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07

 本人が否定しようと、今回の犯人はほぼサブリナで間違いないだろう。

 これでは私の思惑と計画が台無しだ。何のために必死に証拠を集めていたのか。それもすべて水の泡。


 本当に最悪だ。


「どうかなされましたか、クリフォード様?」

「なんでもない……」


 まずい。

 残念がっていることが、顔に出てしまったのだろうか?


「心配なさらないでください。証拠なら他にもありますから。すでに皆さんご覧になっていらっしゃるわ」


 他の証拠だと? まだあるのか?


「そんなものどこにあった?」

「ジェリンさん説明していただけるかしら」

「ジェリン!?」


 全員の目がジェリンに向かう。


「あの、先ほど私が玄関で魔法を間違えて、廊下の奥の方が光ったのを皆さんは覚えていますか」


 十数分前のことだ。忘れるわけがない。

 サブリナ以外の皆が頷いた。


「実はあの時、私は清浄魔法を間違えたのではありません。フォーラ様から頼まれた別の魔法を唱えていたんです」

「別の魔法?」

「そうだとしても、床が光っただけで、犯人が特定できるものなのか?」

「はい。私が唱えた呪文なんですが、あれは失せ物魔法でしたから」

「失せ物魔法? いったいどういうことだ」


 意味がわからず、視線でフォーラに説明を求める。


「皆さん、失せ物魔法はご存知でしょうか。なくなったものを探し出す魔法で、精霊にお願いしながら呪文を唱え、それを聞き入れた精霊がいれば、何かの方法でその場所を知らせてくれるものです。ですから私はジェリンさんにお願いをしました。犯人が失ったものを見つけ出してほしいと」


 持ち主を探しだす魔法と同じで、人と物とを結びつける何かしらの情報がなければ、たとえ精霊であったとしても答えることはできないとされている。

 持ち物には持ち主の魔力が纏うらしく、精霊たちはそれで判断をしているようなのだ。


 失せ物と言うなら、犯人の持ち物であったはず。しかし、一階の廊下にはそれらしい物など何もなかった。


「あの時も、ただ床が光っていただけだ。それがどうやったら証拠となるのだ?」

「光っていたのは床ではなく、犯人の髪の毛です。あの場所に落ちているはずですわ」

「髪の毛?」

「そうですわよね、ジェリンさん」

「はい皆さんに順番にふれながら『精霊様、○○さんがなくした髪の毛をお知らせください』と呪文を唱えたあと光っていましたから間違いありません」


 それで犯人が誰なのかわかったジェリンは、あの時あたふたしていたのか。それは誰の時だったか?


「皆さんはご自分で掃除などされないからご存知ないかもしれませんけれど、人間の髪は一日で百本近くも抜け落ちると言われています。犯人は桃色のかぶり物を建物内で外していると思われますから、その時、髪の毛が落ちて、頭部から失っている可能性があるのです」


「え!?」


 フォーラの言葉にクラウスが反応して自分の頭に手をやった。


「クラウス様?」

「まさかお前!?」

「ち、違う。今のははずみで……こんな場所に私の髪が落ちているわけがない。フォーラ様、もったいぶらずに、それが誰なのかはっきり言ってください」


 自分ではないと言いながらも、何故か焦りまくるクラウス。


「失せ物探しは初歩の魔法ですから、どなたでも使えるのでは? 皆さんも一階で試してみたらいかがかしら。私の言葉より納得できると思いますわよ」

「ここにいる者たちは、今日初めてこの建物内に入ったのだから、あるはずのない髪の毛が廊下の奥に落ちていたとすれば、最近、ここに侵入したということになる。流石にこれ以上の言い逃れは出来まい」


 皆の視線がサブリナに向かう。

 それでさすがに観念したのか、サブリナは力なくその場にへなへなと崩れ落ちた。


「サブリナさん。ここから石を落とした犯人はあなたで間違いないかしら?」


 フォーラの質問に、やっとサブリナはこくんと頭を縦に振った。


「やっぱりサブリナだったのか」

「サブリナさん、本当にあなたなの?」


 カミラが驚きの声を上げる。サブリナがどんなに怪しかったとしても、自分ではないと言う言葉を最後まで信じていたのだろう。


 カミラの顔はつらそうに表情が歪み、瞳が潤み始めた。友達だと思っていたサブリナが自分を傷つけようとした犯人だったのだ。

 相当なショックを受けているだろう。


「どうしてそんなこと……」

「だって、ダンスパーティーでクラウス様にエスコートをしてほしかったんだもの」

「何だって?」


 自分の名前が挙がったクラウスが驚いて叫んだ。

 先ほどの慌てようから、クラウスも共犯かと思ったがどうやら違ったらしい。


「カミラさんと約束したって聞いたから、出られなくなれば、代わりにわたしを選んでもらえると思ったのよ」

「だから、カミラに怪我をさせようとしたのか!?」

「しかも、その罪をフォーラ様に擦り付けるなんて。君のせいで僕たちも破滅するところだったじゃないか」


 第二王子である私の名前を使ってカミラを呼び出し、桃色のかつらを使って公爵令嬢のフォーラを犯人に仕立てた。

 旧学生寮には勝手に侵入するし、軽症だがカミラに怪我を負わせている。

 そしてマシューたちを偽の証拠を使って騙してもいた。サブリナは罪を重ねすぎている。


 彼女のせいで、目撃者になった生徒たちも、いくら義憤に駆られたこととはいえ、冤罪でフォーラを糾弾したことは貴族社会で問題になるだろう。


 ノール公爵の耳に入ったらどんなことになるか。

 いろいろと面倒くさそうなので、全部学院の事務局の警備部に丸投げしておこう。


「まさか、こんなに大事になるだなんて思わなかったのよ」

「フォーラ様に罪を被せたりしたら、大事にならないわけがないじゃないの」

「だって、カミラさんはフォーラ様に嫉妬されて、いじめられていたんだから、その延長だと思われるはずでしょう? それにフォーラ様が犯人なら、あの程度のことでは罪に問われないわよね」

「そんなわけないでしょう! それに、わたしはフォーラ様から何かされたことなんて一度もないわ。フォーラ様が嫉妬なんてするわけないじゃない」

「クリフォード殿下はジェリンさんにご執心かもしれないけど、あなたも以前は仲良くしていたんだからフォーラ様から恨まれているじゃないの」

「それがあり得ないって言っているのよ」

「どうしてよ。殿下と仲がよくないのは知っているけど、フォーラ様って、もしかしたらクリフォード殿下のことをそれほど好きじゃないの?」

「そうじゃない。そうじゃないけど……」


 自分のやってきたこととはいえ、ふたりのやり取りが痛すぎる。そっと隣にいるフォーラを覗き見ても、表情ひとつ動かさず、否定も肯定もしない。


 この件に関してはカミラも契約上口にできないことが多いので、ここは私が収めるしかないだろう。


「犯人自身が大それたことをしている自覚が全くないことと、事件を起こした理由がフォーラには関係ないということはわかった。あとは学院の判断に委ねるから家で沙汰を待つといい。マシュー、クラウス、タイラー、おまえたちもな」


 ここでは決して口に出しては言えないが、私は、フォーラを陥れた奴を絶対に許すつもりはなかった。


 何故なら誰よりもフォーラの味方だからだ。


 犯人を捕まえてフォーラに格好良いところを見せようと思ったのに、彼女が自分自身で推理して、犯人をあぶり出してしまった。


 残念なことに、今まで集めた証拠も、採取してあった指紋もすべて、サブリナが犯人だという立証のため使うことになるだろう。


 すべては、私が犯人を捕まえる前に、マシューたちが絡んできたせいだ。

 なんてことしてくれたんだよ。まったく。


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