04(髭の男・青年・少女・レディ・魔術師)
「お話を訊きたいそうです」と、髭の男は話を振った。
わたしが頼まれたのは、代筆です。
出品するための書類作り。それから梱包と発送を云いつけました。
わたしは、自分の仕事をしただけです。
(少し迷った容子で)
わたしは館長の秘書をしています。
たまに組長や、客人の依頼も受けます。
館長の許可を得ずに、引き受けることがないことも、ない。
ヒトである自分は、何かと便利なのでしょう。
(眼鏡の位置を直しながら)
端的に云えば雑用です。うまく運営されるよう、たいていは目立たぬところで作業する。裏方は、裏方であるべきです。
それなりに良い仕事ですよ。満足してます。
……。
やはり、珍しかったのではないでしょうか。
あのような作品は。
わたしも見ました。不思議な気持ちになりました。
構図? 色使い? モチーフ?
──これではうまく伝えられませんね。
(苦笑)
やはり、物珍しさがあったのではないでしょうか。上等と呼び難い作品でも、妙に引っかかるものがある、とか。そう云った類いの。
(む? ヤギヒゲ、客人か?)
ああ、組長。丁度よいところへ。
お時間、いただけますか?
──こちら、お話を伺いたいそうです。
*
「歌が世界を変える」と、エルフの青年は云った。
簡単な話だよ。
ひとつの歌が世界を変える。
本当だよ。
なら、一枚の絵が世界を変えることもあるんじゃないかな。
どうして分からないんだい?
不思議だ。
*
「今日がいちばん、すき」と、エルフの少女は云った。
すき。
……。
初めて見たときの印象はだいたい正しい。
間違っていることもある。
でも、だいたい正しい。
昨日と今日では、見え方が変わる。
苦手だったモノが好きになる。
好きだったモノが苦手になる。
今日の気分も明日の気分も、
違ってていい。
今日、これが好きと思ったら、すき。
今日がいちばん新しくて、
いちばん、すき。
*
「ごめんね」の一行だけの手紙を、レディは返信した。
ごめんねー。
レディ・カフカ ☆彡
(転載許可済み)
*
「醜悪なものに魅かれる」と、宮廷魔術師は本から顔を上げずに云った。
まったく、おかしな話だ。
新しいものは、醜悪と呼ばれる。
皆がそっぽを向く。見ようとしない。
理解しようともしない。
誰にも理解できない。
なのに、口の端に上る。
誰もが嫌だ嫌だと目を背けようとしながら、何度も何度も戻ってしまう。
言葉にならないならない何かを、求めて。
それが揺さぶりだ。
心が揺さぶられるのだ。世界が変わる。
善良な心状と、下衆な性根。
何故だろう、ヒトはきれいなものと同じくらいに、汚いものが好きなんだ。
醜悪なものに魅かれるんだ。
残酷さを知りながら、それに溺れる。
……。
お分かり頂けたようだな。
最後に。
燃えるように愛し、炎のように打ち込め。
それが人生という作品だ。
よき隣人となり、通信料を下げるよう訴えよう。
では、おやすみ。
豊潤で悠久な人生を。
……。
いい魂が、いい作品を作るなんて幻想だ、どうあがいても、クズの作ったものには勝てンぞ!
品位と良心じゃない!
世界を変えるのはクズと下衆!