・ニア
ニアが案内してくれた家は、一人で暮らすのにちょうどいい平屋だった。
家具がどこにもないせいで、クソ殺風景という一点をのぞけばな……。
「レグルス様。オ食事ヲ、オ持チシマシタ。(*・ω・)」
「ありがとう、超待ってた!」
ニアとおかしなやり取りをしている間に、時刻はもう夕方に入っていた。
何を食べさせてもらえるのかなと、内心ちょっと期待をしたりもしていた。だが……。
「召シ上ガレ」
「あ、うん……なんとなくそんな予感もしてたー……」
ニアが抱えて帰ってきたのは、泥付きのニンジンとジャガイモだ。合計で3kgほどもあった……。
「何カ、問題、ゴザイマスカ? (*・ω・)」
「……ないよ」
「嬉シ……。マスター、ニア、ハ、嬉シ……。(*・ω・)」
生かよっ! ってツッコミ入れたらあの泣き顔をするだろうな……。
生か……生だな、生だけど、食い物があるだけマシか……。
俺はニンジンを一本取って泥を払った。
「なぁ、ニア。厨房とかはないのか……? なんでここ、家具がないの?」
「家具、昔ハ、アッタ。デモ、家具……朽チタ。(T _ T)」
「700年だっけ、そりゃそうか……。厨房は?」
「ソレナラ、バ―― (*・ω・)」
ところがどうしたのだろう、急にニアの顔が点いたり消えたりを繰り返し始めた。
「おい、どうした? 大丈夫か、ニア?」
「……。(T _ T)」
さらには急にまた膝を突いて、鈍い動きで顔をこちらに見上げるのだから心配になった。
ニアの身体はどこも冷たい。やはりこれは塗装をされた金属のようだ。
「ニア、悪い冗談は止めろってっ……」
「オカエリ、ナサイ、マセ……。嬉シ……マスター、帰ッテ、来テ、クレタ……。コノ日、タメニ、マスター、好キ。嬉シ、嬉シ、嬉シ、嬉シ……ウレ、シ、ィ……」
ニアの顔から光が消えた。それっきり全く動かなくなってしまった。
もしやと思い、覚醒の力をニアに使ってみたけれど、全く効果がなかった。
「ニア、まさかお前……壊れたのか?」
せっかく話し相手が出来たと思ったのに、そりゃないぞ、ニア。
俺はここからどうやって帰ればいい? 人をマスターにしておいて、勝手に壊れるなよ……。
「なんとか言えよ……」
変なやつだけど、どうにかして直せないものだろうか。
直せるものなら直してやりたい。
せっかく幸せそうにしていたのに、その矢先に壊れるだなんて、そんなのはあまりに可哀想だ。
泥付きのニンジンをもう一度取ってそれを眺めた。調理しようにも火種がない。
だがせっかくニアが取ってきてくれたやつだ。俺は生のままでニンジンをかじった。
「あ、美味い……」
生なのにほんのりと甘くて、ニンジンとは思えないほどに瑞々しい。
一口、もう一口だけだと、ついついがっついてしまって、こんなに生野菜を食べたら腹を壊してしまわないかと、後から我に返るほどだった。
ニア、これってお前が作ったんだよな。お前、なかなかやるじゃないか……。
・
生でも超美味いニンジンだけで腹を膨らませて、夕暮れのマク・メルの農園を見回すと大きなトマトを見つけた。
その日の探検の成果はそれだけだ。
暗くなってきたので、自分の家がわからなくなる前に道を引き返した。
ちなみに好奇心で隣の家に入ってみたところ、これがだいぶ酷い有り様だった。
いつかマスターが帰ってくると信じて、ニアはあの家だけを管理してきたのだろうか。
そんなふうに想像を膨らますと、諦め切れなくなって覚醒の力をもう一度ニアに使ってみた。
やっぱりダメなものはダメらしかった。
どうやらアーティファクトへの覚醒スキルの公使は、かなりの魔力を使ってしまうようだ。
3発目になると発動すらしなくなっていた。なのでその日は硬い床で寝た。
「ニア、ありがとう。必ずお前を直すからな」
いきなり壊れた困ったやつに、つい何度も話しかけてしまったのは、ここだけの秘密だ。
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