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・帰りたくなっちゃった 1/2

 同じセリフを繰り返すけど、やっぱり原始人みたいな生活だ。

 植物のツルと石と木の棒で作ったハンマーで、俺は一枚板に足を付けていった。


 釘はもちろん、さっき見つけたフォークだ。

 それなりに悪戦苦闘したが、変換スキルのごり押しでどうにかした。


「よしっ! 初めてにしてはまあ、うん……ないよりはマシだな」


 板に足が生えればテーブルとイスの完成だ。

 いびつでガタガタとしていようと、これで硬い床とおさらば出来る。


 美点を上げるとすれば、それはツルツルと肌触りの良い木目肌だ。

 ノコギリを使わずに、鋭さと筋肉による力ずくでぶった斬ったので、木の繊維が逆立っていないのだ。


「もしかして俺、木こりの才能あるんじゃね? やはり筋肉、筋肉は全てを助く、か……」


 脚の寸法の狂いに目をつぶれば、なかなかの美品だった。

 俺はそれらを家に運ばずに、しばらく腰掛けて文化の夜明けを実感した。


 今日はこの食卓で統星と飯が食える。ニアもいる。無性に夜が楽しみになった。

 ところがそうしていると影がテーブルを横切った。


「見てっレグルス! ほらっ、ふわふわ!」


 もちろんそれは統星だ。

 雲のない青空を見上げると、黒翼の天使が手のひらに白い何かを抱えて降ってきた。


「なんだその綿(わた)? どこにそんなもの――お、おいっ、その手はどうしたっ!?」

「あのねっ、丘の向こう側の花園に咲いてたの!」


 統星の白くて小さくて繊細な手のひらが、ボロボロに荒れてしまっている。

 あんなに綺麗な手だったのにと、無性に痛ましい気持ちになった。


「ちょ、平気だよレグルス……あちち……」

「薬もないのに無茶をするな……」


 綿をテーブルの上にどかして、俺は感情のままに統星の手を取った。

 棘のある綿花から、素手で枕一つ分も採集してくるなんて……なんて危うい子だ……。


「だってレグルス、一つしかない藁の寝床をくれたでしょ。だからあたし、あなたにお礼がしたかったの」

「そんなことのために、自分の手を犠牲にするバカがいるか……!」


「わぁぁーっ、それよりテーブル完成したんだーっ!? いいねいいねっ、少しずつ前進してる感じするね!」

「あ、ああ……。ガタガタしている点をのぞけば、なかなかのものだろう?」


「あははっ、ホントだ、ガタガタしてるーっ! でも、ないより絶対いいよ! すごいよレグルスー!」

「君って、とことん前向きだね……」


「だって素敵じゃない、このテーブル!」

「ありがとう。そこまで言われるとさすがに照れる」


 統星のおかげで、今夜はふわふわの枕を使って寝れる。

 何もないマク・メルと俺たちの家に、楽しみが一つ一つ増えてゆくこの情景に幸せの匂いを感じた。



 ・



 その晩、弟のバランとまだ仲が良かった頃の夢を見た。

 あの頃の俺は国の未来を背負う王太子として、義務と重圧の中で生きて来た。


 バランはそれを代わってくれたのだ。

 だから俺はどんな扱いを受けようとも、弟や己の運命を本気で恨む気にはなれなかった。


「統星がいない……? ニア、起きてるか?」

「ハイ、統星様ナラ、外デス。月ヲ、観測シテ、イルヨウデス(-_-)」


 統星の姿がないのでニアの巨体に問いかけると、すぐに返事が返ってきた。


「そうか。起こして悪かったね、ニア」

「イエ、ニア、ニ眠リハ、必要アリマセン(*・ω・)」


「そういうものなのか……? 何から何まで俺たちと違うんだな」

「ニア、ハ一緒ニ居タイ。ダカラ、ココニ居マス(^_^)」


「恥ずかしげもなくそういうことを言えるのが、ニアの魅力かもな。……だが悪い、統星の様子を見てくる」

「イッテラッシャイマセ。ニア、ハココカラ、見テイマス|・ω・。)」


 ちょっとだけストーカーっぽいところもニアらしい。そこはそういうものだと、諦める他になさそうだ。

 俺は家を出ると統星の姿を探して辺りを見回した。


「あんなところに……」


 有翼種を探すなら、次からはもっと立体的に目を向けるべきだな。

 よく目を凝らすと、隣にある二階建ての家の屋根の上で、統星が膝を抱えて座り込んでいた。


 気づかれないように近付いてゆくと、黒い翼が星空を包み隠して見えた。

 足場から一階の屋根に上って、そこからさらに二階の屋根に這い上がって、統星の背中側に立つ。


「よっ!」

「ぁ……!?」


 いたずら心にかられて脅かしてみたが、これは失敗だった。

 驚き振り返った天使様の横顔が涙に濡れていた。

 彼女は細い腕で涙を拭い、きっとまだ悲しいだろうに照れ隠しの微笑みを浮かべる。


「情けないこと言ってもいい……?」

「いいよ」


 その隣に腰掛けて、星と月と暗闇だけの世界を眺めた。


「あのね、あたし……帰りたくなっちゃった……」


 慰めの言葉よりも、彼女がここを出て行ってしまうのではないかという不安にかられて、俺はとっさに言葉を返せなかった。


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