・一方、母国では――
一方その頃、スヴェル王都ホワイトパレスでは――
城がないのに、ホワイトパレスという地名はこれいかに?
王城が廃墟となった首都ホワイトパレスで、父上とアルデバラン王太子は宿暮らしを強いられていた。
「なぜ王である私が、このような狭苦しい生活をしなければならん……」
「兄上が城を吹き飛ばしたからです……」
父上は狭いと文句をたれているが、そこは城下町で最も大きなホテルのスイートルームだ。
それでも贅沢慣れしている彼らにとっては、満足出来る生活ではなかった。
調度品も食事も何もかもが一回り劣り、とにかく一国の政府施設として見れば、あまりに小さい。
人がバタバタと忙しなく行き来するせいで、何かと騒がしいのも彼らの不満の一つだった。
「レグルスは……あんなことをする子ではなかった……。は、ははは、私が悪いのだろうな……」
「もう過ぎたことです、父上……。幸い兄上は、あの迷惑な大陸と一緒に国を去ってくれました……。城は失いましたが、兄上の機嫌さえ損なわなければ、これからもやって行けるはずです……」
そう、俺がその気になれば、やっぱ許せないと気分を変えれば、マク・メルを反転させて父上とバランにトドメを刺すことも可能だった。
けど反転させたところで、マク・メルはスローだ。途中でまた気分が変わるのが見えていた。
「バカめ、反乱軍の話は聞いているだろう……」
「聞きました。忌々しいことに、地方貴族はあえて放置しているようですね」
「やつら、今さらレグルスを王太子に戻せと文句を付けおって……。頭が痛い……」
「それだって兄上が、彼らの脱獄を幇助したせいですよ……」
あの政治犯どもは、無事に脱獄を果たしてよろしくやっている。
現王家の転覆に俺を使おうとしているようだ。
噂によると俺の悪行を弁護して、幽閉を行った王とアルデバラン王子を糾弾しているらしい。
だが俺は遙か空の上だ。彼らの要求が通ることはないだろう。
俺が国に戻らないことを知った上で、わざとやっているのかもしれないが。
「とにかくまずは金だ。瓦礫の撤去を急がせろ……」
「既に騎士たちに不眠不休でやらせています。これ以上は無理です、下々の者に手伝わせれば、国庫の金を持ち逃げされることになります……」
「レグルスめ……」
国庫ごと城を吹き飛ばされたことで、資金不足の方も深刻だった。
掘り返せば取り戻せるが、掘り返すまで取り戻せない。
金の切れ目がなんとやらと言うもので、もし給料が滞れば、王家へと忠誠が傾く。
「とにかく、兄上の機嫌を損ねないようにしましょう……。あんなものに勝てる国などありません……。兄上は、魔大陸を手にした時点で、世界最強の力を手にしたのです……」
「逆に言えば、レグルスを味方にすれば、我らは……」
「止めましょう。兄上が俺たちを隣に置きたがるはずがありません……」
「だが……っ、いつか引き返してくるぞ、アレは……!」
「ひ、引き返して……?」
「そうだ! アレはまた戻ってくる! 次は殺されるかもしれんぞ……!?」
こっちにその予定はない。だがバランは父上の仮説を信じた。
いつかあの魔大陸は戻ってくる。そしてその日こそ、己の命運の終わりであると。
「どうにかして、兄上にわびを入れる方法を模索しては……?」
「やはり、そうするべきだと思うか、アルデバラン……!?」
「誠意を持って謝れば、命だけは許してもらえるかもしれません……」
「うむ……。幸い、あのマク・メルは遅い。追跡は可能なはずだ……隠しようがないほどに目立つからな」
城を失ったことで、彼らの権威はボロボロだ。
じわじわと、俺が解放した政治犯たちによる政府転覆計画が進んでいるそうだった。
それまでに父上とバランは俺にわびを入れて、国内の秩序を取り戻さなければならない。
「振り出しに戻りますが、しかしどうやって空の上の兄上に連絡を……?」
「そ……空を飛ぶ研究をさせろ……っ」
「ダメです、肝心の資金がありません……!」
「ぬ、ぬぅぅぅぅぅ……!」
なんか知らんけど、父上とバランはだいぶ詰んでおられるようだった。
手違いで城吹っ飛ばしただけで、こんな悲惨なことになっていたとは、この時の俺は思いもしなかった。




