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・魔大陸を動かそう

「わかっちゃいたが、誰もいねーな……」


 朝を迎えても町は空っぽだった。

 一日の中で最も人が忙しなく行き来する時刻だというのに、居住区の往来はどこもかしこも無人で、そこには静寂と微かな風音しかなかった。


 俺はニアに『行ってくるよ』と声をかけてから家を離れて、まずは昨夕見つけた見晴らしのいい公園に立ち寄ることにした。

 公園だというのにここには親御さんも真っ青の崖があって、そこから居住区の外側を一望出来るからだ。


 正面にはなだらかな傾斜面がある。ゆったりとした段々畑が広がっていて、それがどこまでも続いていた。

 また、右手側の麓には広い平地があって、そこには広大な牧草地があった。


「ヤベ、なんかすげぇ寂しい……。いや寂しいっていうより、これって――」


 そこに家畜はいない。家畜がいないのに牧草地は整然と管理され、所々に白い花々が咲いていた。


 そして極め付けは丘の上に広がる花園だ。

 都市の一番高い場所を、マク・メルは全て花で埋め尽くしている。


 それは寂しくて、とても悲しい世界だった。


「まるで墓標だな。ここで生きているのは俺だけなんだろな……。はぁ、クソ寂しい……」


 昨日まではただ美しいとしか感じなかった世界が、急に悲しく様変わりして見えるようになったのは、ニアのことを知ってしまったせいだ。

 ニアはここでずっと待っていた。俺たちの祖であるヴェズンが帰ってくる日を。


「って、なんで朝っぱらからしんみりしなきゃいけないんだよ。待ってろニア、すぐ直してやるからなっ!」


 俺は公園でのスクワットを止めて、目標を丘の上の花園に定めた。

 まずはマク・メルの中枢を探そう。きっとそこにコンソーメがあるはずだ。


 そこから情報を引き出せば、ニアを直す方法が見つかるかもしれない。

 俺は自覚のある構ってちゃんだ。誰もいない世界で、ブツブツと独り言だけ言って生きるなんて堪えられねー! 話し相手プリーズ!


 といったわけで、俺はマク・メルの中枢を探して丘の上の花園をさまよい歩いた。

 ここには鳥すら棲んでいない。生ける者は俺だけだ。


「おかしいよな……。俺の立場からすると、結構理想的な潜伏先のはずなんだが、ここにいると国に帰りたくなってくるわ……」


 国に帰って、父上とバランに文句を言いたい。

 お前らのせいで魔大陸に飛ばされて、とんでもない目に遭ったと愚痴りたい。


 なのに行けども行けども花、花、花、花。

 寂しくて悲しく美しいゆえに、背筋が凍るほどに怖い世界を歩き回り、そして――ようやく目当ての場所を見つけ当てた。


 花園の中央には一度立ち寄ったが、もしかしたら何か見落としがあったのではないかと思い立ち、引き返してみればビンゴだ。

 中央にそびえる石柱型のモニュメントは、よく見るとアーティファクトの類だった。


「昨日のパターンだと、3回しくじったら明日までお預けみたいだし、慎重にやらないとな……」


 立地からすると、たぶんここがマク・メルの中心核だ。

 丘の最上部にあり、花園の中心で、広場の中心でもある。


「いざこの隔壁を開けてみたら、納骨堂が現れたりしてな。……てか、そっちの可能性のが高くね?」


 もしもお墓とご対面なんてしたら、ますますセンチメンタルな気分になってしまう。

 マク・メルへの夢とロマンが、寂しい墓場という事実に置き換わってしまう。


「いやぜってーここのはず! ニアを直すか、帰る方法を見つけないと寂しくて死ぬ! ってことで、起きろアーティファクトッ!」


 巨大なモニュメントに[覚醒]の力を放つと、その表面に無数の光るラインが走った。

 ブォン……と低い稼働音と共にモニュメントの隔壁が開くと、あの転移装置があった場所のように壁が淡い光を放ち初める。


 隔壁の向こうには、果てが見えないほどに深い階段が続いていた。


「なんとなくだけど、こりゃ墓じゃないな。こんなド派手な墓場があってたまるかだし」


 頼む古代人、どうか常識人でいてくれ。

 俺は奇妙な地下階段へと入り込み、大きな螺旋を描きながら長く果てしなく続く道を歩いた。


 胸がドキドキする。ハラハラもする。客観的にも主観的にもこれは大冒険だ。


「ふぅふぅ……つか、長っ?! 実用性どうなのこの場所っ!?」


 わざわざ丘の上まで行って、それからグルグルと下らなければたどり着けない場所に、果たして中枢を置くだろうか……?


「マク・メルの最深部って感じはするけど、帰るのも来るのもダル過ぎだろ……。あ……っ!?」


 螺旋の先に部屋の入り口らしきものを見つけた。

 俺は扉に駆け寄る。


「閉まってんな……。これも再稼働させないと動かない系か……」


 そこで少し悩んだけど、結局開けることにした。

 だって、ここまで来て何もしないで引き返せるわけねーじゃん! 手ぶらで引き返すのは嫌だ!


 本日2回目の[覚醒]の発動で、残る鍵は1つになった。

 再稼働した扉が独りでに開らいた。俺が扉をくぐり抜けると、いきなり閉まった。


「え、まさか罠っ!? って……は?」


 ビックリして引き返すと、扉がまた独りでに開いた。

 どうやら一定の距離まで近付くと開き、離れると自動で閉じるようだ。


「うわっ、何コレ面白いっ! 開けーっ、閉まれーっ、開けーっ、閉まれーっ、ははははっ、自分で開け閉めすりゃいいのに、古代人ってバカだなぁっ!」


 ……こんなどうでもいい機能のために、アーティファクト稼働の鍵を一つ消耗させられたのかと気づくと、少し腹も立った。

 しかし扉に背を向けて、薄暗い室内を眺めると気が変わった。


 見覚えのある構造だった。

 俺の知っている神殿や、転移装置があったあの部屋にどことなく雰囲気が似ている。


 もしここが転移装置の部屋ならば、地上に帰れるかもしれない。

 薄暗い部屋を手探りで観察し、やがて俺はコンソーメに似た設備を見つけ出した。


 ただしこれも稼働していない。

 もしもこれが自動扉のようなどうでもいい装置なら、明日までアーティファクトの起動はお預けだ。


 息を大きく吸い込み、覚悟を決めて本日最後の[覚醒]の力を発動させた。


「おお……!」


 すると部屋に光が灯った。

 目の前にコンソーメが現れた。それもただのコンソーメではない。

 画面のバカでかい大げさなコンソーメだった。


「なんだ、これ? 変な文字がいっぱいだな……。おっ、よかった、これは読めるやつだ」


 半透明の画面に意味不明の文字と数字があふれた。

 かと思えばそれは消え去って、あの遺跡で見たやつと似たような画面が現れた。


 これは情報の閲覧が出来るやつだ。ニアを直す方法を求めて、俺はいにしえの文字を追った。


「なんだこれ、複雑過ぎてよくわかんないぞ……」


 ・カテゴリー別

 ・検索

 ・履歴


 とあったので、なんとなく一番上を押してみると、無数の項目が現れた。

 目に付いたのは――


 ・マク・メルの歴史

 ・マク・メルの機能

 ・今流行りの最先端ファッション特集 アゲアゲドレスで彼のハートをゲットしちゃおう


 選ぶべきは真ん中だけど、下のやつがなんか気になるな……。


「歴史はどうでもいいや。知れば知るほど悲しくなるって、ニアの件で十分わかったし……」


 コンソーメを操作して、最先端ファッション特集を閲覧したい気持ちを抑えて、このマク・メルの機能とやらを閲覧した。

 アゲアゲドレスって、やっぱエロいのかな……。まさか、油で揚げたドレスか何かか?


「ニアを直す装置……ニアを直す装置……ニアを直す……ダメだ、わからん……。あっ!?」


 お目当ての装置は見つからなかったが、気になる項目があった。


 ・地上のサルでもわかる浮遊都市マク・メルの動かし方


 ほんのりヘイト値高めなのが気になったが、選択して閲覧してみる。

 古語なので要領を得ないが、要するにこのコンソーメから命令を出せば、この魔大陸を動かせるらしい。


「あ、そうだ、手始めに里帰りでもしてみるか」


 俺は何も考えずにノリだけでコンソーメを動かした。


 ・移動 → ・スヴェル王国 → ・ホワイトパレス市 → ホワイトパレス城


 そこまで選択してゆくと、最終確認が画面に表示された。

 空の上からでもいいから、この目で生まれ故郷を見れば気分が落ち着くかもしれない。それに――


「はははっ、これ見たらみんな驚くだろうなぁ! よしっ、見せびらかそう!」


 コンソーメは『本当によろしいですか?』と聞いてきたので俺は『はい』を選択した。

 ん、今少し揺れたかな……?


 それ以外の変化はこれといってない。

 画面には、到着は3日後の昼だと表示されていた。


「……あ。じゃなくて、ニアを直す方法探さないと!」


 さらに俺はコンソーメをぽちぽちして、どうにか都合のいい装置はないかと探した。


 ・マク・メルの機能

 ・防衛装置

 ・マスドライバー砲


 男心がくすぐられて、なんとなく選んでしまった。

 そしてその中に、さらに男心を熱くする単語が含まれていたため、ノリと勢いで閲覧した。


「お、大砲発見、使うっきゃないな」


 砲って付いてるし、大砲だよな、これ……?

 場所はB02-15区画? いや、どこそこ?


「地図……地図……地図……あった」


 この装置の使い方がだんだんわかってきた。

 さっきこの魔大陸に移動を命じられたということは、これがこの大陸の中枢だろう。


 しかしマスドライバー砲ってどんなだろうな。

 きっとカルバリン砲やセーカー砲みたいなやつだよな?


 いいな……絶対的な高所からの一方的な攻撃! まさに魔大陸だ!

 これは絶対稼働させよう。どうやらB02-15区画は、俺とニアが最初に出会った場所からすぐそこのようなので、そんなに迷うこともなさそうだ。


「これ、城に撃っちゃおうかな……」


 大砲の一発でもぶち込んでやったら、少しは気が晴れるかもしれない。

 幽閉された上に、毒殺までされかかったんだから、大砲一発くらいいいよな……?


「よーしっ、里帰りだ! 待ってろよ父上、バラン! ビックリさせてやるからなーっ! って、ニアのこと忘れてたわ……」


 その後もコンソーメに張り付いて、俺はニアを直す方法を探した。


 だが見つからなかった。

 『工房区画』とやらがコンソーメ上では存在しているのに、地図はこのマク・メルにそんな番地はないとこちらの質問を却下した。


「ボッチはもう嫌だ! 頼むから俺に話し相手をくれよっ、マク・メル!」


 それからずっと、俺はニアを直す方法だけを探し続けた……。


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