表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/36

・ハクセキレイの夜

 いや、ところが――


「なにあれ……?」


 地下道から上り階段を見上げると、空が何やら白い。

 なんだろうかと階段を上り切り、地上へと戻ってみると空に白い魔法陣が浮かんでいた。


 そのまぶしい魔法陣が二つに分かれて、地表にも同じ模様を描き出す。

 それから俺がもう一度空を見上げると、黒い翼を持った少女が魔法陣の彼方より現れて、ゆっくりと降ってきた。


「そういやこの場所って、俺のときと同じ……わっ、ちょっと、そのまま降ろすのはまずいだろ魔法陣さんよっ!? ちょ、おいっ!?」


 どうやらその有翼種は意識がないようだ。

 小さなレディを地べたに寝かせるのも元王子としてどうかと思い、俺は仰向けの少女を両手で抱え込んだ。


「えっ、軽……っ!? ちゃんとご飯食べてるのこの子っ!? やだっお母さん心配っ!」


 最悪は腰をやる覚悟をしていたのに、信じられないくらいにその子は軽い。

 手足の細い華奢な身体付きだったけど、それだけでは到底納得出来ないほどに、その子は羽根みたいに重さがなかった。


「生きてるよな? おーい、起きろー?」


 片膝を腕の代わりにして、白い頬を指で突いてみたがまるで起きない。

 俺はどこかの転移装置から運ばれてきたと思しき、黒い翼の持った少女を拾ってしまっていた。



 ・



 しょうがないし家に連れ帰って、今夜のお楽しみだった干し草のベッドに彼女を寝かせた。


 これはどうにも不思議な感覚なのだけど、さっき抱きかかえている間に、俺ごときが彼女に触れていいのだろうかと迷わされた。

 それほどに彼女とその軽さは驚きで、近付くことすら今はためらわれた。


 そこで俺は窓を手すりにして、夜風を浴びながら昼にゆでたポテトをほおばった。

 すっかり腹が減っていたようで、冷えていても美味い物は美味いままだ。俺は彼女との距離を常に保ちながら腹を満たした。


 いつもなら食事の満腹感に満たされたまま、暗くなったらすぐに寝てしまうのが最近の習慣だ。

 だが今日は眠れそうにない。


 だからなんとなく、あの小鳥のオモチャのスイッチを入れて、陽気な音楽に耳を澄ました。


「この子、どこのどちらさんなんだろな……」


 マク・メルの月はいつだって透き通るように青白くまぶしい。

 俺が窓辺を離れると、月光が少女の姿を白く映し出して、俺の目を奪い取った。


 もしも言い訳が許されるならば、これは今日まで続いた長い孤独のせいだと弁解したい。

 監獄に女っ気などあるわけもなく、俺にとって彼女は久々の若い女だ。


 それに人間の顔をただ眺めているだけで心が落ち着いた。

 黒く美しい羽根は艷やかに月光を浮かばせ、先ほど触れてた限りでは最高の指触りだった。


 有翼種というのは、最高級の羽毛掛け布団が身体から生えている種族なのだと、羨ましくなったりもした。


 また、彼女の体付きは繊細であまり肉がなく、年頃の乙女として見た限り小柄だ。

 髪も翼と同じ黒で、外に跳ねたセミロングが少し明るそうな人物像を連想させた。


「この子……もしかして、貴族か何かか……?」


 これまで多くの美姫を見てきたが、これほどまでに美しい姫君は初めてだ。

 白いオーバーオールはススか何かでところどころが汚れていたが、よく見ると金糸の刺繍が入っていたりと、見るからに高貴そうだった。


もし少しでも気に入ってくださったのなら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ