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08

「フォーラ様を疑うような真似をして、申し訳ありませんでした」

「事件の原因が私だったなんて、フォーラ様にはなんとお詫びをしたらいいものか……どんな罰でも受ける覚悟はできています」

「僕たちも騙されていたんです。カミラを好きな気持ちを利用されただけです。だから、どうか許してください」

「わたしはどうなるんですか? カミラさんの怪我だってたいしたことないし、ちょっと怒られるだけですよね。ねえ。そうでしょ。カミラさんも何とか言ってよ。わたしは、別にあなたが憎くてやったわけじゃないのよ。もちろん、フォーラ様のことも」


 こいつは、友人面しておいて、己の願望のために危害を加えるなんて悪辣なことをしておきながら何を言っているんだ?


「黙れ、サブリナ」

「謝ることもできないのかお前は。ここにいても不敬が増えるだけじゃないか」

「彼女はこのまま事務局に連れて行きます」

「ほら、行くぞ」


 マシューに腕を掴まれ、無理やり引っ張られていくサブリナ。

 四人の姿が遠のいても、言い訳を叫んでいるのが聞こえてくる。


 あの娘は、何が問題になっているのか未だにわかっていないようだ。大胆な犯行を企んだくせに、被害者は同格の子爵家令嬢カミラだけだから、たいした罪にはならないと思っているらしい。


 貴族として王族や高位の者の名を騙ることがどれだけまずいのか、学んでいないのだろうか?

 実に不思議だ。

 さすがに貴族籍をはく奪されれば、自分のやったことの重大さに気がつくだろう。その時にはもう取り返しはつかないのだが。


「クリフォード殿下、フォーラ様、本当に申し訳ありません。まさかサブリナがあれほど愚かだとは思ってもみませんでした」

「カミラさんが悪いわけではありませんわ。だから、あなたが気に病む必要はありません」


 心苦しそうなカミラに優しく声を掛けるフォーラ。



「あのフォーラ様。疑問に思っていることを伺ってもよろしいでしょうか?」

「何かしら?」


 第三者の立場で一連の流れを見ていたジェリンは、フォーラがいつからサブリナを怪しいと思っていたのか気になったようだ。


「フォーラ様は、怪しんでいたから、今日、検証して見せたんですよね?」

「彼女の反応はいろいろと不可解なところがありましたけれど、初めは犯人だとは思っていませんでしたし、捕まえるつもりもなかったわ。私が確信したのは目撃証言を聞いた時ですもの」


『わたしは向かい側です。図書館に本を借りに行ってから旧学生寮に向かっていました。それで、何かあったことに気がついてカミラさんのもとに駆け寄ったんです。それまでは時間になるまで図書館にいて、カミラさんがあまりにも遅かったので旧学生寮に迎えに行くため、学院内の雑木林を迂回して向かっていたんです。そこからは建物が正面に見えるのですが、その時、桃色を目にしました』


「その言葉に怪しいところなど何もないと思うが?」

「それだけ聞いたとしてもわからないと思いますわ。まず初めに、彼女が中庭にカミラさんと一緒に現れたのが私にはとても不思議でした。公には『私の得物』ということになっているカミラさんの友人として、私の目の前に現れたら、自分も同じように目をつけられて攻撃されるとは思いませんか?」

「それは、今はフォーラ様の標的が別の方に移ったから、わたしは無視をされる程度だと、彼女に言っておいたからだと思います。そのことにサブリナも気がついていたようですし」

「私には、ことの成り行きが気になって、ついてきたように見えましたわ。あの時もカミラさんの心配をされているようには見えませんでしたし、その時は私への畏れより興味本位が勝ったのかと思っていましたけれど」


 中庭で会った時にはまだ、犯人だと思っていなかったようだ。


「ところで、おふたりはどういった経緯でお友達になったんですの? 私が絡んでいた時は、彼女はあなたのそばにはいなかったのではない? だから、それも気になっていたわ」

「フォーラ様のご指導のおかげで、皆さんが手だし出来なくなって、嫌がらせがやんだ後です。普通に学院生活ができるようになってから彼女の方から声を掛けてきました」

「その頃から、あなたは先ほどの方たちとも交流があったものね」

「はい。もともと、いじめの標的になった理由が彼らと親しくしていたことなので……」

「その時から、彼女はクラウス様狙いで、カミラさんに近づいて友達になったんですね」 


 同じような立場のジェリンがなるほどと言って頷いている。


 カミラが高位の貴族令嬢たちに嫌がらせをされていた理由は、マシューたちと親しくしていたことを妬まれたかららしいのだか、カミラも誰かと班をつくるとか、ペアになる場合、女子ではなく、幼馴染の彼らたちとばかり一緒にいたせいでとても目立っていたようだ。


 些細なことに思えるが、子供同士が仲良くしているといえる年齢はとっくにすぎ、年頃になった子爵家のカミラが侯爵家や伯爵家の令息にちやほやされているさまは、マシューやクラウス、タイラーのことを想っている令嬢たちからしてみれば面白くはないだろう。

 それをフォーラが忠告したことで、カミラ自身は気をつけるようになったようだ。そのせいで彼女から距離をおかれたマシューたちがフォーラに対して逆恨みをしていたことも、彼らがあんな態度に出たことの引き金になったのかもしれない。


「話をもとに戻しますけれど、彼女は放課後も彼らとともにやって来て、私を目の前にしながら『桃色を目にした』と言いましたわ。男性たちはカミラさんのことを好きで犯人が許せなかった、と言うのはわかりますけれど、サブリナさんが私を犯人だと言うのはデメリットしかないと思いませんか。これでも私は女帝と呼ばれている存在ですから」


「彼女たちの友情が厚いとは思わなかったのか?」


「そういうこともあったかもしれません。しかし、彼女の存在を疑問に思っていたところへ『旧学生寮で人影をみたあと、何かあったことに気がついてカミラさんのもとに駆け寄った』と彼女は言ったので、おかしいと思ったのです。三番目にその場へ合流した彼女は、マシューさんのように石が落ちてくる瞬間を見たわけでもないのに、旧学生寮を見上げたりするでしょうか? それに何かあったとどうして思ったのでしょう」


「カミラ嬢たちが上を見ていたからとか?」

「いえ、心配して救護室に行こうというマシュー様を、わたしは腕をかすった程度だからと宥めていましたから、上は見ていなかったと思います」

「そうなのか」

「もし、見上げていたとしても、その時すでに犯人はいなかったはずです。きっと、もともとの計画ではクラウスさんだけに目撃させるはずだったのだと思いますわ。そして自分も目撃者としてその証言に追従するつもりだったのではないでしょうか。それが、いるはずのないマシューさんたちがいたので驚いたのだと思います」

「マシューとタイラーは予定外だったわけか?」

「私はそう推測しております。クラウスさんが別棟の二階から、カミラさんの元に駆け付けるには時間が掛かりますから、彼女は旧学生寮から脱出したあとに、何食わぬ顔で合流するつもりだったのでしょう。きっと、その場でも念押しの意味で、自分も桃色を見たと話を合わせていたでしょうから、今日、彼らの前で知らない見ていないとは言えなかったのだと思います」

「そうですね」

「それからもうひとつ、図書館もキーワードになりましたの」

「図書館ですか?」

「カミラさんが窓をよじ登るのは無理だとおっしゃいましたけれど、彼女はたぶん本を積んで足場を作ったんだと思います」

「本を?」

「犯人が侵入した窓辺には箱のような跡があったそうです。そうですわよね、クリフォード様」

「ああ、それが本だったわけか。しかし、数冊積んだ程度では高さがそれほどないと思うが?」

「大きめの本を二冊開いて向かい合わせに立て、そこへもう一冊乗せれば簡易の踏み台ができますわ。図書館で借りてきたと言えば手に持っていてもおかしくはないですもの」

「確かに、小柄な彼女なら乗っても大丈夫か」

「すごい推理ですねフォーラ様」

「それと、下足痕と髪の毛。そこにあるけど、あることに気がつかないような確かな証拠を突き付けるんですもの。彼女も足跡と髪の毛で自分の悪事が判明するなんて思いもしなかったでしょうね」

「下足痕の魔法は初めて見たが、フォーラはよく知っていたな」

「それは……」

「それは?」

「趣味のひとつですわ。独学で鑑識を学んでいましたけれど、役に立ちましたわね。おーっほほほほほほほほ」


 あ、誤魔化した。


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