・翼と鋼と蝶
「統星様、ドウゾ、オ背中ヘ。(^_^)」
ニアが花園を見せたいと言うので家を出ると、2mを超える巨体が統星を肩に乗せて歩き出した。
体重の軽い統星を乗せるくらいニアにとってはなんともないようで、俺は若干の羨望を抱きながらも、彼らの背中を追った。
「ねぇこれって全部、ニアが育ててるのっ!?」
「ハイ。(`・ω・´)」
「あそこの畑も、牧草地も!?」
「ハイ、ソレガ、ニアノ、役目デス(`・ω・´)」
ニアは謙虚だが自慢げに受け答えて、統星を背負ってどこか楽しそうに花園を回った。
その次は俺がモニュメントの地下に隠された中枢に案内した。
「ちょっと行ってくるね」
「イッテラッシャイマセ。シカシゴ安心ヲ。ニアハ、離レテモ、ズット、見テイマス……ズット、二人ヲ……(・_・)」
巨体のニアが螺旋階段を下ることは出来なかったが、特に気にした様子はなかった。
もしかしたら、本当にどこからか、古代技術の超パワーで俺たちを見守っているのかもしれない……。
「ここが中枢な。このコンソーメを操作すると、膨大な情報を閲覧したり、この魔大陸を動かせる」
「わぁぁぁーっ! サラッと言ってくれるけど凄いっ、これって凄すぎるよっ、入り浸っちゃいそう……!」
「中でもマンガってやつが面白いよ。今度よかったら一緒に見よう」
「うんっ、喜んで! あ、でもね、レグルス……。コンソーメじゃなくて、コンソールだからね!」
「な、なんだと……っ!?」
「あははっ、レグルスってちょっと変だけど面白いね! コンソーメってスープじゃない!」
「コンソールか……。確かにそっちの方がシックリくるな。……惜しかった」
「いや全然惜しくないよっ!? やっぱりレグルスって、ちょっと変……!」
中枢端末で衝撃の事実を突きつけられた後は、ニアと合流して統星をマスドライバー砲に案内することにした。
こちらの地下通路は十分な横幅があったのでニアも通行出来た。というよりも、ニアがこの場所を管理出来るようにこの幅が取られているのだろう。
「つまりレグルスって、休眠状態のアーティファクトを起動させられるの?」
「どうもそういうことらしい。あの中枢も、マスドライバーも、最初は止まっていた」
「レグルス様ハ、マク・メルニ、奇跡ヲ、起コサレ、マシタ。ニア、ハ運命ヲ、感ジマス(u_u*)」
「大げさだな。で、これがマスドライバー砲の発射装置。ドン引き確実の砲撃と、地上ののぞき見が出来るやつ」
「え、のぞき見って、ここから……? あれ、画面に映像が……えっ、ええーーっっ!?」
マスドライバー発射装置のある地下まで下ると、俺は常識皆無の望遠機能で小島を映して見せた。
島は海鳥たちの楽園になっているようで、ミャァミャァとウミネコのさえずりが部屋いっぱいに木霊することになった。
「凄いだろ、これがあればいくらでも暇つぶしができるぞ」
「えぇぇぇ……それ、使い方間違ってない……?」
「ハイ、画期的デス。悪夢ノ殺戮兵器、ヲ――娯楽ニ、使ウ人、ニア、ハ初メテ(*´ω`*)」
「おい、ニア、人聞きの悪い言い方するなよ……」
「やっぱりレグルスって変……」
これで大まかな紹介は終わりだ。
俺たちはもう少しののぞき見を楽しんでから、地上に戻るとそれぞれ別行動を取ることにした。
・
ニアはマク・メルの管理に、統星は探検に、そして俺は昼飯を作るために家へと戻った。
今日はジャガイモと一緒にニンジンもゆでてみよう。
昨日と同じ手順で火を用意して、ニンジンとジャガイモが入った鍋を石ころで作った台座に乗せた。
後は出来上がりを待つだけだ。
ときおり火加減を調整しながら、高い青空を見上げてしばらく休んだ。
ところがしばらくすると、その青空に黒い翼が現れて、俺の目の前に白いオーバーオールの乙女が降ってきた。
「ねぇねぇ、レグルス! レグルスって、止まったアーティファクトを起動出来るんだよね!?」
「そうだけど、どうかしたのか?」
「ほら見て見てっ、これかわいい! これ動かして!」
純真な笑顔と一緒に差し出されたのは、小さなボールと、チョウチョの形をした玩具だった。
「動かしてって……。こんなのどこで拾って来たの……?」
「あそこの家!」
「いや、けど……これって、どう見たって……ガラクタじゃ……?」
「ガラクタじゃないよっ、絶対面白いよこのオモチャ!」
玩具という物は、もしかしたら技師の心を引き付ける魅力があるのかもしれない。
……いや、単にそれで遊びたいだけのようにも見えた。
「ちょっと待って……」
「待てないっ! ねぇねぇっ、これってどんな動きするのかなっ!? ワクワクしてくるよね、レグルスッ!」
「あの……だからさ、俺の力は1日3回の制限があるから……もうちょっとまともな物に……」
「まともだよっ! 子供を喜ばせるために、大人が試行錯誤して作ったものだよっ!? あの大砲より遥かにまともじゃない!」
まるで怒ったニワトリみたいに、統星は羽ばたいては飛び跳ねた。
「それはわかる。古代人にも子供を想う情があったんだって、実感出来るから」
「うんっ、レグルスもそう思うんだっ!」
「けどさ、せめてこういうのは、生活や食糧事情が解決してから――」
「お願い、レグルス! あたし、これが動くところが見たいのっ!」
統星はニワトリごっこを止めて、キラッキラッの期待の目で俺を見つめた。
もっと動かさなければならないアーティファクトがあるはずなんだけど、今日までニアを動かすことだけに腐心していた俺が言っても、全く説得力がないか……。
「今日限りだよ?」
「うんっ!」
ボールと蝶々のオモチャを受け取って、俺は覚醒の力でそれぞれを起動させた。
ああ、今日もニンジンとジャガイモと、生トマトだけの食生活か……。
「わぁぁっ……!」
ボール型のオモチャは、俺の手のひらの上で虹色に輝きながら垂直に跳ねた。
蝶々の方はゆっくりと羽根を動かし始めて、パタパタと鱗粉のような光をまき散らしながら空を飛んだ。
「ガラクタってのは訂正だわ。蝶々のコレはすげーな……」
「ありがとうレグルスッ、凄いよっ、空を飛ぶオモチャなんてあたし初めて見たっ、面白いっ!」
蝶々と一緒に統星が羽ばたく姿は、まるでそのオモチャが有翼種の子供のために存在しているかのように見えた。
「生活はちっとも改善しないけどな……」
「でもこれがあれば退屈しないよっ!?」
「まあ……それはあるかもな、特に夜中に動かしたら綺麗だ」
「うんうんっ、今から楽しみ!」
「そうだな。それより昼食にしよう。今日のメニューは、蒸かし芋と蒸かしニンジンと、生トマトだ」
「わーいっ、あたしニアが作ったポテト好き!」
次にゆでるときは、ニンジンを刻んでから入れるべきだろうか……。
グツグツと沸騰する鍋の中では、ニンジン丸ごと一つが異色を放っていた。
「ところで統星ってさ」
「んー、なーに、レグルスー?」
「料理とか、したことある……?」
「ごめん、一度もない!」
「奇遇だな。俺もちょっと前までそうだった。……というより、これを料理と呼ぶのは何かおこがましい気がして来たな」
今日も我が家の食卓は貧相そのものだったが、ぶっちぎりの食材性能で事なきを得ていた。
……いやよく考えてみれば、テーブルとイスがなければ、そもそも食卓とは言えないのではないだろうか。
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