夢と現の
執着の重さは愛の重さ
私の知っている「夢」は毎回同じ内容だった。途中まで読んだ本を閉じて目覚めて、次に見る夢はまたその続きから読むような、ずっと続いていく同じ世界の夢。
物心ついた時からずっとその夢を見ていたから、私は毎晩同じ世界の夢を見続けるのが普通じゃないなんて分からなかったし、他の人の見る夢は普通は毎回内容に繋がりなんて無いと知らなかった。
夢はいつも同じ場所から始まる。天蓋付きのベッド、外国のお城の中みたいな豪華な部屋、美術館に飾られてるような家具に囲まれて私はベッドの中で寝ている。
夢の中なのに苦しくてつらくて、お腹の奥にズンとくる重みが居座っていて痛みに呻いていた。嫌な夢を見るとお母さんに相談したこともあったけど、「夢の中で早く目が覚めろと強く思ってみたら」なんてアドバイスしかもらえなくて、お母さん以外の大人や友達にも相談したけど夢占いなんてものをされたくらいで「豪華な部屋で過ごすのは将来良いことが起きる暗示」「病気になる夢はストレスがたまってるから」だなんてなんの解決にもならない話を聞いただけで、苦痛に満ちた夢がそれで改善する事は無かった。
あーもう、何で私の見る夢は毎回これなんだろう。みんなみたいに、空を飛んだり遊園地で好きなだけ遊んだり……ううん、現実と区別がつかないようなありきたりでつまらない夢でも良い、苦しくない夢が見たかった。私はそんなささやかな願いを抱いて家族におやすみを告げて自分の部屋に入る。
もっと怖い夢とかよりはいいじゃないかなんて言われた事もあるけど、それはそれだ。
夜自分のベッドで眠って夢の中で目が覚めるとやはりいつも通りの世界だった。豪華でキラキラしてとても素敵な部屋の中で具合が悪い私が寝ている夢。
夢の中の部屋には私の他に映画で見たお嬢様みたいな、私のお世話をするお手伝いさんが部屋の中にいるけど彼女達とお喋りする事はあまりない。みんな日本語じゃない何か違う言葉で喋っていて……まぁ夢の中だしずっと同じ世界の夢を見ているし、喋っている意味は分かるのだけど。
ただ、私が喋りたくないからなるべく口をきかないだけ。私が夢の中で目を覚ますと、何人かいるお手伝いさんの誰であってもみんな甲斐甲斐しくお世話をして話しかけてくれる。痛いところはないか、何か食べたいものはないか。私はいつもそれに夢の中の言葉で「大丈夫」と答えて目を閉じる。早く夢が覚めますようにと祈りながら。
細い呼吸をゆっくりするだけで精一杯で、声を出すと息切れして苦しくなる。でも何も伝えないのはそのせいだけじゃなくて。夢の中では体なんてずっとあちこち痛いし、痛いつらいと伝えてそれがどうにかなった事なんて一度も無かったから。
赤ちゃんが食べる離乳食みたいなのを勝手に口の中に入れられて(しかも美味しくない)、苦い薬を飲まされる。抵抗したらもっと苦しくなるのが分かっているから渋々されるがままになっているだけで、私の夢なんだからほっといてよ、好きにさせてよと思っても一度も思い通りになった事はない。
しかも、前に口に出してそう言ったらお世話係の人達が泣いたりなげいたりすごく大変なことになったのでそれ以来黙っているようにしている。あの時は夢の中の私の両親らしい派手なおばさんとおじさんも大騒ぎして大変だったなぁ。
つらくて苦しいばかりの夢はいつ終わるのだろう。夢の中の自分が死んだら違う夢を見られるかな。
私はベッドから動けない夢の中の不自由な体の首だけ少し傾けて、窓の外の晴れ渡った空を見上げた。
あーあ、早く目が覚めないかな。