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・天空都市に浮かぶ虹霓

 ニアが案内してくれたのは、水門のすぐ下流にある目立たない装置だった。

 段々畑のただの段差かと思っていた壁を、ニアが大きな手で撫でると、そこに四角い金属製の箱が埋まっていた。


「スプリンクラー、ノ起動ヲ、推奨シマス。コレハ、水路ノ水ヲ、畑ニ、自動デ、散布スル装置デス(*・ω・)」

「マジかよ、それってニアの手なしで?」


「ハイ。コレガアレバ、ニアモ、楽ニナリマス(*´∀`*)」

「マク・メルってなんでもアリだな……」

「私にはまったく想像がつかないです……。そんな魔法みたいなこと、本当に出来るんですか?」


 だったら考えるよりも行動だ。俺はその四角い箱に触れて、本日2回目の『覚醒』の力を使った。

 ……しかしこれといった動きはない。


「何も起きないぞ?」

「ハイ。朝ト夕方ニ、自動デ動ク装置デスノデ。ソノパネルヲ開ケテ、中ノボタンヲ――」


「これか?」

「お、お兄ちゃんっ、ちゃんと聞いてから押さないとダメだよっ!?」

「ツクヅク、規格外ナ方デス……(*・ω・)」


「おおっ、それよりプラチナッ、あれを見ろっ、凄いぞ!」


 水路側から稼働音が響き、水かさが一気に引いていった。

 それから上の畑から順番に、細かな水しぶきが大地から空へと舞い上がる。


「地面から雨が降って、キャァァーッッ?!」


 その水しぶきは俺たちの頭の上からも降り注いで、大地ごとプラチナとニアまで湿らせた。

 畑の下へ下へ下へと順々に水がまかれてゆくのを、俺たちは濡れながら見送った。


「スミマセン、少シ、水圧ノ調整ガ、要リマスネ……(´・ω・`)」

「ぅぅ……服が……。あっ、お兄ちゃんあれ見てっ、虹が出てるっ!」

「ああ。それに統星のやつもこっちに気づいたみたいだね」


 空の上ではなく、俺たちの目の前に虹が生まれていた。

 おまけに綿花の塊を抱えた統星まで空から降って来て、枕に出来そうな特大の綿をプラチナに渡した。


「これ、プラチナちゃんにあげるっ! あ、あたしちょっと行ってくるね!」

「あ、ありがとう、お姉ちゃ……え、どこへ……。えっ、ええーっっ!?」


 プラチナが白いふわふわの枕を受け取ると、統星は急反転してスプリンクラーの方に飛び立った。

 何をするかと思えば、それは水浴びだ。


 まるで鳥のように水しぶきの中を飛び回り、虹を背負ってまた戻ってきた。

 統星のフットワークの軽さは常識を凌駕している……。

 有翼種はやはり天使ベースではなく、鳥ベースなのではないだろうかと、疑惑が深まった。


「はぁぁ……久しぶりにスッキリしたぁーっ。で、アレって何?」

「君、技師じゃなかったっけ?」

「あのねっあのねっ、自動で、畑に水をまく装置なんだって!」


「それ本当っ!? マク・メルってすごっ!?」

「いや気づくの遅いだろ……」


 さてそれはそうと、本日残り1回の力は何に使うべきだろうか。

 俺ははしゃぐ統星とプラチナから視線を外して、ニアと向かい合う。


「ラス1だ。何を起動させたい?」

「最後ハ、レグルス様ニ、オ任セシマス。アソコニ、別ノ、スプリンクラー。ソレト、アノ柱。アノ、小サナ箱モ、アーティファクト、デス(*・ω・)」


 プラチナはなけなしの財産を使って、ありったけの種を買ってきてくれたが、それでも復旧させた区画全域に使えるほどの数があるわけではない。

 ならばスプリンクラーの追加は後回しでいい。


「どうするの、レグルス?」

「あの柱にしよう」


「ほうほう、理由は?」

「見た目が派手だ」

「そ、それって理由になるんですか……?」


「目立つってことは重要な装置ってことだよ。多分な……」


 そういったわけで、俺は前々から気になっていたやけに細くて頑丈な柱に触れて、機能を覚醒させた。


「……光ってます」

「光り出したな」

「でもこれって、何……?」


 マク・メルはいつだって快晴だ。

 柱の上部が宝石となって輝きだしたが、太陽の光には到底かなわない。


「街灯デス。夜間ノ、作物ノ生育モ、促シマス(*・ω・)」


 俺たちは揃ってニアの解説に視線を送って、続いてまたキラキラの柱を見上げた。

 夜便利なのはわかったが、夜にこんなところへと来るわけがない。


「よくわかんないけどっ、夜になるのが楽しみだね!」

「うんっ。近所の公園から見たら、キラキラして綺麗かもしれないです!」

「派手なくせに、機能は地味だな……」

「違イマス……。コレデ、生育速度ガ、飛躍的ニ、上ガルノデス。地味ジャ、アリマセン……(。・ε・。)」


「それが本当なら、プラチナが持ってきた作物をもっと早く食べられるってことか」

「それって、今のあたしたちが一番欲しい機能じゃん!」


 プラチナが持参した貝柱もすぐに尽きる。

 その柱は3種類しかない食材を、速やかに増やしてくれる救世主様だった。


「だったらほうれん草を育てるのはどうですか……? 生育が早い作物なので……」

「賛成デス。サア早ク、種ヲ取リニ、戻リマショウ! レグルス様、ニア、ノ我ガ儘ヲ、聞イテ下サリ、アリガトウ……。嬉シ……。嬉シ……。収穫ガ、今カラ楽シミデス(u_u*)」


「何を言っているんだ、ニアに感謝してるのはこっちの方だよ。俺たちは今もニアに食わせてもらっている側だからな」

「そうそう! ニアがいなかったら今ごろ飢え死にしてたもんね、あたしら……。今日までずっと作物を育てていてくれてありがとうっ、ニア!」


 こうしてニンジンとジャガイモとトマトしかない浮遊大陸に、新たな作物が大地へと根付くことになったのだった。


 ああ、ほうれん草といえば、取り立てて注目することのない野菜のわき役だと思って来たが、今は収穫が楽しみでならない。


 そしてそれを最高の美食に変えてくれるプラチナの存在は、ますます俺たちには掛け替えのないものに感じられた。


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