ・そうも行かない立場とかもあるだろうから、溜め込んじゃうヒトが多い。

 そういうタイプには怒鳴らせるのが一番。変にいいこぶって、がまんして。

 怒りをくすぶらせているヒトとは、話にならないからさ。

 ――ってかーさー?お怒りポイントそこっすか。

「おいおい。ねぇ、それってさぁ、好きな男性とられちゃってやっかむ女みたいだと思うけど?」

 なんであんなおんななんかにあのひとがみたいな。あっきれた。ま・そんなもんか。

「マチルダ!!」

「あああぁ〜〜〜も〜〜やっかましいなーもー!そんなに怒鳴らなくっても聞こえてるってば、はいはい」

「返事は一回でと何回言わせれば気が済むんですか!」

「へーへーわかりましたよーだ」

「マチルダ!アナタはこれから陛下の付添い人として夜会に出席するのですよ?それがどういうことか理解できていますか」

「してる」

「どんな風に」

「チェルンザ商会の落ちぶれた娘が上手い事陛下に取り入って何を企んでいるんだかという好奇と敵意の目にみすみす晒されに行くって事」

「マチルダ・・・アナタは」

 クロードの途惑うような瞳を見つめながら、声をひそめた。

「うん。だからラス正気とは思えない。下手したら罪人のお父様とグルだったんじゃないかと要らぬ疑いを買う羽目になると思う。でもラスはそんな事を承知の上で私を社交界に引っ張り込もうとしてるよね。本気で怖いよあのひと。クロードが敵うわけ無いじゃん。格が違いすぎるって!アイツは絶対何か考え合っての事だよ。しかもその意図は量れんわ。予想するにーなんかさーワタシをえさにして、招待客のお偉い様方になぁんか()きつけようって感じがしないでもない。きな臭い。どう思う?陛下のご信頼も厚い宰相殿の見解はどうよ?ワタシを夜会に引っ張り出す利益は何?」

「それは充分ありえますね」

「一言かよ。何その迷いの無さ!否定して欲しかったかもな」

「ご期待にある意味添っているかと?」

「だね。だからさ、」

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

「二人で何の相談かな?」

 

 すわっ!!きやがったよってか、居やがったんですかい、い・い・い・いつの間にぃぃ!

 そろそろとクロードが振り返る。

 ワタシはかろうじてその影に隠れているおかげで、ラスをもろに見ずにすんでいる。

 だがそれも時間の問題だろう。

 怖ぇえええ!うううう、もう本当にカンベン!思考の中すらどもるくらいさ。

 コイツ以外の皆がどれだけ無害かよおぉーーく解るんだよ。

 底の知れなさが得体の知れない恐ろしさを醸し出してるんだよ。

 さも温厚そうな笑み浮べているが騙されちゃイケナイ。

 そんな想いが深い部分から湧いてくる。

 警告だ。

 こいつは一番危険だって訴えてくる。

 ってか、クロード!しっかり!固まってる固まってる。そんな場合じゃないよ。

 早い所、ワタシの手を離してさっさと逃げるんだよ!

 しかしその動きを封じられたクロードの腕を引き剥がしたのは、他でもないラスだった。

 唇は笑みの形を見せているが、その瞳がまったくもって笑えないくらい暗い。

 クロードを押しのけ割り込むと、今度はラスに両腕を取られていた。囚われて、いた。

「ああ。マチルダ。怖かったろう。クロードは短気でいけない」

 ぶんぶんと首を横に振った。

 そんな事は無いってぇのと、ラスほどじゃないっていう意味を込めて。

 今 怖いよ。 ラス。 ライザス陛下というアンタがさ。

 

 その薄い空色の瞳が澄み切ってこちらを見据えて離さない。

 そして逸らすのを許さない。

 ワタシがどんなに無邪気なふりをしようが、見透かしているって物語っている。

 何だよ、これ!

 平伏さねば命の保障が無い気さえしてくる。

 今まで渡り合ってきた中でも手ごわい連中は、本当に小物だったと思い知れた。

 それはラスが大物すぎるって事なのだろう。いや、そんな言葉一つで片付けられない何かがある。

 一国の王ってのはこうも恐ろしい雰囲気なのか。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

「マチルダ。疲れただろう?少々クロードは厳しすぎるようだな」

「ううん。ワタシが悪かったの。ケンカ、ふっかけたから」

「そうか。それはいけないな」

 口調はあくまでも優雅で、歌うかのように囁くラスの声に震えが止まらない。

「ねぇ、ラス。放して」

「どうしようか?」

 ラスの双眸が眇められた。微笑んだようにも、獲物を見据えて放さない様にも取れる。

 それはどちらにも見える。目を凝らすよりも早く、ラスの瞳がぐっと近付く――。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

「はいはい!陛下っ!マチルダっ、ついでにクロード殿!お茶の準備が出来ましたよっと!!」

 パンパンっと勢い良く小気味の良い音が、この妙な雰囲気を打ち破ってくれた。

「トニア」

 持つべきものは幼馴染だね。今心からそう思った。

 

 い た の ?

 眼差しだけで問いかける。

 い た さ !

 眼差しだけで答えられた。

 

「ああ。マチルダ。一休みしたら、夜会用のドレスの採寸があるから」

 

 告げながらまたもやラスの腕にすくい上げられてしまう。そのまま、高い高い。

 ん?とにっこりと笑いかけられた。逃げられねーってことですか、ラスよ?

「楽しみだな」

「・・・・・・。」

 ちっとも。

 そんなぼやきすら出ないほど、ワタシは脱力している。

 お楽しみのお茶とお菓子を目の前にして、このしおらしさはただ事では無いよ。

 もう好きにせい。

 ぐったりしているワタシをラスは御機嫌で、あやすように抱き上げては下ろすを繰り返す。

 その脇でトニアとクロードがさっさと先に席に着き、お茶を飲んでいるのが見えた。

 おぉい!!助けろ!だから誰かラスを止めろ――――!!

 


『長いですけど、何か?』


どこからか 何だ!?そんな設定頭に入らんわ!ってボヤキが聞こえてくる。


気 の せ い に 違 い な い 。


シリアス路線に何故か転びました。

姉にしてみたらマチルダはこんな子なのです。

ただ無邪気なだけではありませんことよ。


本当はもっと長かったがきりが無いのでパスしま〜す!

受け取れぃ!HEY!



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