表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/36

・ちゃんとしよう

「レグルスお兄ちゃん、統星お姉ちゃん……。二人って、もしかして……」


 翌日の朝、ついに俺たちはプラチナに気づかれてしまった。


「自分でご飯とか作れない大人……?」

「うっ……だ、だって、あたしは技師だし……」

「酒なら作れるぞ」


 昨日の夕食、晩飯、そして今日の朝食。

 その全てが生トマトであり、ゆでたジャガイモであり、生だったり皮ごとゆでられたニンジンであることに、プラチナは俺たちがダメな大人であることに気づいた。


「やっぱり……」


 しかし少女のジト目というのは、なかなか突き刺さるものがあるな……。


「こんなご飯ばかり食べてたら病気になっちゃうよ! 大人なんだから、ご飯はちゃんとしなきゃダメ!」

「あ、はい……。ごめんなさい、プラチナさん……」

「あたしも、レグルスと同じでそういうの、ずっと人任せだったから……」


 前々からわかっていた。俺が二人に出していた物は、料理ではないということに。

 だがそれ以上にニアの作るポテトもニンジンもトマトも、素材そのままの状態で美味いから悪いのだ。


「レグルス様。プラチナ様ノ、言イ分モ、モットモデス。チャントシテ下サイ(`・ω・´)」

「ニア、君も君で昨日からプラチナの肩持ち過ぎだろ……」


 ニアは昨日からご機嫌だった。

 プラチナが持ってきた豆や野菜、小麦の種で、農園の作物を増やせるからだ。


 とはいっても、ニンジンと、ジャガイモと、トマトしかここにはないのが現実でもあった。

 こんな素材では、誰がどう作っても同じなのでは……と思う。


 今日はプラチナのためのイスを作りたい。

 それから綿花をもっと集めて、簡易のベッドも用意したいところだ。


 家を捨ててこのマク・メルに来てくれたのだから、この子には快適に過ごしてもらいたかった。


「朝ご飯、私に任せてっ」

「プラチナちゃん、料理出来るの……?」

「まあ、口振りからして料理上手い系のアレだったよな」


「お兄ちゃんっ、火の用意をしてくれる?」

「わかった」


 廃墟で拾った鉄の花瓶に、いつものアレでアルコールを精製した。

 ソイツに火を付ければ、燃焼力の安定したバーナーの完成だ。


 プラチナは小さな身体で鍋に水をくみ、石の台座に乗せる。

 続いて自分のバッグから塩と干し貝を取り出して、トマトとニンジンとジャガイモのスープを作っていった。


 そうか、野菜を刻んだり、トマトを煮るという発想はなかったな……。



 ・



 少し待つと本当の朝ご飯が食卓に並んだ。


「やべー、俺、文明の味をしばらく忘れてたわ……」

「凄い凄いっ、あたしこんな美味しいスープ食べたことないよっ! プラチナちゃんって料理の天才じゃない!?」

「もう、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、心配だよ、私……」


 ポテトとニンジンと貝柱のトマトスープというのだろうか。

 煮込まれたホクホクのポテトがやわらかく口の中で崩れて、ニンジンはより甘く引き立ち、旨味のあるトマトスープが朝から身体を温めてくれた。


 最後のお楽しみの貝柱は、噛まないでずっとしゃぶっていたくなるほどに、身体が求めて止まない味わいだった。


「美味かった……。これは拾いものだな……」

「あたし感動しちゃった……。これが料理だよ! レグルスが作ってたのは多分、料理じゃなかったんだよ……。とにかくプラチナちゃん天才!」

「そ、そうかな……」


「ハイ、ニア、モソウ思イマス。コンナ笑顔ノ二人ヲ、初メテ見マシタ(*´ω`*)」

「こんなに褒められたの、久しぶり……。あ、そうだ。だったらご飯とか家事は私に任せてくれる?」

「うわぁーっ、天使だぁーっ!」


「天使はお姉ちゃんだよ……」

「まあ、有翼種に言われるとどうしてもな」


 気づけば三人分の深皿が空になっていた。

 こんなに食事を楽しめたのはいつ以来だろうか。

 満足する俺たちの姿に、プラチナが嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


「それじゃあたし、ちょっと綿花取ってくるねっ!」

「待て、統星っ、それは俺がやる!」


「いいよ、丘の上に行くならあたしの翼が一番早いし」

「君はこの前、手をボロボロにした矢先だろう……!」


「いいのいいのっ、あたしがやりたいからやるだけだし、気にしないで! じゃ、行ってきまーすっ!」

「お、お姉ちゃん、大丈夫……?」


「お昼ご飯楽しみにしてるね、プラチナちゃん!」


 こんなことなら、昨日のうちに俺がやっておくのだった。

 きっと統星は、あのとき俺に綿の枕をくれたように、プラチナにも作ってあげたいのだろう。


 マク・メルは天国みたいな世界だけど、家具には全く恵まれていなかった。


「レグルス様、ニア、ハ、レグルス様ニ、オ願イガ……(*'ω'*)」

「ニアから俺にお願い? 珍しいな……」


 ニアの巨体が身を屈めて、上目づかいを作ろうとしていたがそれでもニアは巨大だった。


「新シイ種、スグ使ウニハ、新シイ耕作地ガ必要。農園ノ、アーティファクトヲ、起動シテ、クレマセンカ?(*'ω'*)」

「なんだそのことか。もちろんいいに決まってるよ。そうだ、プラチナも一仕事手伝ってくれるか?」

「うん、邪魔じゃなかったら、私もお手伝いしたい。だって持ってきた種が芽吹くところ、見てみたいから……」


「しかし新しい耕作地となると、丘の方の管理を放棄していた辺りになるか?」

「放棄デハアリマセン。一帯ノ、アーティファクトガ、止マッテシマッテイル、セイデス。再起動、シテクレタラ、今スグ種ヲ蒔ケマス(^_^)」


 今日までやり取りして来てわかったことがある。

 ニアは植物が好きだ。マク・メルの管理者としてではなく、個人として植物を育てるのが好きなのだと、実感させる部分が度々あった。


「レグルスお兄ちゃん、あのね、私……こういうの、とうとつかもしれないけど、今楽しいよ……。マク・メルでの生活が凄く楽しい……。私を拾ってくれてありがとう、お兄ちゃん……」

「それはよかった。プラチナが内心で、ここに来たことを後悔してはいないかと、こっちもちょっと心配だったんだ。……その言葉は、統星にも聞かせてやってくれ」


「もう言ったよ!」

「それでこそプラチナだ。よし、行くぞ!」

「デハ、ニア、ノ背中ニドウゾ、プラチナ様(*・ω・)」


 俺たちは止まってしまったアーティファクトを起動するために、住宅街を抜けて荒れ果てた耕作地へと出かけた。


「がんばろうね、レグルスお兄ちゃん」

「ま、そこはくたびれない範囲でほどほどにな」


 つい先日まで不幸せに表情を曇らせていた少女が、マク・メルの青空を背負って無垢に笑っていた。

 そんなにかわいい笑顔をされると、もっともっと幸せにしてあげたくなる。


 まるで歳の離れた妹が出来たような気分になって、俺も彼女へと笑い返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ