その9 ラスは本当におかしくなったらしい
いまだに「あれ?ラスって目の色何色だっけ?」と前話を読み返しながらかいてます。 たぶん、設定は、頭にはいる事はないと思うんだ。えへへ。
午後のやわらかな日差しが心地よい。
ついウトウトとしてしまいそうになる。流れる風はなおさらに睡眠の世界へと誘う。
ダメだ…。眠い…。
うとうとと心地よい眠りにつこうとした瞬間、
「何度言えばわかるのですか!マチルダ チェルンザ!」
いきなり眼鏡の声が響きわたり現実に引き戻される。なんだ、なんだ、せっかくいい気分で
うとうとしていたのにさっ。あ〜あ。
「まったく。あなたには微塵のやる気も感じれないのはわたくしの気のせいでしょうか。」
あっ、それまったく気のせいじゃあないと思います。
すべては感じたままだと思います。はい。
私はここ最近、1ヵ月ほど前からクロードという最強の嫌味眼鏡…違った、家庭教師がついていた。
もちろん、私が希望したわけではない。希望するわけがない。
だから、この1ヵ月ほど、うとうととし、クロードの叱責がとぶのは毎度毎度の事だった。
だんだん慣れてきて、嫌味も嫌味であ〜はいはい と聞き流せるようになってきたのは私が大人になってきたのか
それとも私の神経が図太くたくましくなってきたのだろうか。
どうせたくましくなるなら神経より腕がたくましくなるといいのだが、うむ。そうしたら、いざという時に、あの男にも勝てそうな気がする。
★ ☆ ★ ★ ☆ ★
チリーンチリーン。
鐘の音が響き渡る。その瞬間、がばっと跳ね上がる私。
私専属の侍女(という事にしておこう)・トニアが小さいワゴンを押して部屋に入ってくる。それとともに部屋に広がる甘い香り。
その香りが部屋に立ち込めると、私はわくわくしてくる。
これはいつもの光景。
トニアはいそいそとワゴンから、紅茶と本日のデザートをセットし始める。
わくわくしながら、その準備をみつめる私。
目の前の毎日繰り広げられる光景に、毎度の事ながら楽しみ。
紅茶のほのかな香りが食欲をそそる。先ほどまでの眠気よ、グッバイ!
「はかどっているかい?マチルダ?」
おもむろに扉が開き、入ってきた、あのお人。
『あ〜また来た』
これも毎日毎日繰り広げられる同じ光景。
ラスは毎日、毎日このティータイムにはきまって現れる。人の唯一の息抜き時間をねらってわざわざ現れるとは、よほど好きなんだろうな、
甘いスイーツが。
あの、悪夢のような事件から一か月。
あの悪夢のようなセリフ
「ああマチルダ、何の心配も要らないから私の世継ぎを産んで欲しい。おまえは私の正妃として娶ろう」
どこかに頭でもぶつけたのではなかろうかと思われるその台詞。
……あっ…確かにぶつけたか。
当たり所が悪かったのかもしれない。それなら再度ぶつけたら、もとに戻ったかもしれない。
そのわずかな可能性にかけてみれば良かったかもしれない、あの時。
私をかかげて下から熱っぽく見つめるラスに、本気でうちどころが悪かったのかもしれないと恐れをなした。
あわあわと泡を喰ったようにパニックになる私を見つめ、嬉しそうに楽しそうにほほ笑みながら
「返事はすぐではなくてもいい」
間髪いれずに、
「無理」
「………」
下から無言で見つめるラスと、上から見下ろす私の視線は合わさっていて、両者一歩も譲らず、だ。
「まぁいい。時間はまだたっぷりあるから」
おいーーー!
いま、無理だってはっきりきっぱり間髪いれずに言ったよね!?私の答えは軽く無視ですかいぃぃぃ!
ラスは、私を下へすとんと降ろすと、にっこりとほほ笑んだ。
…本当に当たり所が悪かったのだと、今さらながらに自分のした行為に反省した。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
あれから私は必殺嫌味攻撃が得意なクロードという家庭教師となるものをつけられた。
毎日毎日、歴史やら礼儀作法やらで頭の中はいっぱいいっぱい。
そんな中で唯一楽しみなのが毎日のティータイム。
甘いお菓子や果物を食べている最中は、嫌なことも忘れてしまう。
そしてその時間に合わせたように必ずラスはやってくる。
毎日毎日やってきては、とりとめもない話をし、私と一緒に甘いデザートを食べる。
意外とラスは暇人なのかな〜
まぁティータイムぐらい一緒にしてもいいけどね、一人より話し相手いたほう楽しいし。
けど、始終ニコニコして、人の顔を見つめているから、気持ち悪いったらありゃしないよ。
けど、ラスがちょっとアレ…
頭が…アレ…
になってしまった原因はおそらく私にあると思うので
そのぐらいは我慢しようと思う。これでも反省してるんだ、私。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
トニアはなれた手つきで紅茶をいれ、
私の目の前に座ったラス、それから私にそそいでくれた。
「本日は、カリムの実と、カリムの実で作ったケーキになります」
うっわ〜〜〜!カリムの実!これってジャムにしてケーキの上に乗せると美味しいんだよね!
カリムの実は、そのまま食べても甘くてさっぱりしていて美味しい。
大きめな種が一つ入っていて、くせになる美味しさ!
私はまずはケーキを食べた。こんなお上品サイズは私にかかれば3口ぐらいでなくなってしまう。
「美味しい〜!甘いけどさっぱりしていて飽きないよね〜」
私はラスに話しかけるが、ラスは笑顔で私を見つめているだけ。
私は美味しさに感動しながら口に頬張る。
「これもなつかしいなぁ。カリムの実…」
「なつかしいとは?」
よっしゃぁ。ラスが、がっついてきたので、なんで懐かしいのかお披露目しちゃうよっ!
私は得意げに意気揚々とカリムの実を口にいれ、もぐもぐと口を動かす。
そして見つめるラスに向かって―
―プッ!
カリムの種をいっきにふっ飛ばした。
ラスめがけて飛びはねていったカリムの種は、そのままラスが飲みほした紅茶のティーカップの
中にカランと落ちた。
「ほら!百発百中なんだ!これでもすごく練習したからね!狙った場所に落とす事できるんだからね〜」
へへへへんだーと、得意技を意気揚々と語る私とは、真逆に一人嫌味眼鏡は空気が凍っていた。
トニアは『僕だってそのぐらい出来るさ』というような挑戦的な視線を送ってきている。
ムッ!なんとも生意気トニアめ。じゃあ、後でこのカリムの実で競争だ!
生意気トニアめ、どっちが上だか実力を見せつけてやらないと!
自分のティーカップに落ちたカリムの種をしばらくラスは見つめていた。
なんだかラスは私の技の凄さのあまり言葉も出ないのかもしれない。
★ ☆ ★ ★ ☆ ★
しばらくすると、ラスはクロードとトニアにしばらく下がるように命じた。
これもいつもの事。
んで二人きり。
これもなんで、人払いするのかがいまいち意味がわからん。
けど、最初は警戒したけれど、別に何をされる訳でもないので、まぁいいか。
目の前のラスに気遣うわけでもなく、ただカリムの実の美味しさを堪能していた。
甘酸っぱくて美味しい。
「マチルダ、どうだ、美味しいか?」
ラスは、何がおもしろいのかわからんが、私の食べている姿をいつもにこにこ眺めている。
私は口の中いっぱいにカリムの実でもごもごしていて、答えれなかったので、
ウンとうなずく。
「そんなに一度に口に頬張ると、喉につっかえてしまうぞ」
「らいじょうぶ、らいじょうぶ」
もぐもぐと返事をする。ラスは二人っきりになるといろいろ質問してくる。
まぁたわいもない会話だけど。
トニアやクロードがいる時も基本は笑顔だけど、人払いをした後、二人っきりになったときの
ラスの顔は始終笑顔で何ていうか、こう―。
気持ち悪いぐらいだ。
もとは綺麗な顔をしているだけに、しまりのないぐらいの笑顔…
というより目じりがさがっている。
これも自分がやってしまった、あの時の行いのせいかもしれない、
トニアとクロードをわざわざ人払いするのは、こんなにだらけた顔を見られたくないからなのかもしれない、と
最近になってやっと気付いた。
そうだよな、一国の王が、頭ぶつけて、ちょっとおかしくなった様子を家臣には見せる訳にはいかないから、
彼らの前では無理して頑張って虚勢をはっているのかもしれない。
ぶつけぐあいが本当に悪かったんだろうなと確信するほど、でれでれしているのだ。
そしてたまにおかしい事も言うのだ。
「マチルダ、最近では何を学んでいるのだ?」
「あいからわず、この国の歴史とかマナーとか礼儀作法ばっかり!もういい加減飽きたよ」
「そうか。学んだ成果はどうなんだ?」
「ん〜。よくわからないけど、マナーは前よりはだいぶ身についてきたかなぁ」
先ほど、目の前でカリムの実を吹っ飛ばして見せたのは、どうやらマチルダの中ではマナーの常識の範囲らしい。
ラスはますます、目尻を下げ、ほほ笑んだ。
「では、マチルダ。一つ提案しよう。次週、貴族が集まって夜会があるのだが、それに出席して学んだ成果を
披露するというのはどうだろうか。ただ口頭で学ぶより、実践も必要だろう」
夜会?夜会とは?
「何、小規模な夜会だからそんなに心してかからなくても、大丈夫だ。それに…私も側にいるし」
うっ!ラスの笑顔がまぶしい!バックに大輪のバラが咲き乱れているイメージ。
貴方様は、なにゆえにそんなにキラキラした瞳で私を見つめているんですかぁ。
「だから、何も心配しなくていい」
ラスがきらきらしたまま、私の手をとり、ぎゅっと握った。けど…
「夜会?無理」
一瞬、ラスががっくりうなだれた気がしたけど、気にしない。
だってそんな堅苦しいトコなんて嫌だもん。
「?」
ラスが顔を下に向けている、先ほどまでのキラキラビームはおとなしくなったが、どうしたのだろうか。
具合でも悪いのだろうか。
「??ラス?」
心配そうに声をかけてみる。
「うっ!…頭が… 頭が痛い…」
「!!!!!!!」
それは、まさに恐れていた事態!すわっ、後遺症!きやがったか!私は、嫌な汗を一瞬にしてどっとかいた。
「だ…だ…だいじょうぶ?どうしよう!」
私はもはや軽くパニックだ。
「心配ない…だけど、この頭痛は、いつおこるかわからないんだ。事情を知っている人間も一部だし、あまり公には
したくない。けど、次週の夜会でもいつおこるかわからない…」
そこまでラスが言いかけてるのを遮って
「わかったわ!ラス!私も夜会にでる!そしてラスが後遺症でおかしくなる前にどうにか助けるわ!」
この頭痛の原因はまぎれもなく自分にあるのは百も承知!
あぁぁぁ 本当に私ったらあの時なんて事をぉぉぉぉ
頼むから、ラス、これ以上おかしくならないで〜〜〜!
「そうか、マチルダが夜会に出席してくれるなら、安心だ」
またいつものにこやか、もといデレデレ顔だ。
ラスは先ほどの頭痛は一瞬でおさまったらしい。
ほっと胸をなでおろす。
「けど、私は夜会で何をしていればいいの?」
ふいに疑問を口にする。
「別に何も。ただ側にいてくれるだけでいい」
え〜。なんだよなぁ。そんなんなら私じゃなくてもいいじゃん。もっと他の良家の子女とかさ。
あきらかに『めんどくさい』という顔をしていたら、ラスは少し考えてから、
「夜会には、豪華な食事が出されるから、お腹を空かせてくるといい」
ラスのその一言で、色めきたつ。そうと聞いたら、頑張らないと!前日あたりから絶食でもして夜会とやらに
挑もうか、それとも夜会の前により空腹になるべく、これから毎日トレーニングに挑もうか私は一人いろいろと作戦を練らなくてはいけない。
「夜会に出るなら、いろいろ準備も必要だから、後で手配しておこう」
「なんで?ある服でいいよ」
「ダメだ」
「なんで?」
だって、お金もないし、もったいないし。そもそもラスの倒れた時の介助役としていくのだから、
そんな着飾る必要もないと思う。
不思議に思っていると、ラスは椅子から立ち上がり、私の目の前にひざまずき、私と目線を合わせた。
二人の距離はテーブルをはさんでいる時よりも、もちろん― 近い。
それまでラスのでれでれだった顔が一瞬、しゃんとして、ラスの水色の瞳が、まっすぐに私の瞳と合わさる。
そっと私の手をとり、私の瞳をみつめたままラスが、透き通る声でささやいた。
「今でも十分に愛くるしいが、綺麗に着飾った姿が見たいのだ。それに、この前も言っただろう?私の気持ちは何ら変わりはない」
熱く、力強くまっすぐに私を見つめ言い放つ、その声は真剣そのものだ。
「ねぇラス」
「なんだいマチルダ」
聞け、聞くのよ、マチルダ。さっきから気になって仕方ない事。
今なら聞けるわ。さぁ、勇気を出して!私は勇気を振り絞って、想いを口にしてみる。
「ラスが、もうお終いなら、食べちゃってもいい?ラスの残したカリムのケーキ」
ラスに握られている手とは逆の手でケーキを指さしてラスにたずねる。
私は手つかずで残されているラスのカリムのケーキが気になって気になって、さっきからそわそわしていたのだった。
………。
一瞬間があいてドキドキしながら答えをまったが、
「好きにするといい…」
ラスはため息をつきながらも譲ってくれた。やったね、ラス、ありがとう。
ダメもとで聞いてみて良かった。その前にラスがなんか言ってた気がするけど、私の心は残されたカリムのケーキで独占していたので
ラスが何を言ったのか、上の空で聞いちゃあいなかったのだ、正直。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「へったくっそな芝居!」
人払いしたつもりだろうけど、今日も、あまあまな会話は隣の部屋まで筒抜けだってば。
なんだよ、後遺症とか、そんな事あるわけないじゃん。ただの脳しんとうだったくせにさ。
しかし、そんな努力も無駄に今のところ、まったくマチルダには響いていない。
そりゃそうだ。だって、鈍いから。鈍いなんてもんじゃない。
マチルダの思考の中で色恋沙汰は皆無だから。
今のところ、ちっともマチルダの心に響いてないと思う、すこし陛下に同情してしまうけど、
「まぁ、いっか」
それでも、僕はいいのだ。おもしろければ。
あと、最後の最後にマチルダが本当に泣く羽目にならなければ、すべてよしだと思っている。
なんてこったいぃぃぃぃぃ!
オチがねぇぇぇぇ!!オチがぁぁぁぁ!
例えて言うなら、血がだくだく〜でぶっ倒れるとか。
書いてるとオチがでてくるけど、今回は浮かばず、無駄にダラダラ長い。
しかし一向にオチの神様が降臨する気配がなかったのでやめました。
おとしめるはずが、何このほのぼのムード!
これじゃ、ヤツを足止めくらわせるどころか華をもたせる結果にもなりかねねぇいっ!