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09

 実は敵が多いのはフォーラ自身だ。

 カミラやジェリンのように、上流貴族の令嬢たちから、身分が低いとか、異性にもてることが許せないとか、目ざわりだとかのくだらない理由で、悪辣ないじめや嫌がらせをされている令嬢に手を差し伸べているからだ。


『私の得物に手を出して楽しみを奪う方には、それ相応の報いを与えますわ』と牽制して、他の令嬢から受けている理不尽な中傷から令嬢たちを守っている。


 もちろん、横取りされて面白く思っていない令嬢は多い。

 それどころか、フォーラの忠告を無視したため、対立して権力で打ち負かした者もいる。


 他人に手をさし伸べることは構わないのだが、その優しさでフォーラの名誉が傷つくのを私は見過ごせなかった。


 生徒同士の争いに私が積極的に仲裁に入るつもりはない。きりがないし、いちいち原因を調べるのも大変だ。目の前で起きていることでなければ、今まで放っておいた。


 しかし、せめて彼女が守ろうとした生徒の素性も知っておきたい。その者の性格に問題がないようであれば、私が誰に何をされているか聞きだしていると触れ回って、愚かで卑怯者の名は兄にも筒抜けだと言えば、誰も手出しはできないはずだ。少しでも抑止力となるならと思って動いている。


 それで、フォーラが傲慢な態度をとり続ける必要がなくなればいい。


 とにかく、フォーラだけが悪く言われることが嫌だった。


 それに、ジェリンの場合は、上流貴族の子息に言い寄られて困っていたから、私が虫よけにもなってお互いちょうど良かったこともある。


 フォーラを救いたい。

 そんな私の気持ちをわかっていながら、彼女は自分の尻ぬぐいをさせていると思っていて、私の行為をやめさせたいようだ。


「私が悪く言われるのは構わないのです。クリフォード様が私のために、女性好きなどと評判を落とすことの方が胸が痛いですわ。クリフォード様はあんな傲慢な女の婚約者で可哀そうだと思われていてくださいませ」


 そんなふざけたことをフォーラから言われている。こっちだって、フォーラのことを傲慢な女なんて誰にも言わせたくないのに。


 ではなぜ『フォーラの得物』なんて人に後ろ指をさされるような対応をしているのか。


 それは、今までいろいろ試行錯誤してきた結果だ。


 普通に考えれば、注意するだけでいいはず。しかし、そんなことで嫌がらせをしている者たちは、手を緩めたりはしなかった。それどころか、フォーラの見ていないところで卑劣さが増したのだ。


 それがわかってから、今度はフォーラの取り巻きに入れて、派閥で守ろうとした。

 しかし、貴族令嬢はカミラやジェリンのようにフォーラに対して感謝する者ばかりではない。


 虎の威を借りる狐になって、フォーラの名前を使い、自分がされたことを他人にする令嬢が出てしまったのだ。

 それは一人や二人ではなかった。救った相手が別の被害者をつくっていたことがわかり、フォーラはその者たちを問い詰め諌めた。


 そのことで何故か、フォーラが率先していじめを行っている噂が流れたのだ。


「フォーラ様自身も格下相手に同じことをしてるのではありませんか」


 どうせそう言われるのであれば、初めから悪役をかって出てしまおう。と、表向きだけ、今のような方法をとるようになった。


 それでも嫌がらせをやめない者には、フォーラが加害者に同じようなことをする。自分たちが貶められて初めて人の痛みを知ることが出来るだろうと思ってやっているようだ。それも正論を嫌味ったらしく言って脅すだけで、理不尽なことはしていない。


 そして、頂点に君臨するフォーラも自らの行いによって、婚約者である私に疎まれている。

 学院の中で見ている者は沢山いるし、卑しく浅ましい人間だと自ら触れ回っているのだと、フォーラ自身が噂を流しているのだ。

 因果応報、悪事はいずれ自分に返ってくる、と。


 いつも、そういう芝居を彼女は続けている。


 そうしなければ、フォーラが卒業したあと、後輩の中で一番権力がある者が横暴な振る舞いをする可能性があるからだ。


 私も不本意ながらそれに付き合っている。

 だから、表向きには仲が悪いと思われるように接していた。


 それでもフォーラの顔を見れば自然と顔はほころんでしまう。

 しかし、それでは私が嫌っているようには思われないからと、睨みつけるようにいつも彼女から言われていた。中々それが出来なくて、フォーラには『そんな嬉しそうな顔をしないで』と言われてばかりだ。


「ジェリン嬢、さっきフォーラから渡されたメモ用紙を貸してくれ」

「どうぞ」


 渡されたメモには、あの時ジェリンが誤魔化すための台詞まで、事細かに書いてあった。

 これを読んで必死に演技をしていたんだな。


「それから、悪いが、フォーラと二人きりにしてもらえないか」


 私はジェリンとカミラに席を外してもらうように頼む。


「はい」

「承知いたしました」

「え? 今なんとおっしゃったの?」


 その言葉に驚いたのはフォーラひとりだった。


 学院で二人きりなどなかなかなれない。


 私たちが事件の犯人捜しをしていたことは周知されているだろうから、ここで立ち話をしていても、それに絡んだ話をしていると思われるだろう。


 こんなチャンスを逃してなるものか。


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