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・帰りたくなっちゃった 2/2

「ここは凄く素敵。でも……ここはあたしの知らない世界なの。スヴェル王国なんて聞いたこともないよ……。あたしは、全然知らない世界に飛ばされちゃったの……」

「つまり、帰ろうにも帰り道がわからない、ってこと?」


「うん……たぶん、南の方だと思うけど、それ以外は何も……」


 統星は迷子。その事実に喜ぶ自分を醜いと感じた。

 彼女は帰る場所がない。俺と一緒にここで暮らす他にない。それは俺にとっては大きな喜びだった。


「これからどうしよう……。なんか寂しい……悲しいよ、マク・メルって……」

「そうだね。ニアには悪いけど、ここはまるで墓標だ」


 屋根に置かれた統星の手に、やさしく手のひらを重ねた。

 こういうのを弱みに付け込む汚い手って言うのだろう。だけど俺にはこの子が必要だ。だから……。


「しかしなんだそんなことか」

「ちょっと、そんな言い方――」


「だったら連れて行ってあげるよ。国の名前は?」

「ぇ……」


「マク・メルは足は遅いが山も海も関係ない。時間がかかってもいいなら、このマク・メルを使って統星の国を探そう。地上に戻るよりは、ずっと賢いと思うけど?」


 汚いとわかっていても、俺は彼女をここに繋ぎ止める。

 そうしないと俺は、ニアと二人だけになってしまう。

 そのニアがまた不調を起こした際にも、統星という腕の良い技師が必要だ。


「アヌの国。あたしはそこから来たの……。人間がたどり着けない、深い山岳の向こう側にアヌはある」

「だったら直のことマク・メルで探すべきだね」


「でも、いいの……? あたしなんかのために……」

「いいよ。安易な口約束でいいなら誓うよ。俺はこのマク・メルで、君を故郷へと連れて行く。それまで一緒にいて欲しいからだ」


「そ、それって……告白……?」

「い、いや、そういう意味じゃない!」


「だったらなんで、ここまでしてくれるの……?」


 そう問われても、返答がすぐに喉から出てこなかった。

 一緒に居たいというのは事実だ。だけどそれだけではない。


「君を見ていると、なぜか俺は、なんだってしてやりたい気分になる。自分でも理由なんてわからないよ」

「そ、それって……」


「それに俺には行くあてなんてない。あのマスドライバーを見ただろ。実は俺さ……あれで自分の育った城を、吹っ飛ばしちゃって……ははは」


「へ……っ!?」

「ま、そんなわけで国にはもう帰れないんだ。いやぶっ放したときは、追放と幽閉の鬱憤もあったし、超楽しかったけどさ! けどこの辺りじゃ、ははは、俺はお尋ね者だな……! 俺は城を破壊したバカ王子だっ!」


 あそこでマスドライバーを撃たなかったら、たぶん……もうちょっとマシな展開になっていただろう。


 だが地上と接触すれば、俺からマク・メルを騙し取って、世界征服を始めようとするバカも出て来るだろう。

 だからこそ、統星の存在が俺にはますます重要になる。


「ちょっと信じられないけど……でも、レグルスならやりそうかも……」

「信じてるじゃん!?」


「だってそういう顔してるもの!」

「ひどい! そりゃ……ノリで大砲一発ぶち込むつもりでやったのは、認めるけど……」


「あのさ、正体不明の大砲を、お城に撃ってみようだなんて、そう考える方がおかしいよ?」

「この流れで正論かよっ!?」


 叫ぶと統星がおかしそうに喉を鳴らしてくれたので、辛辣な正論もそんなに悪い気がしなかった。


「ねぇレグルス。もしかして、レグルスは復讐をしたの……?」

「いや、どっちかというと、ちょっと驚かせようとしたら――城が消し飛んでた感じ?」


「そう、だったら、あたしも後で撃つところ見てみたいっ!」

「え、いや……そういうわけにはいかないでしょ……」


「ふふふ……冗談。半分だけど」

「半分は本気だったんだ……。で、君の国が南にあるという根拠は?」


「有翼種の勘よ。あっちの方にある気がするの」

「ああそう……」


 統星の指の彼方には、暗闇と星空しかなかった。

 ていうか帰巣本能? それって鳥の本能的なやつか? 有翼種って天使ベースというより鳥ベース?


「じゃあ南に行って、下の世界を覗き見して、覚えのある地名が現れるまで気軽にいけばいい」

「ふふっ、覗き見はレグルスの趣味だものね」


「人聞きは悪いけど否定はしないよ。ここから見下ろした町並みの一つ一つに、人の人生という物語があるんだ。ここから地上に帰れないなら、徹底的に状況を楽しむだけだよ」

「本当に変な人……。もう帰ろ、レグルス」


 統星は軽やかに立ち上がると、翼を羽ばたかせて俺の正面に滞空した。

 月光と星空に照らされたその姿は、昼間よりもずっと神秘的に見えた。


「必ず君を故郷に連れて行くよ」

「うん、信じてる! レグルスのおかげで、寂しいの治ったから、あたしはもう大丈夫!」


 俺たちはニアのところに戻って、それぞれ干し草のベッドと綿の枕で眠りについた。


「ドキドキ……。レグルス様ハ、イツモナガラ、大胆デスネ……|・ω・。)」

「寝ろ……」


 ここに俺以上の覗き見好きがいた。


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