・大陸合体から始まる防衛戦
「マク・メル――合、体っ! うぉぉぉぉーっ、男のロマンじゃぁぁぁーっっ!!」
大地が揺れて、大陸と大陸が繋がった。
モンスターたちがこちらに渡って来る前に、俺は向こうの大陸へと潜伏して、まずは足場固めを始めた。
「お兄ちゃん、右の方にリザードマンが3体いるから、気を付けて……。って、なんでもそっちに行くのっ!?」
「ナイスだプラチナ。ここ一帯を安全地帯にする」
案内通りに右手に向かうと、リザードマン3体が散らばっていた。
剣と盾で武装しているが、集団行動を取らないのがやつらの弱さだ。
変換で切れ味強化済みの剣で、まずは1体を奇襲で叩き斬った。
「つ、強い……」
すぐに変換スキルでの再研磨だ。刀身を撫でながら2体目に突っ込む。
ヤツは応戦したが、一太刀目を空振りさせられると、血しぶきとともに大地へと転がった。
3体目も同様だ。全て片付けた。
「プラチナ、近隣に敵は?」
「あ、はい……少し離れた左手に、スケルトンが2体……」
「そうか。ならそれは始末しておくから、ニアと爺さんの方にも目を配っておいてくれ」
「はい……。こんなにお強いなんて、私知りませんでした……」
「戦争になれば、王子が指揮官にされるからな。強いに越したことはなかったんだ」
スケルトンを発見した。
スケルトンといえば硬く厄介な不死者だが、骨盤や背骨を斬れば無力化は簡単だ。
最初からこいつらは敵にならなかった。
こうして俺は安全地帯を確保すると、モンスターたちが俺たちの大地に進撃してゆくのを確認した。
みんなが心配になったが、最初から織り込み済みの展開だ。
俺は敵の側面を突いては下がり、確実に数を削りながら仲間の負荷を減らしていった。
「お兄ちゃん、そこ一帯は安全です。ニアちゃんの方も大丈夫みたい。というよりニアちゃんが凄く強くて……全然余裕みたいです……!」
「ニアは怒ると怖いだろうな……。そうそう、ガラント爺さんに伝言を頼む、爺さんなんだから無理すんなよ。と頼む」
「煽っちゃダメですよ……っ。あっ!? 後ろから敵が来ます。数は、7体くらい……お兄ちゃんを狙ってます……っ」
「よし来た。回り込んで側面を突こう」
もしもマク・メルと出会うことなく、あの政治犯たちと合流していたら、こんなゲリラ生活をしていたかもしれないな。
側面を突いた俺は3体を奇襲で倒した後に逃走し、プラチナのサポートを受けてまた、横へと回り込んで残りを片付けた。
マク・メルの超技術と、意外と冷静なプラチナのガイドのおかげだった。
とはいえまだまだ敵は山ほどいる。
俺はプラチナ公認の安全地帯で休憩を取りながら、モンスターたちを確実に各個撃破していった。
・
「終わったよ、お兄ちゃん! 今のところ敵影ゼロですっ!」
「ふぅ……っ。さすがにくたびれたな……。プラチナは悪いが引き続き索敵を頼む。1体でも残すわけにはいかない」
「うん、統星お姉ちゃんにも空から手伝ってもらうから、平気だよ」
「それがいいな。もし見つけたら教えてくれ」
どうやらみんなの能力を過小評価していたようだ。
俺だけ駆けずり回ることにはなったが、結果は圧勝で終わっていた。
「……腑に落ちない点はあるが、これで工房区画を確保か」
一体誰が、もう一つのマク・メルに俺たちを導いたのだろう。
気持ちの余裕が出てくると、そんな当たり前の疑問が浮かんだ。
こんなことが出来るやつはそういない。
マク・メル自身がこれを望んだのか。あるいは――だ。
「お、お兄ちゃん……なんか、大きいのがいる……。目が一つだけで、でも大きくて、気持ち悪い……」
「レグルス様、オ気ヲ付ケヲ! ソレハ、別次元ノ怪物、ヨグデス!(・_・;)」
「場所は?」
「お兄ちゃんから見て3時の方向だけど……お、お兄ちゃんっ!?」
「背後を取る。案内してくれ」
大物相手ならニアを参戦させたくない。
もしもニアが壊れたら、俺たちは自力で畑を管理しなくてはならなくなる。
いや、ニアは俺たちの仲間だ。
やっと直ってくれたニアが、もう一度壊れてしまう展開なんて俺はお断りだ。
「そうだ、例の物はまだ残ってるか?」
「う、うん……」
「統星に運ばせてくれ。ニアは壊れたら困る、待機だ。ヨグとやらは俺たちが片付ける」
「レグルス様! マスターヲ、オ守リスルノガ、ニア、ノ役目ナノニ、ナゼ……!(´・ω・`)」
「畑を耕すニアを見ていたいからだ。君は俺たちの道具ではない、俺たちの仲間だ! 戦うための道具じゃない!」
決戦場は大陸の中心部、どこかで見たモニュメントの前だった。
俺はそのモニュメントの裏に忍び込み、プラチナの援護のかいもあって一つ目の怪物ヨグの後ろを取った。
・
剣をもう一度研いで、俺は体長2.5mはあろう悪鬼ヨグの背中に突っ込んだ。
大地を蹴って飛び上がると、ヤツの心臓めがけて剣を突き刺した。
「ハズレか」
血が激しく吹き出さないということは、そこには心臓がないということだ。
再度反対側に刃を突き刺してみたが、そこもまた急所ではないようだった。
怒れる鬼の腕から逃れ、距離を取る。
それは気味の悪い巨眼の怪物だ。ヤツが大地を殴り付けると、魔法のように大地が割れて俺の足場を奪った。
「コイツ、賢い……ぬぁぁっ?!」
ヤツは大地を割って俺の機動力を奪うと、その恵まれ過ぎの体躯から拳を繰り出した。
ソイツを俺は拳ごと斬り払った。
結果、直撃は免れたが、俺はモニュメントに背中を叩き付けられてしまったらしい。
「お兄ちゃんっ、大丈夫っ!?」
「痛い」
対してヨグは痛みを感じていないようだ。
斬り落とされた腕を拾い上げて、患部と患部を押し付けだした。
たったそれだけで、断たれた腕が繋がっていた。
「これは――若干、俺と相性が悪いな」
「あの、だったらみんなが来るまで下がってっ、お兄ちゃんっ!?」
「いや、柄にもなく燃えて来た。コイツは俺が倒す」
落とされた右手をかばうように、ヤツは左手で大地を連打した。
その一つ一つが大地を引き裂き、再び俺の動きを止めようと暴れ回った。
「これでも食らえ、目玉野郎!」
ちょうど地面がやわらかくなっていたので、俺は土を左手で掴むとそれを目潰しに使った。
古来より巨人の弱点は目玉と決まっている。成功した。
再び変換の力で刃を研ぎ、ヤツへと飛び込む。鬼の首を狙った。
ヤツは後方に飛び退いた。いやそれだけではない。
黒いあの亡霊戦士を4体も召喚して、己の盾に変えていた。
「汚ねーぞっ、そんなのアリかよっ!?」
亡霊戦士を2体倒し、俺はやつらとの距離を再び取った。
厳しい状況だったが、あの召喚を何度も使われたら振り出しに戻されてしまう。
迫り来る亡霊戦士を倒すと、またヨグが新たな怪物を召喚する。
このままでは切りがなかった。
「お待たせレグルスッ!」
「来たか、統星!」
そこに統星が駆けつけて来た。
彼女のフットワークの軽さは天性のもので、俺が指示を出さずとも即行動に出てくれた。
それは壷に密封された特別な燃料だ。
アルコールの成分をさらに組み替えて、より燃え上がるように調整したものを、統星は空高くからヨグの頭めがけて投下した。
「レグルス離れてっ、燃えろーっ!」
そこへ統星が燻る枯れ草を落とすと、炎が天高く立ち上った。
炎に巻かれて巨体の鬼が暴れ回り、しかしそれでも絶命しない。
だがおかげさまで隙だらけだった。
「ええっ、これでも死なないとかおかしくないっ!?」
「だったらトドメを刺すだけだよ」
「でも、どうやって!? 炎に巻かれてるのに近付け――え、それ投げるのっ?!」
「他にないだろ。……あ~よっこいしょっ!」
剣を投げ槍にして、ヨグの巨大な目玉を貫いた。
やはり巨人の弱点は目玉で間違っていなかったようだ。
ヨグの巨体が大地へと膝を突いて、燃えながら前のめりに倒れていった。
「そのかけ声、もうちょっとどうにかならなかったかなぁ……あっ!?」
「大変、モンスターたちが消えていきます……!」
どういう理屈かわからないが、ヨグと一緒に全ての死体が消えていった。
後に残ったのは赤々と大地を焼く炎と、それに焼かれる俺の剣だけだった。
少しもったいないことをした。
しかし剣1本の代償でこの大地が手に入ったと考えれば、十分過ぎる成果だろう。いや、それよりも――
「統星、問題も片付いたことだし、ちょっと付き合ってくれ」
「え……? あ!」
『覚醒』の力をモニュメントに使うと、案の定そこに下り階段が現れた。
俺は統星に手招きして螺旋の道を下り、やがてすぐに工房区画の中枢へと到達していた。
あちら側と違ってそこにはコンソールも画面もなかった。
しかし代わりに地下工房が眠っていた。
ニアに似た小型の人形が50体近く並べられていて、統星が興奮に飛び付こうとするのを、止めるのがなかなか大変だった。
「なんで止めるのっ! これって小さなニアだよっ!? 起動させてよ、お願いレグルス!」
「落ち着け、まともな物かもわからんだろが!」
「一つだけでいいからお願い!」
「数の問題じゃないだろ、もしこれが襲って来たらまた振り出しだぞっ!?」
「じゃああっちまで1体持って帰ろうよーっ!」
「こんなの抱えたら腰が死ぬわ!」
こうして俺たちは工房区画を手に入れた。
オモチャの山を見つけて統星は興奮しっぱなしだったが、手のひらサイズの小さなニアを見つけたことで、ようやくそれを持って引き返すことになった。
・
「見て見て、ガラントお爺ちゃん! ほら、ちっちゃいニア見つけちゃった!」
「小型化……!? うおおおおおーっっ、男のロマンじゃぁぁーっっ!!」
「なんでもロマンじゃねーかよ……」
しかしニアの姿がどこにもない。
みんなに聞いてみても、誰も姿を見ていないそうだった。
「ねぇねぇ、レグルスー♪」
「ダメだ、動かすのはニアに相談してからだ」
マク・メルは失われた大地、セクター7を取り戻した。
だというのに、一番喜んでくれるはずのニアがどこにもいない。
昼食の時間になってもニアは姿を現さず、いよいよおかしいことに俺たちは気づいて、工房区画を含むマク・メル中を探したが――夜になってもニアは帰ってこなかった。




