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・幽閉なう

ちょうど10日前――


 監獄送りになったことはあるかと聞かれたら、1年前からよろしくエンジョイしてますと答えよう。

 小さな窓しかない独房で、俺は新顔の到着を待っていた。


 やることもないのでひたすら腕立て、背筋、スクワット、懸垂、室内ランニングを繰り返しながら、自由な監獄生活楽しんでいた。


「お、来たね、新顔くん。ようこそ俺の独房へ」


 そうしていると新顔が俺の独房の前にやって来た。

 まさか独房の主から歓迎されるとは思っていなかったのか、呆気に取られた様子だった。


「そんな顔してないで仲良くしようよ? ああそうだった、俺はレグルス、お前が監視させられる男だ」

「あ、ああ……よろしく」


 新顔と言ってもここは独房だ。

 よって俺が待っていたのは新顔の見張り番だった。


「で、俺のことは聞いたか?」

「いや……あまりこっちに話しかけるな」


「いやいや、お前の仕事は俺を見張りながらお喋りすることだ。ここにいるととにかく暇でさ、ダラダラ話そうよ?」


 というのは建前で、快適な監獄生活のためにコイツを懐柔するのが俺の狙いだった。

 しかしこの様子、これまでのパターンとだいぶ異なる。


「もしかして、俺のこと聞いてない?」

「ああ、全く。……いったい何をして幽閉されたんだ?」


「俺はこの国の元王太子だ」

「えっ……」


「知ってるだろ、去年レグルス王太子が廃嫡され、弟のアルデバランが新たな太子となった話。で、秘密裏に俺はここに幽閉されたんだ」

「な、なんですって……? 幽閉……そんな横暴なことが……」


 新人の彼はまだ若く、元王太子がよろしく幽閉されているというこの大スキャンダルを前に、だいぶ驚いていた。

 けど監獄生活も始めてみるとそんなに悪くない。


「新顔くんも15歳の時にアレやっただろ、アレ?」

神々の秘跡(サクラメント)ですか?」


「うん、それそれ。けどその時に目覚めたユニークスキルがさ、あまりにヘッポコなんで、父上にクソ失望されたんだよね、俺」

「え、そんなに酷かったのですか……? いったいどんな……」


「対して弟のバランが得たのは[治水巧者]スキル。弟が国王になれば、この国の農業政策は成功間違いなし、ってわけ。で、これが俺の力」


 新顔に手の平を向けると、彼は警戒に一歩後ずさった。

 だが俺はかまわずに[覚醒]スキルを使った。


「なんですか、この力……? あれ、急に頭がスッキリしてきました。おお凄い、なんだか気分壮快です」

「けど王様が持っててもしょうがねーだろ、こんな力」


「え、いやあの、返答しかねます……」

「自分で言うのもなんだけど、これやると喜ばれるけど、限りなく微妙だって……」


 [覚醒]スキルは対象を目覚めさせる力だ。

 王子ではなくホテルマンにでも生まれたら、需要の高い才能だったのかもしれない。


「あとこれな、見てろ」


 ユニークスキルが複数発現することは稀だ。

 そこはまあ、腐っても王族ってやつだろう。


 俺は残しておいたコップの水に、松明の消し炭を入れて[変換]の力を使った。

 炭が入って台無しになった水が、たちまちに炭を溶かして澄み渡ってゆく。


「この酒は挨拶代わりだ。お前にやる」

「水が酒になるわけ――ええっ!? これ、本当にお酒になっていますよっ!?」


 コップから匂い立つ高純度の酒気に、新顔はコップを抱えてのぞき込んだ。

 チビリとそれを舐めると、あまりの濃さに顔をそむける。


「凄いだろ?」

「凄い……。こんな簡単にお酒が作れるなんて……」


「ははは、素直だなお前。けどこの力も、王が持っててもしょうがねーんだよなぁ……」


 頭には来るが父上の判断は間違っちゃいない。

 反対を押し切って王太子を弟のバランに変更した以上、俺は表舞台に存在してはいけなかった。


 ってことで幽閉ENDなう。いや、ここで終わる気はねーけど。


「おい、ずるいぞ! 俺にも酒作ってくれよ王子っ!?」


 そこに懐柔済みの監視役がやって来た。

 俺と馴れ合う彼の姿に、新顔は意外そうな顔をするが、俺と付き合えれば酒が飲めるというメリットはとにかくでかい。


「[変換]は疲れるし、あんまやりたくないんだけどな……」

「むぅぅ……。だったらそこの廊下から、また外を見せてやるからっ、頼む!」

「なっ……ちょっと、それはまずいんじゃ……!?」


「よし乗った。ここは仕事しなくていいところが最高なんだが、息が詰まってよくないからな」

「待って下さいっ、そんな勝手な……っ」


 新顔の目の前で、監視(中年)の手により独房の施錠が解かれた。

 外の開放感をくれたお返しに、俺は彼が抱えて来た壷に片手をかざす。


 中には皮付きのブドウがギッシリと入っている。

 それに[変換]の力を使い、少しだけ組成を組み替えてやると、ブドウの爽やかな匂いがワインの芳香に変わっていた。


「うははっ、悪ぃなっ、王子! おめーは俺らの神様だよっ!」

「酒のな。……それ仲間と分けて飲めよ?」


 それで俺の株も上がるだろうしな。

 監視(中年)は壷ごと極上のワインを抱えて、直接口を付けると大きく喉を鳴らして酔いしれた。


「プハァァーッ……ああ、やっぱわかんねーわ。なんでお偉いさんは、おめーほど優れた王子を首にしたんだろなぁー?」

「そう言ってくれるのはお前らだけだよ」


 俺は鉄格子付きの窓から外の森を眺めた。

 何せ独房の窓は小さくて、高さ2mほどの位置にある。月が見れた夜は幸せの夜だ。


「う、美味い……こんなワイン、一度も飲んだことないです……!」

「だろっ。コイツの酒が飲みたかったら仲良くしておけよ、新人!」


「ええ、驚きました……」

「ならもう少しサービスしておくか。コインを一枚よこしてくれ」


 俺は彼から50アケロン銅貨を受け取って、変換の力でピカピカにしてから返してやった。

 女に渡せば喜ぶこと間違いなしの一品だ。


 輝く銅貨に夢中になる新顔の姿を見る限り、もやは懐柔に成功したも同然だった。


もし少しでも気に入ってくださったのなら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。

執筆は精神的消耗が大きいので、皆様の評価が頑張りに変わります。


最近はこうやってptとクレクレをしないと厳しいそうなので、しつこいかもしれませんがどうかご容赦下さい。

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[良い点] こういうしたたかな主人公好きです!
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