05(落選・道化師)
「失望かな」と落選の画家は自嘲した。
貶めるつもりもなければ、褒めるつもりもないよ。自信があったから出品したんだろ?
とやかく云われるのも覚悟のうち。無視されるよりは、少しは上等って程度だ。
笑われても、バカにされても、続ければ新境地の開拓になる──こともあるし、埋もれることもある──かもしれない。
審査でいいと決まったら、いい作品だ。
それが趣旨だろ?
サロンの審査でいいと決まったら、サロンにとって、いい作品だ。
出品するのにサロンの傾向を分析して、自分の作風よりもウケがいい対策を優先するのも戦略だ。
風景画と規定されていて、人物画を持っていく真似をするのか?
だから、別に、それは問題でない。
風景に人物が混じっていても、何か光るものがあれば、もしかしたら──ってことはある。
誰だって最初は無名だから。
誰かに発見してもらう必要がある。
だから、とやかく云うほどでない。
あの日、何があったのか。
失望かな。
失敗だと思う。悪手だ。
サロンは終わった。
……。
これまで幾度となく出品している。
どうして、なかったことになる?
サロンは、終わったんだ。
次回から出品要件は変わるだろう。潮時だ。
筆を折る? どうして?
個展をやろうと思う。
いいきっかけになったよ。
画商? 云わせておけ。
版元? 好きにするさ。
彼らが何かしてくれたか?
推薦と出品手続き? 感謝している。
それで?
手元にどれだけ残るのか。
あれは画家をダメにする。
手枷足枷をはめて、飼い殺しだ。
横槍を入れる。作品にケチをつける。
黙ってカネだけ出せよ!
うんざりだ。
個展。いいと思わないか?
自分だけの作品展だ。
……。
ところで、カネはあるかい?
少し、出してくれないか。場所代、安くないんだ。あと絵の具。腹も空いている。食べてないんだ、昨日から。
いや、足りない。
もっとだ。もっと。
そうだ。あんたを描いてやるよ。
──どうだい?
*
「たかが絵、されど絵」と、道化師は踊った。
小生ごときに話を聞きたい?
これは奇特な。なんと奇抜な。
この口から出るのは、
嘘/出任せ/大袈裟/紛らわしい。
絵とは、古い芸術様式のひとつであると考えられる。
先ず、音楽が生まれた。
咽喉の奥から音を発し、意思の疎通をはかった。次いで、洞窟に手型を描いた。
最後に文字が生まれ、それが文学となるには、更に時間を要した。
舞台をつくり、壇上に立ち、読んで語って芝居が生まれる。
さらに下ると、時間を切り取る写真、それを並べ、音を重ね、組み立て直した映画。
これを分解すると絵の連続になる。
絵を繋げたものが現在、過去、未来になる。
ほうら、なんてこった! 回帰した。
絵は音楽の次に作られた芸術なのだ。
信じる? 信じない? 意味がない。
サロンなんかやめて外に出ないか。
壁に〝落後者〟って描いて?
そのまま気ままに硝子細工。
たかが絵、ですぞ?
まさに躍らされたと云う他にない。
おお、何もかもが茶番なのだ。
意味があるとするのならば、
種族を超えて何かを感じた、
その事実。
つまりそう、
担がれたのです、奸計奸詐!
小生の言葉を真に受けるとはとんだ道化、うつけ者! 残念と云うより他にない。
はっ! あすこにいるのは八月王女!
(道化者、駆け出す)
「尼寺! 尼寺!」(?)
(道化者、近衛の女騎士に蹴り飛ばされる)
ぐえー。