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・あーもしもし、そこのババァ

 下の世界をのぞくと、ババァが紙切れを睨み付けて鬼の形相を浮かべていた。


「あのガキ! あたしらが養ってやった恩を忘れて、こんな……っ!」

「どうしたの、母さん?」


 どうやらそれは、プラチナが残した手紙のようだ。

 手紙なんてわざわざ残さなくてもいいのに、ご丁寧に別れの言葉を残すところがプラチナらしいのだろうか。


「大変だよっ、プラチナが出ていっちまったよっ!」

「ああ……。だったらまた養子を取ればいいんじゃないの?」


「バカだねっ、養子を取るにも金がいるんだよっ! ああもうっ、また逆らわないガキから探し直しじゃないかいっ!」

「奴隷はお金かかるからねー。がんばってねー、お母さん」


 なんて酷い家族だろう。薄情な義姉は町に遊びに行くのか、派手な格好をして出て行った。

 後に残ったのは鼻息を荒くしたババァだけだ。


「あーもしもし、そこのババァ。今そこの家に人とかいる?」

「だ、誰だいっ?! 人の敷地に勝手に入るんじゃ……ないよ……? ど、どこから……」


 ババァの周囲に人はいない。なのに声は隣から話しかけるような音量を持っていた。

 カラクリを知らない人間からすれば、ちょっとした怪奇現象だな。


「だから聞いてるだろ、そこの家に人いる?」

「迷惑な浮遊大陸(アレ)のせいで、みんな出払ってるよ!」


「ならなんでババァと娘さんは逃げないの?」

「バカだね、こんな片田舎なんて歯牙にもかけないに決まってるじゃないかい! 大方城でも攻めるんだろうさ!」


 その推測は大外れだな。城を攻めるならわざわざこっちに寄り道なんてしない。


「ああそうそう、プラチナだけど。あの子は俺が貰ったから」

「なんだってっ!? 余計なことすんじゃないよっ、あの子はうちの大事な働き手だよっ!」


「んじゃ、そこの家に引き替えの身請け金を送るよ」

「本当かいっ!?」


「ああ、ホントホント。ポチッとな」


 今日までの長い覗き見生活のかいもあって、このマスドライバーには様々な発射モードがあることを俺は知っていた。

 既に超マイクロ・マスドライバー砲にモードを切り替えてある。


 俺は一変の迷いもなく、あの愛らしいプラチナを苦しめた毒親のお宅へと、『これでも食らえババァ』と心の中で叫びながらド派手な身請け金を発射した。


「いくらくれるんだいっ!?」

「うーん……数字で言うなら、一個くらい? 結構でかいよ?」


 画面が切り替わり、牛一頭ほどの大きさの岩が大地へと投下された。

 それは引力によって加速し、ほえるような恐ろしい落下音を放ちながら――プラチナを虐待したババァの家へと吸い込まれた。


「ギエエエエエーッッ?!!」


 やはりマスドライバーとはとんでもない兵器だ。

 家は木っ端みじんに粉砕され、ババァごと吹き飛んだ。……あれ、これって生きてるかな?


「はぁ、スッキリした……。やっぱりあのままお咎めなしってのはちょっとね。ああそうそう、俺の名前はレグルス、魔大陸マク・メルの王とも呼ばれている。またバカなことをしたら、ここんちまた吹っ飛ばしに来るから、そこんところよろしくな?」


 どちらにしろ、レグルス王子はホワイトパレスを吹っ飛ばした罪人だ。

 だったら悪名を逆手に取ってしまえばいい。

 魔大陸マク・メルは、悪人に天罰を下す独善であり災害だと地上の連中に思わせよう。


 ちなみに、ババァの返事はなかった。

 探してみたところ倒れ込んでいたが、大きな外傷もないのでたぶん大丈夫だろう。


 んん……これって生きてるよな?


「ってことで、じゃあなババァ。もう養子を奴隷扱いすんじゃねーぞ」


 捨て台詞を残して、俺は布告装置を止めた。

 さてめんどくさいけど、また中枢に戻って針路を本来のものに変更しないとな……。


 ――背中を振り返るとそこに統星がいた。


「わっ、ちょ、いつからそこにいたの……?」

「あーもしもし、そこのババァ。ってレグルスが言ったあたりかな?」


 それ、ほぼ一部始終じゃねーか……。


「いや、これはその……だってあの子が可哀想だったし……。それにこのままじゃあのババァ一家の勝ち逃げじゃんっ!」

「何言い訳してるの? よっと……」


 またあの軽やか過ぎるフットワークで、統星が人の胸へと飛び込んで来た。

 しかも小柄な体格からこちらを見上げて、明るい笑顔を浮かべていた。


「あたしもスッキリした!! レグルスって、本当に神様っぽい!!」

「いや、いいのかよ……?」


「いいの! それより帰ろっ、あの子がレグルスを待ってるよっ! ……実は動かして欲しいオモチャがあったりするし!」

「おいおい、またそれかよ……」


「あの猫のオモチャ、あたしたちからプラチナちゃんにプレゼントしようよ。だから起動させて?」

「……それは、悪くない話だな、ぜひともやろう」


「そうこなきゃっ、帰ろ!」

「お、おい……」


 統星は自然体で手を結んで来た。

 綿花で傷ついた皮膚はもう回復して来ていて、温かくてやわらかかった。


「どうしたの、レグルス?」

「……統星の翼がなければプラチナは救えなかった。今回は君の手柄だ、ありがとう」


「むー、また恥ずかしげもなくそういうこと言う……。べ、別に嬉しくなんてないから……」

「神様ではなく元王子だからな。このくらいは言う」


 しかし今日からレグルスお兄ちゃんか。なかなか悪くない……。


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