・(T _ T)
世界は丸かった。雲海の彼方にある地平は、ほんの微かな丸みを帯びていた。
ここから世界の最果てが見えないのは、やはりこの世界が丸いせいなのだろうか。
どちらにしろ価値観を根底からひっくり返された。
これが世界の真実の姿だ。世界はあまりに広大で、それに対して国家はあんなにも小さい。
あれっぽっちの大地のために、弟が兄を毒殺する価値があるとは全く思えなくなった。
「いや、この魔大陸もすげーけど、世界もデカすぎだろ……。アレって、どこまで行ったら最果てなんだ……?」
腹が鳴った。しかしそれでも目が離せなかった。
少しシャレた言葉を使えば、パラダイムシフトってやつだった。
自分の中で世界の見方が変わって、何もかもが新鮮に感じられた。
ところで何か足音がしたような気がして、俺は座ったまま上半身を背後にひねった。
「うおわっっ、なんだお前っ!?」
すると尋常じゃない姿形をした怪物が一体、こちらに歩いて来ているものだから、危うく命ごと大地に還ってしまうところだった。
たぶん、モンスターではない。全身が白い何かで出来ていて、まるでカカシみたいに身体が細かった。
身長は2m弱、カカシと例えたが足は二本ある。けど顔には鼻と口がなくて、巨大な光る目が一つだけ付いていた。
こちらが剣を抜いても向こうはお構いなしに迫ってくる。崖を離れると、俺の方に方向転換までした。
「ちょ、来るなってっ! 勝手に入ったのは謝るけどっ、怖いよお前っ?!」
正体不明というのはそれだけで恐怖だ。
ところが……一つ目だと俺が思い込んでいた場所に、文字が浮かび上がった。
『T _ T』と記されているが、これはいったい……。
こちらが当惑していると、その変な一つ目は恭しくも古風なお辞儀をした。
それから敵意はないとアピールしたいのか、地に膝を突いて見せてくれた。
今度は『 - _ - 』だそうだ。
「顔……? え、それ顔か……?」
「 (^ _ ^) 」
何、コイツ……。これ、生物じゃないよな……?
「オカエリ、ナサイマセ」
「意外と高い声してんな、お前……」
こんなにバカでかいのに子供みたいに甲高い変な声だった。
「イツカ、帰ッテクル。ソウ、信ジテ、オリマシタ……。(T _ T)」
「いや人違いだ。俺はレグルス、ウェズン王家を廃嫡されたマヌケ王子だ」
「ヤハリ、ウェズン様……嬉、シイ。オカエリ、オカエリ、ナサイマセ、ウェズン様……! 貴方ガ、ゴ不在ノ間、741年、マク・メル、ヲ、守リ――」
「んな生きてねーよ、俺っ!?」
ビシッとツッコミを入れてみたら、そいつの身体はまるで金属みたいに硬くよく響いた。
……というかそのまんま金属だろ、コレ?
「…………。(T _ T)」
「いや泣かれても。変なやつだなぁ……」
敵意がないどころか、いきなり好かれているようなので剣を腰に戻した。
かと思ったら光る光線をピャーッと放ってきたので、驚いた俺はまた剣を抜くはめになった。
「ちょ、今のなんだよっ!?」
「理解シマシタ。貴方ハ、ウェズン様ニ近ク、遠イ、存在。ウェズン様ハ、亡クナラレタ。理解、シマシタ……。(T _ T)」
「会話が噛み合ってねー……」
「オ会イ出来テ、嬉シイ。私ノ名ハ、ニア。ヨロシク、レグルス様」
ところで敵じゃないと安心したせいか、また腹が減って来た。
「ニアか。意外とかわいい名前だな」
「嬉シ……。(*・ω・)」
姿形はデカくて細くて何から何まで無機的なのに、顔だけこれだからギャップが凄まじい。
いや、そんなことより飯だ。
「来て早々で悪いがニア、俺は母親を失った子猫ちゃんみたいなものだ」
「……。(T _ T)」
「泣くなよ、たとえ話だって……。それよりニア、俺に休める場所と食べ物を分けてくれないか?」
「ソレナラ、新タナ、マスター、ニ、貴方ヲ登録、スレバ、ソレハ可能」
「そうか、ならマスターになる。マスターになるから早く飯をくれ」
「承認。大賢者ウェズン様ノ末、レグルス・ウェズン。登録プロセス完了。……始メマシテ、レグルス様、ドウカヨロシク、オ願イシマス。(*・ω・)」
なんかこう、手続きに重みが全くないな……。
膝を突いた無機物の巨人が、乙女みたいに肩や腰を揺する姿はやはりシュールだ。
「俺なんかをマスターにしてよかったのか? こっちは飯食いたいだけだぞ?」
「肯定。本日コノ場ヨリ、天空都市マク・メル、ノ、全テガ、貴方ノ物デス」
「マジ?」
「マジデ。( - _ -)」
「へーー。それじゃ、飯と休める場所を俺に提供してくれ、ニア」
「ゴ命令、トアラバ。コチラヘ。(*・ω・)」
ニアは立ち上がり、農地と家々が立ち並ぶエリアに俺を案内してくれた。
ああ、やっとまともな物が食える……。
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