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夢から現

 

 またこの部屋。

 うんざりするほど知っている部屋の中央、ベッドの上で目が覚めた私は別に食べたくなかった食事をお世話係達に給餌されるとひと息ついた。この前窓の横にいた綺麗な白い人もまた部屋に残っていて、今日はベッドの横にいる。

 やっぱり綺麗な顔だなぁ。私の想像力は、何を参考にしてこんな美しい人を生み出したんだろう。

 見慣れすぎてもう他に見るものが無い部屋の中でそんな事を考えながらその人の顔を見る。夢の中だが名前を尋ねてみたいと思ったが、自分の無意識が生み出した存在と喋るために苦しい思いをして声を出さなくてもいいだろうと開きかけた口を閉じた。

 夢の中とは言っても、苦痛はきっちり感じるのだ。確かに夢の中らしく、朝目が覚めるとさっぱり無かったことになっているが……夢の中の事とわかっていても今感じている息苦しさや鈍い痛みは私にとっては実際に起こっている事だから。なるべく避けたいと思うのは仕方がない事だと思う。


 そうしてただ私が眺めていたその美しい人は、長い髪をふぅわりとたなびかせながらベッドサイドに膝をつくと私の手をとって、そこを優しく撫で始めた。

 え、お世話以外で触ってくる人なんて、今まで夢の中に出てきた事無かったのに。

 相変わらず私の夢なのに、ちっとも思い通りにならない登場人物達にびっくりすると共に、これは嫌じゃないからまぁいいかと思い直す。


 その綺麗な人は手もすべすべで、しっとりしてて柔らかくて、でも夢の中の私より大きくて指が長かった。そのモデルさんみたいな手がゆっくりゆっくり、私の手の平を挟み込むように両手で持って大事な物を可愛がるように優しく撫でる。

 その感触まですごくリアルで、と言うかこんなにすべすべしたお肌の手触りなんて知らないのによく想像できたなぁと私は自分の無意識に感動してしまった。


 私が夢でずっと悩んでたからお母さんに一回心療内科ってとこに連れてってもらった事がある。明晰夢って言うらしいこの夢は、私が経験した事も無いものもこうして再現して見せる。そのお医者さんはあんまり真剣に話を聞いてくれず、薬も特に出ずにお母さんに「思春期特有のもの」なんて説明してただけでお医者さんに行くのはそれきりで終わってしまったけど。


 この感触まで私の夢が再現してるなんて……人間ってすごいな。

 美人は手も綺麗なのか……いや、私の夢の中なんだから、私が「美人は手も綺麗だ」って思ってるだけか。

 それにしても滑らかな肌のその手はほんの少しひんやりしていて、その心地よさにちょっとだけ体に感じていた苦痛が軽くなった気がした。

 すべすべの肌に撫でられたせいで実感したけど、この夢の中の私……すごい肌がカサカサだ。荒れてると言うかしなびてると言うか、まぁ当然かまともにご飯も食べられてないのだから。

 じっくり見た事はないけど、夢の中の私は骨に皮だけが残ったようなガリガリの体をしている。そのガイコツみたいな手を大切そうに優しく持って、その綺麗な人は私の手を撫で続けて、気が付いたら私はいつもより大分時間がかからずに眠りに落ちて現実世界で目覚めていた。

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