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03

 次の日も、私は昼食後に中庭でジェリンと会っていた。

 何も知らない生徒たちが、いろいろ勘ぐってひそひそ言っているようだが、そんなことは別に構わない。


「クリフォード殿下、あの、あそこにフォーラ様が……」


 苦言を呈されたばかりだ。私たちのことが気になって見に来たのだろう。遠巻きにはしているが、フォーラは桃色の髪が目を引くので、とてもわかりやすい。


 私がじっと見つめていれば、踵を返すかと思ったのだが、珍しいことに友人たちを置いてこちらへ彼女がひとりで歩いてくる。


 まさかこれだけ人がいる場所で小言を言うつもりか?

 今までそんなことしたことなかったのに今日はどういった風の吹き回しだ?

 とりあえず睨んでおくか。


 目の前までくると、フォーラはジェリンの方を向いて足をぴたりと止めた。


「ジェリンさんとおっしゃったかしら」

「はい。ジェリン・ロッコです」

「クリフォード様はお優しいでしょう? 困っている方には誰にでも手を差し伸べる方ですもの。中には、勘違いされてしまう女性もいて、対応が大変なのはおわかりかしら」

「はい、もちろんです」

「わかっているのでしたらいいのだけれど、クリフォード様を慕っている方で嫉妬深い方もいらっしゃるようですから、目を付けられたら、あなたも危険だと思うの。ご自身で気をつけていた方がよろしくってよ。それだけ忠告しておきますわ」

「フォーラ。こんなところで、誤解を招くようなことを言うな」


 黙っていられなくて、彼女の肩を掴んで私の方を向かせる。


「彼女に何かあったら困りますでしょ? そう言っても、お優しいクリフォード様が守って差し上げるのでしょうから、彼女に手を出すなんて恐ろしいことは、誰にもできませんわね。もちろん私もですが」


 文句を言うフォーラは無表情の上、言葉も丁寧だ。しかし、語尾が強くなってるし、端々にとげがある。


 この場を私はどう収めたら正解なのだろうか……。



 ところが、悩んでいる最中だと言うのに、また新たな問題が発生する。

 ある一団が騒ぎながらこちらへ近づいてきたのだ。


「クリフォード殿下。フォーラ様。お話し中に失礼します」


 声を掛けてきたのは、侯爵家のマシューだ。


「マシュー様。わたしのことは気にしなくていいですから、こんなことはやめてください」


 マシューの腕を引っ張って何やら止めに入っているのは子爵令嬢のカミラ。

 さきほど話に出ていた、旧学生寮で起こったという事件の被害者である。


「いや、目撃者として私が納得できないのだ。はっきりさせたいだけだからカミラは止めないでくれ」


「私たちにいったい何の用だ?」

「不敬だとは思いましたが、お二人がお揃いでしたので、確認したいことがあって参りました」

「目撃者と言ったな。それは旧学生寮の事件のことか?」

「はい。あの時のことを、フォーラ様にお伺いしておきたかったので、中立の立場であるクリフォード殿下に間に入っていただいた方がよろしいかと思いまして」

「私にか?」

「ええ、カミラが被害者なのですから」


 確かに私はカミラと親しくしていた時期があった。

 だからこそ、フォーラの肩を持つことはないと思ってもおかしくはない。


 こういった場合、王子として公明正大であるべきだとは思うが、今回の件に対して、口を出してもいいのなら、立場など無視して私だって言いたいことは山ほどある。

 そう言っても人の目があるので、その辺はわきまえているつもりだ。


 被害者であるカミラは、フォーラのことを気にしてか、憤っているマシューの態度に困っているようだ。


 しかし、彼以外にも、一緒にやってきた貴族家の子息たちが、あからさまにフォーラに疑いの目を向けている。


 身分で言えばフォーラの方が格上になるから、公爵令嬢相手にこの態度は通常ならあり得ないことだ。

 これほどの敵意をあらわにしているのは、きっと彼ら全員がフォーラが犯人だと思っているからだろう。


 その中で、カミラの友人なのか、一緒について来た小柄な女生徒だけは一番後ろでこの状況に何も言わず見つめている。


「そのことなら、フォーラにはアリバイがある。そのことは聞いていないのか?」


 私の発言で、マシューたちの目つきがいっそう険しくなる。しかし、その言葉にしっかりと頷いた者がいた。


 カミラだ。


「ええ、それは承知しております。私はフォーラ様のことは疑っておりません」

「何を言ってるんだ、カミラ!?」

「僕たちを信じてくれないのか?」

「相手が公爵令嬢であろうと、殿下がいらっしゃるのだから、カミラが怯えたり、我慢する必要はないんだぞ」


 子息たちは、一斉に騒ぎ始めた。どうやら、全員が事件の現場で、桃色の髪の人物を目撃したらしい。


「みんなの証言を信じてないわけではないわ。ただ、フォーラ様が今更わたしなんかに、そんなことをするはずがないわよ」

「カミラがどう思っていようとそれは構わない。しかし、私は真実を知りたいのだ」

「フォーラ様も、こうやっていつまでも疑う者がいるのは困りますよね。犯人があなたでないのであれば、アリバイ以外で立証してもらえませんか」


 フォーラに訴えかけているのは伯爵家のクラウス。その場の勢いもあるのだろうが、犯人ではないことを証明しろだなんて、かなり無茶なことを言っている。


「みんなもうやめて」


 カミラ本人は、こんな断罪のようなことはしたくなさそうだが、周りの男どもが引きそうにない。わーわーといつまでも自分勝手な意見を押し付けてくる。


 納得がいかなくても、証言ではなく確実な証拠を突き付けない限り、誰も罪に問うことはできないのだ。

 感情だけで動くのはやめてほしい。


「私は犯人ではありませんわ」


 そんな状況で初めてフォーラが口を開いた。


「事件のことは学院の事務局が調べていると思います。疑うのは皆さんの勝手ですけれど、私には関係ないことですわ」

「フォーラが言っている通り、関係者には聞き取り調査もしているはずだぞ」


 うちの暗部も情報を集めている。あとは証拠をもとに犯人を割り出すだけだ。


「確かに私たちは、証言を求められて調査にも応じました。ですが、犯人によっては公にできないかもしれません。学院で証拠自体を隠蔽する可能性があると、我々は思っています」

「当たり所が悪ければカミラは大怪我をしていたかもしれないんです。殿下はそんな卑劣な人間を許しておけというのですか?」

「犯罪者は絶対に罰するべきです」


 最後に意見を言った男子生徒にも見覚えはあるのだが……こいつは確か子爵家のタイラーだったか?

 とにかく、全員がフォーラを犯人だと決めつけている。


 ここまで詰め寄られると、逆に寄ってたかってフォーラのことを女帝の座から引きずり下ろそうとしているようにも見えるのだが? そうなると、髪の色の証言自体が怪しくなる。


「それで、皆さんは私にどうしろとおっしゃるのかしら? してもいない罪を認めろと?」

「逆です。私はフォーラ様を疑ったまま、もやもやしているのは気分が悪いので、犯人ではないという確証が欲しいだけです」

「それに犯人が捕まらないとカミラもずっと怖い思いをしたままですから」

「確証ですか……」


 私ですら、まだ証拠の精査ができていない。

 実際にまだ犯人にはたどり着いていないのだ。フォーラに犯人ではない証など出せるわけがないだろう。


「それほどお疑いでしたら、しかたありません。では、証拠をお見せしましょうか」

「「「証拠を見せる!?」」」


 フォーラの言葉にそこにいた全員の声が重なる。


「放っておいても犯人は事務局が捕まえてくれると思っておりますけれど、そんなに皆さんがおっしゃるのなら、私が犯人ではないという証をお見せしますわ」

「いったい、何をするつもりだフォーラ」


 フォーラが身の潔白を証明する方法があると言うならば、何でも試せばいい。しかし、証拠はすべて押収されているのだ。果たしてフォーラにそんなことが出来るのだろうか。


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