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・制御不能になりました

 その夜――


「あれ……?」


 一人だけ床で眠っていると、ベッドの上の統星が急に小声を漏らして身を起こした。


「どうかしたか……?」

「あ、ごめん、起こしちゃった……?」


「たまたま眠りが浅くなっていただけだ、気にするな」

「ごめんね……なんか、あたし……」


 統星がベッドに腰掛けて、床に寝転がっている俺を見下ろしている。

 悪夢でも見たのだろうか。こちらも身を起こして視線を見つめ返すことにした。


「よければ散歩にでも行くか?」

「あ、それいいね。レグルスと一緒に、うん、一緒に外が見たいかも……」


「なら決まりだな」


 プラチナを起こさないように身を起こして、俺たちは家を抜け出した。

 月はガラント爺さんの頭みたいな三日月だ。


 爺さんとの出会いは俺たちにとって収穫だったが、月の情緒が若干失われたのが痛手だ。

 そんな失礼な思考回路をしているのは、まず間違いなく俺だけだろうから問題はない。


「うーん……なんだったんだろ」

「何って、怖い夢を見たんじゃないのか?」


「違うよー。なんか……変な感じがして、起きちゃっただけ……」

「ふーん……。言われてみれば、今夜は風がないな……」


 浮上したマク・メルの周囲には強風が吹いているそうだ。

 だがマク・メルの内部では微風がそよぐだけだ。

 もっぱらその風は、必ずといってマク・メルの進行方向から吹いていた。


「ねぇ、レグルス、ここってさ……。いつだって南の方から風が吹いてなかった?」

「そこはマク・メルの針路と関係があるんだろうな。ん……そうなるとつまり……いや、まさかな」


「えっえっ、まさかって何がっ!? ちょっと怖い言い方しないでよっ!?」

「いやさ、実際これって、ちょっとばかし怖い話かもしれないんだけどさ……」


 いつもならば夜のマク・メルから地平線の彼方を眺めると、ゆっくりと黒い山陰が動いて見えた。

 だが今はその山陰が星空と同じく止まっている。


「溜めすぎだって、言うならハッキリと言ってよっ!?」

「……じゃあ言うけどさ。これって、止まってね?」


「へ……?」

「ほら、あの地平線を見て。いつもなら、停止した星空と動く山陰が見えるはずだろ?」


「ホントだ……。じゃあ、風がないのも、マク・メル今止まってるからっ!?」

「まだ断言は出来ないけど、可能性はあるかもね」


「ねぇ、だったら停止って、ちょーヤバくない……? まさか大陸ごと、落っこちたりしないよねっ!?」

「どうかな、700年間も人が管理してなかったんだから、もしかしたらニアみたいに……」


「ひゃぁぁっ?!」


 続いて地震が起きた。揺れはすぐに収まったが、この反応に俺は覚えがある。

 マク・メルに移動を命じたときの振動によく似ていた。


「ニアに話を聞こう。それと統星……」

「あ、ご、ごめん……あたし、つい……」


 俺の胸に統星がしがみついている。

 両足を俺の背中に巻き付けて、男に登っていると表現した方が正確だったが、やはり統星は驚くほどに軽く、腕に触れた翼がやわらかかった。


「俺が変な気を起こす前に離れた方がいいぞ」

「お、起こす気あるのっ!?」


「多少はな」

「え、ええーっっ!? サラッとんでもないカミングアウトされても困るよーっ!?」


 はがれないのでそのまま家に引き返そうとすると、中からニアが出てきて軒先に立った。


「レグルス様、ゴ報告ガ、アリマス。マク・メル、ガ今シ方……針路ヲ変エマシタ(・ω・)」

「お、墜ちたりしない……?」


「ソレハ、大丈夫デス。ムシロ、動力モ、ニア、モ絶好調デス(*≧∀≦*)v」

「はぁ、よかったぁ……。あたしは平気だけど、墜ちたらみんな死んじゃうもんね……」

「その話は止めてくれ、ここに来た日からずっと考えないようにして来たんだ……」


 そんなときのためにも、早く飛行機を完成させないとな……。


「風向きからすると、東に進んでるみたいだな」

「ハイ……。ソノヨウデスネ……(´・ω・`)」


「仕方ない。これから中枢に行ってくる。二人はプラチナと爺さんを起こして待機な」

「デシタラ、中枢ニハ、ニア、ガ!(`・ω・´)」


「気持ちは嬉しいけど、ニアは統星をお願いな。統星はニアを頼む。それじゃあな」

「気をつけてね、レグルス……」


 こんな夜中にニアに乗って身体をシェイクしたら、寝れなくなるのが関の山だ。


「大げさだな。単に夜道を満喫して、針路を戻して帰るだけだ。風向きが変わったら先に寝てて」

「レグルス様、スミマセン……(´・ω・`)」


 観測室と中枢の隠し扉は繋がったが、ここからだと地表を歩くしかない。

 俺は丘上の花園を目指して、月光に包まれた住民なき墓標を散歩していった。


 アクシデントもたまになら悪くない。

 なぜマク・メルは急に止まって、命令に背き針路を東に変えたのか。

 そこには不穏の気配があって、人に不安とワクワクの両方を与えてくれた。


『現在のマク・メルは自動運転モードです。針路の再入力は、目的地に到達するまでお待ち下さい』


 中枢に着いた。コンソールを動かして、針路の変更を命じるとエラー音と一緒に画面に文字が映し出された。


「ちょっと待てよ、マク・メル。俺たちをどこに連れて行くつもりだよ……」


 はい、そうですかと、家に引き返すわけにもいかない。

 再度入力しても拒まれたので、目的地はどこなのかとコンソールから情報を求めてみた。


 ・目的地:ビフロス連山 セクター7

 ・到着:2日後08時


 げ……。ビフロス連山といったら、誰も踏破したことのない未踏の地だ。

 噂じゃモンスターが住み着いていて、山岳民族すら近付かない超危険地帯だと聞いている。


 どんな情景が見れるやら楽しみになる反面、マク・メルがマスターの命令を拒んで、人のいない世界に俺たちを誘おうとしているということでもある。


「ちょいとこれ、シャレになんねーかな……。おかしなところに停泊でもされたら……」


 俺は来た道を引き返して、みんなに制御不能とビフロス連山行きという事実を伝えた。

 大げさなようだが、こうなれば何が起きるかもわからない。


 これは戦闘の準備をしておいた方がよさそうだった。


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