表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/36

・天翔るクソジジィ

 マク・メルの降下を済ませて再び画面の前に戻って来ると、彼らもちょうど谷の上部に到着していた。


「うむ、この高低差なら楽勝じゃな!」

「お爺さんって勇気あるよ……。心の準備とかいらないの……?」


「いらん! さあ行くぞ、いざ行かんっ、伝説の地マク・メルへ!」

「あ、ヤベ。盛り上がってるところ悪いけど、この前のヤクザが追ってきたぞ?」


 ところがあのヤクザがこちらに走って来るのが見えた。

 どうせ爺さんの金を狙っているんだろうが、絡まれると離陸どころではない。


「えっえっ、どうしようっ!?」

「どうもこうもないわいっ! 行くぞ、統星ちゃん、いざ、魔大陸へ!」


 飛行機から脚が生えて、爺さんは迷わずに走った。

 統星も翼を羽ばたかせて、空の上から爺さんを追う。


 今回の牽引のために、ワイヤーと呼ばれる鉄のロープをニアが紹介してくれた。

 当然、赤錆まみれになっていたが、俺ならば錆びる前の姿に戻すことが出来る。


 その鈍色のワイヤーが、今は爺さんの飛行機の上部にしっかりと繋がれていた。


「死ぬ気かジジィッ!? 死ぬなら借金を払ってから死ねやクソ野郎がっ!」

「ガハハハハッ、短い付き合いだったな、ヤクザ野郎!」


「金返せ!」

「おうっ、いいぞ! 特別に甥の借金を払ってやろうじゃねぇかっ! ワシはもう戻らん、あの家の物は、てめーの好きにしろっ!」


 爺さんは飛んだ。翼を持たない人間の身で、谷へと身を投げた。

 三角形の翼が空を掴むと滑空を始め、統星の牽引によってグングンと浮遊大陸を目指して浮上してゆく。


「兄貴……あのジジィ、と、飛んでますぜ……? 人間が、空飛んでますぜ、兄貴ぃぃっ!?」

「あ、ああ……。どこからどこまでも、非常識なジジィだ……」


 8の字を描きながら爺さんの飛行機は高度を上げて、地上のヤクザどもを豆粒に変えた。

 画面越しに俺は感動した。プラチナも目をまん丸にして驚いていた。人間が、有翼のサポート付きとはいえ、空をグングンと昇っているのだから。


「ねぇ、お爺さん。さっきのあたしのこと、シズクって呼んだよね。それって誰だったの?」


 それは俺も気になっていた。

 それ以上にめんどくせージジィの話なんて、好き好んで聞こうと思わなかっただけで。


「ワシは昔、有翼種の女に恋をしてな……。それは黒い翼と、黒い髪を持った美しい人だった……」

「それって、つまりお爺さんの恋人!?」


「いや、思いは叶わなかった……。だがな、ワシにとっては、その頃から空はワシの憧れじゃ。あの人と同じ世界を見れたら、何かがわかると思ったのかもしれんな……」


 プラチナが隣で『わぁ……』と感嘆を上げて、爺さんの悲愛に目を輝かせた。

 女というのは、どうしてこういう話が好きなのだろう……。

 その生き様には、俺も少しの共感を覚えてしまったが。


「そりゃ奇遇だな」

「口を挟むな、クソ王子!」


「俺たちは有翼種の国に向かうところなんだ。運が良かったら、愛しのシズクちゃんにまた会えるかもな」


 見つかったところで、もう向こうもババァだろうけどな。

 それでも爺さんがもう一度シズクに会いたいと言ってくれたら、俺たちの旅にももう少しの意味が生まれるだろう。


「本当だよ。レグルスは迷子のあたしを、故郷に連れて行くって約束してくれたの。変だよね……あのマク・メルで、世界征服だって出来ちゃえるのに。レグルスって、お爺さん以上に変な人なの……」

「ふんっ……想定以上のバカ野郎じゃねぇか。気に入った」


 鷹のように高く、マク・メルと同じ高さまで飛翔した爺さんの飛行機は、こうしてマク・メルの大地を踏むことになった。



 ・



 爺さんはマク・メルの情景に深く感動していた。

 空を目指す彼にとって、それは憧れそのものだったのだろう。


 長年の夢の一つが叶い、言葉にならない喜びを、首を振っては大地を叩いて噛み締めていた。

 地に座り込んだ爺さんが落ち着くまで、俺たちは待った。


 やがて爺さんは立ち上がり、因縁を付けるように俺の目前に迫った。


「やっとツラを見せやがったな、クソ王子」

「ははは、そっちこそエキセントリックな頭してんな」


「はっ、言ってろ。ジジィになればお前もわかる。で、ワシに何をさせたい? こういうのはメリハリが大事だ、命じてみろ!」

「それって、俺を試しているつもりか?」


「言え!」

「……ガラント爺さん、このマク・メルと、地上を行き来できる飛行機を作ってくれ。この地には無数の眠れるアーティファクトがあり、俺はそれを起動する力を持っている」


 彼が俺を疑うことはなかった。

 この浮遊大陸に俺がいること。それそのものが一つの状況証拠でもあっただろう。


「いつかは、爺さんご希望の推進力となるアーティファクトが見つかるはずだ。それと爺さんの技術と、技師である統星の力を組み合わせれば、有翼種に頼らずにヒューマンは空を飛べる」


 アーティファクトの流用による推進力の獲得。爺さんの目が輝いた。

 荒唐無稽だが、そこにはバカにしか見えない男のロマンがあった。


「ふんっ、想像通りの生意気なツラじゃ……! まあまあ気に入った、ワシもここに住んでやる!」

「よかった、じゃあ俺んちに……」


「バカ言え、若者と一緒にジジィが住めるか! ワシはそこまでは慣れ合わんぞ!」

「えー……。めんどくせージジィ……」


「失礼な! 若いからって偉そうにしてると、頭かち割るぞっ、クソガキが!」


 こうして俺たちは、飛行機研究者のジジィを新たな住民として迎えた。


「おおプラチナちゃんはかわいいのぅ……。ニアちゃんも、なかなかデカいがプリチーじゃぞぉ♪」

「あ、ありがとうございます……。お爺さんこそ、その……脚、凄いですね……」

「プリチー。コンナコト、言ッテ貰エタノ、ニア、初メテデス。仲良クシマショウ、オ爺サン(*´ω`*)」


 訂正しよう。有能だが女好きのジジィが増えてしまった。

 それとニアのことだが、どうやらニアは――性別の定義があるかはわからないが、この反応からするとどうやら女性らしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ