~永遠に想う~
10、
「現・メイルーアって…"女神様"?」
「うん。」
「トーヤとレトのお母さんの?」
「うん。そうなるね。」
"そうなる"とはまた、ビミョーな言い回しではあるが。
「その、"女神様"のギザが、なんでここにいるんだろう?」
当たり前の問いだったが、レトにもわからないようだった。
「サラサは僕達と"ギザ"との関係、わからないよね。」
「うん…。ギザは主人を選ぶってことと、ユランとソランとは、生まれた時から一緒ってことだけ。」
「"ギザ"って、本当は"メイヤード"にしか生息していないんだ。」
「え?」
「まず、この世界の事から話そう。」
そう言ってソランに鞍を取り付ける。
話は帰ってからなのだと思ったが、レトは私にも鞍を投げてよこした。
「サラサはユーリーに乗って?」
「えぇ?!」
だって、ユーリーは"女神様"のパートナーでしょ?!
「む、無理だよ!"女神様"のギザなんて、畏れおおくて!」
「もう、ソランも待ちきれないし、僕もサラサと翔びたい。ユーリーはとても優秀だ。自分がするべき事をちゃんと解ってる。」
ユーリーを見ると、ユーリーもまた赤紫の瞳でこちらを見詰めている。
ソランの時と同じだ。
"信じて欲しい"と言っているようだった。
「ユーリー、私、いいの?」
《キュルルルルー》
優しい目。
「わかった。お願いします。」
鞍を着けると、ユーリーは優雅な仕草で片羽根を低く広げた。
そこに足をかけ鞍に飛び乗る。
「サラサ、風が冷たいからね。」
そうレトが言った瞬間、私は、厚手のフェルト生地で出来たクローク型のコートを纏わされている。
もちろん、同時にレトも同型のコートを羽織っていた。
「…ありがとう。」
慣れだ。慣れ。
「ソラン、行くよ!」
まずソランが舞い上がり、私もユーリーに意思を伝える。
「ユーリー。行こう。」
一度体勢を低くしてから強く蹴り上がり、翼を広げて舞い上がる。
広大な森。
屋敷の後ろの崖、キラキラと流れる滝。
繋がる川。水鏡のようなコバルトブルーの湖は、雲間から覗く日の光を反射し、その一部を白銀に染めている。
私を包む空は、薄雲が光をまばらに散らし、青空を隠していたが、その隙間からは、優しいレモン色の光線が、幾重にも地上に届いている。
"エンジェルズ・ラダー"天使の梯子と呼ばれる光景。
再び胸に込み上げる感動に息をを飲んだ。
「サラサ!今日は東へ!」
レトはソランを旋回させ、日の光に向かって翔びはじめた。
ユーリーは、やはりどうすればよいのかわかっているようで、すぐさま後を追い始める。
向かい風が強く声が届かないので、しばらくは無言で東を目指した。
初めてトーヤと翔んだ時は、北へ向かった。
セルストイ邸から北はほぼ森しか無かった。
今日も最初は眼下一面森だったのだが、次第にポツポツと深緑以外の色が目につきはじめる。
赤い屋根。オレンジの屋根。
更には、広大な黄緑色の丘と、木製とおぼしき柵。
畑のように、きっちりと整理された緑の一群もある。
目を凝らすと、なにやら動物が群れて草を食んでいるようだ。
サイロのような尖塔の建物もある。
レトが大きな声で教えてくれる。
「この辺りは牧草地帯。南東に向けて軽い斜面になっていて、牧草が良く育つんだ。赤い屋根は牧場経営で、オレンジは薬草を育ててる薬屋だ。青い屋根は魔女の家。」
「魔女?!」
「道具に魔力を与える。薬草なんかも使うから、だいたい薬屋の近くに居を構えるね。例外は"魔術師"魔力を使うのは一緒でも、目的が違うから、だいたいは都会にいる。目印はないな。」
「……。」
魔法がある世界なのはわかっていたが、実際に"魔女"や"魔術師"などと言葉にされると、どうにも想像が追い付かない。
更に翔び続けると、緑がだんだん少なくなり、その先には王城と城下町が見えてくる。
昨日の現場に戻るのかと少し身構えたが、レトはそちらには行かず、町外れのグレーの屋根(コンクリート造りに見える)の方へ降りて行った。
街からも牧草地帯からも外れ、周囲には小さめの林が覆っているだけ。
街道すら整備されず、獣道のような物しか通じていない。
だだっ広い草原だけは広がっているので、ユーリーやソランの着陸には困らなかった。
草原に降り立つと、レトは二羽の鞍を取った。
「ユーリー。ありがとう。帰りも頼めるかな。」
《クルルルー》
「じゃ、ソランと遊んであげてね。ソラン。行っといで!」
レトの話が終わると、二羽は連れだって深い森の方へ翔び去って行った。
「レト。ここに用事なの?」
「あぁ。ここには偏屈な魔術師が住んでるんだ。色々と話を聞こう。」
魔術師!!
いきなりコアな存在との対面だ。
少し緊張しながらレトの後に続く。
もう早朝という時間はとうに過ぎたのに、辺りは朝靄のように霞んでいる。
草原の中、岩や木の根がゴロゴロした獣道を、足元に気を付けながら進んでいくと、灰色の小さなコンクリートっぽい小屋だったソコは、どんどん大きくなっていった。
「あ …ぅえ?」
近付く分大きく見えてくる、とかそういうレベルではない。
木製のいまにも倒れそうだったオンボロ柵は、近付くと、煉瓦と鉄の組合わさった堅牢な柵へ変化したし、金属製の蔦模様で飾られた、貴族屋敷のような門扉も現れた。
さらに奥の小屋に至っては、平屋一部屋と思われたものが、一歩近付く毎にまるで細胞分裂でもするようにムクムクと、縦にも横にも部屋数、体積を増やして行く。
その様たるや、一種異様。
増えていく部屋の壁や窓には統一性がなく、青いストライプの壁であったり、丸窓、格子まど、ナマコ壁、煉瓦作りに、ログハウス、紫のダイヤ柄…スペードの形の窓もある。
不思議の国も斯くや…。
「は…い?」
門扉から、すでにお屋敷へと変貌した、その玄関口まで、精緻な石畳の左右を石燈籠が飾り、無人のまま順に明かりが灯って、モヤをぼんやりと照らして行く。
「大丈夫。歓迎してくれてるから。」
「…へ?」
あまりに疑問とズレた解答にへんな声が出てしまった。
「入って欲しくない人間には変化しない。」
レトは当たり前のようにずんずんと近付いていく。
イロイロ見てきた。
そのまま受け入れると決めた。
そう、これだって!
私は一つ深呼吸をして、小走りでレトを追った。
門扉は自動ドアのように開いて、私達を通してくれる。
モヤで足元がはっきりしないだけで、少しうすら寒く感じるようだ。
石畳を進むと、通り過ぎる側から明かりが消えて行く。
玄関へ着くと、観音開きのドアも勝手に開いた。
朝だというのに、火の玉でも飛び交いそうな雰囲気に、思わずレトのコートを掴む。
『いらっしゃいませ。レト=セルストイ様。藤宮 更紗様。』
「え?!」
フルネーム知ってる?! てゆうか、どこ?!
声の主を探して目線だけをさ迷わせていると、暗くて全貌の見えなかった内部から、古風なメイド服(アキバとかの尻下丈じゃなく、くるぶしまでありそうな。)を来た、透き通るようにキレイなお姉さんが出てきた。
分かりやすく形容すると、髪は高めおだんごで三角メガネの女教師風。
たおやかな身のこなしでお辞儀をすると、足音も立てずに案内を始める。
『お館様は、応接間でお待ちです。』
レトはそのままメイドさんの後に続く。
もういちいち驚いていられないが、一歩屋敷内に踏み出した瞬間に、ブーツはスリッパに替わっていた。
廊下は、やはり無秩序な装飾だった。
しばらく真っ直ぐ歩いたはずが、振り返っても玄関は無かった。
…ソウイウモノらしい。
一際厳かな(というか、ゴテゴテと飾られた)扉をノックし、メイドさんが呼び掛ける。
『お館様。お客様をお連れ致しました。』
「入りたまえ。」
またもや、観音開きのドアは勝手に開く。
「レト坊、久しいの。」
中で迎えてくれたのはとてもカラフルな紳士(?)だった。
細身の中背。真っ赤なドレスシャツに、金の重そうなネックレス。上は白いタキシードで下は白とピンクの立縞バルーンパンツ。ベルトの巻き付いた焦げ茶色のニーハイブーツ。
銀縁に緑のレンズが入ったモノクル。紫のマントを羽織って、
ハットはラメ紫のとんがりボウシ。10本の指全てに、それぞれ大きな宝石の入った指輪をはめている。
あぁ。奇抜なファッションに気をとられすぎたが、
本人は、まだそんなに年というわけでもなさそうで、30代だろうか?鼻下に八の字ひげを生やしている。
瞳はパープル。髪とひげはなんと緑色だった。
彼は早足で私に歩み寄ると、モノクルをしている方の左目をズイッと近付けて、何かを値踏みするように、あちこちの角度から観察を始めた。
「ぅ…」
あまりに近くてすこし仰け反ってしまう。
観察を終えると、彼は結論が出たとばかりに言った。
「更紗ちゃんは、…もうちっと帰れないのぅ。」
「え…?えぇ?」
帰る?え?
何処の話だ?!
レトの屋敷の話じゃなくて?
いきなりのカウンターパンチに、頭を押さえていると、レトが言う。
「サラサ、落ち着いて。先生も、藪から棒過ぎますよ。」
そのままレトは、"先生"と呼ぶ人物の脇にある、給仕用ワゴンで、紅茶をサーブし始める。
「ふむ。そうじゃな。先ずは茶にするか。更紗ちゃんも座りなさい。」
聞いた瞬間、応接間のやたらクッション性の良いソファーに近づき、思わず座ってしまう。
まるで操られているように。
レトのサーブした紅茶を一口味わったあと、たっぷりと時間をあけて、"先生"は話し出した。
「"星"の話をするんじゃったかな。」
「はい。」
レトがうなずく。
「更紗ちゃんは、あの絵本を読んどるね。」
…"星シアの祈り~メイルーアの役割~"のことだ。
これから始まる話の行方がわからず、無言で首を縦にふる。
「あれは、"星"に実際に起こった事なんじゃ。」
え―――?
『――むかし、シアは一つの星だった。
ある時、流れ星がシアにぶつかり、星は6個に割れた。
そのまま星の破片は飛び散ろうとするが、
女神メイルーアが、星が飛び散るのを止めた。
そしてそれらが浮島になり、色国になった。
いまでもメイルーアは、星がこれ以上壊れないよう、力を尽くしている――』
「もう、文献すら残っとらん大昔のことじゃ。
"星"は一度砕けた。
で、一人の人間"メイルーア"が、星を繋いだ。
それから現代までずっと"繋ぎ続けている"。それだけじゃ。」
「え―…?」
たった一人の人間が?
"女神"ではなくて?
…今も、繋ぎ続けている?
あまりに簡単に語られ過ぎて、どこに疑問をもって良いのやら判らなくなる。
「…たった一人が?」
割れた星を繋ぐ…。
そんなことができるなら、たしかに"神"だ。
「"メイルーア"は、"神"じゃぁない。"魔術師"だったんじゃ。」
「魔術師…。」
最早オウムのように、単語を繰り返すだけだ。
「事実は小説より奇なり。星を割ったんは"隕石"ではなく、戦争じゃった。」
まるで全てを見てきたかのように"先生"は語った。
「"星は"小さな小さな星じゃが、"水"が存在する、希少な惑星じゃ。割れる前のシアは、緑豊かで凹凸もそれほどなく、海は青く澄んでいた。衛星、月を2つ持っとるな。
文明は瞬く間に栄え、肌、瞳、髪、様々な色の種族が、それぞれに交易し、栄華を誇っておった。
今は、色国は5つに別れとるが、昔はみんな"違い"があっても仲ようやっとったんじゃ。
―――今の"シア"はな、
西の白の部族 (セルトレーン)は、肌は白く、瞳は薄茶か金。髪はプラチナブロンド。
特性は"魔力量の多さ"で、物質に魔力を付与する技術に長けておる。
台所の、"火を放つ石"や、"水を転移させる管" 、"衣服の汚れを払う箱"などだな。
魔力とは便利なもんで、"白"は、他国と交易せんでも特に困ることはない。基本的には、王城が他国と細々とやり取りするだけじゃ。
南の赤の部族 (カガンツァ)は、肌は褐色、瞳はマゼンダからバイオレット、髪は赤から茶。
特性は"身体能力の高さ"で、狩猟や土木作業に長けておる。
鉱物資源や、地下資源が主な産業じゃ。
"赤"は"資源"はあっても、魔力も技術もあまり持っとらんのでな、"青"とは盛んに"交易"しとる。お互いの国に大使を遣わしあっとるな。
東の青の部族 (クィンブルート)は、肌は黄色、瞳はシアンからグリーン、髪は青からラベンダー。
特性は"明晰な頭脳"で、機械、テクノロジーの開発に長けておる。
魔力を使う者もおるにはおるが、"資源を利用したエネルギー"を、誰にでも使える形にして供給しておる。
難を言えば、魔力と違い"資源"が有限だという事と、使用した後の廃棄物が格段に多い所じゃな。
"青"は技術力は優れていても、作物の実りや鉱物資源といった、元になる産業が奮わんでな。こちらも他国に"技術力"を輸出し、エネルギー資源等を輸入しておる。
一番他国との交易を盛んにしとるのは"青"じゃな。
各国の大使を招いとるし、他民族に対する偏見も少ない。
…更紗ちゃんの居た世界に一番近いかも知れんのぅ。」
いきなり話を振られ、反応が遅れる。
「…あ…いや。そうなんです…ね?」
たしかに聞いた所では似ているのかもしれない。
"有限の資源"を利用して、"誰にでも使える電力"を作りだし、ゴミは増えていく…。
この"先生"は、どこまでご存知なのだろう。
"私が居た世界"と言った。
私がどこから来たのか知っている?
この人ならば、帰り方を教えてくれるかもしれない。
…でも、
郷愁と、トーヤとレトを救いたいという想い。
渦を巻くように、溺れるように、思考を埋めてゆく。
私は一つ頭を振った。
…今はとりあえず話を最後まで聞こう。
質問はその後だ。
そういえば、今日は"髪の色"を隠してはいなかった。
…まぁ、ご本人がこれだけカラフルなら、"排他主義"とかいう枠にはハマらないだろうが…。
私が落ち着くのを待っていたかのように、さらに話は続いて行く。
「黒の部族 (ゴング・ベラ・ジグレダ)は、肌は黄色、瞳は緋色からプラム、髪は黒またはグレー。
特性は"身体変化能力"。体の一部に動物の特性を付加できる。
あるものは足の速さ。あるものは嗅覚の鋭敏さ。あるものは聴力の強化。他にも、腕力、泳力、など。
実際に変化する身体は、他部族からは気味悪がられる事も多く、黒だけは昔から他民族とあまり仲良くはしとらんかった。
今は更に厳重に国を封鎖し、武力を溜め込んどるの。
唯一交易のあるのは、"青"だけじゃ。」
先生は一度話を切り、紅茶を一口。
私も喉の渇きに耐えかねて、一口いただいた。
優しい、レモングラスのハーブティーのようだった。
香り良く、スッキリと頭をリフレッシュしてくれる。
「空の部族は…今は神の国か。
肌は白、瞳はサファイア、髪は金。
"空の部族"と、色以外で呼ばれたのは、生まれた時から背に翼を持っていたからだ。
更には出生率が低く、あまり種として強くなかったのでな、他民族と交わると、必ずと言って良いほど子は翼を失う。
で、空の部族もなかなかに他所とは交わらんかった。
特性は"魔術"に秀でていて、"白"とは違い"薬草"や"鉱石"などの媒体が無くとも、"魔力"を発動出来る事。
かなり希少な民族じゃ。」
「翼を持って生まれてくる―?」
あれ?
それは、"神の力"を継いだ証ではないのか?
"メイヤード"の民は、みんな翼を持っている?
「慌てなさんな。まだ話は続くんじゃ。
"空の部族"は、元々はみな"翼"を持っておった。
星が割れるまでの話じゃ。」
星が割れるまで――。
「"空の部族"は魔術使い。
手の印や呪文など、様々な呪術を使いこなす。
そして"翼"が力の象徴だった。
翼があるということ自体が、魔術を使う"力の継承"だったのではないかと、ワシは考えとる。
その証拠に、星が割れる前、"白"の魔法は他民族にも伝わったが、"空"がいくら伝えても他民族に"魔術"は使えなかった。
そして戦争じゃ……。
コレを、語ると長いからの。
次の機会にするとしよう。
とにかくも、"星"は割れてしもうた。
いや、割れる事が"わかっておった"。
空の部族の"メイルーア"にはな。
"メイルーア"はこの星を救うために、"命を掛けた大魔術"を発動したのじゃ。」
「命を――。」
すごい事だと思う。
本当に。
自分一人が犠牲になる事で、世界が救われる。
そんな二択があったとして、自分は世界を選べるか?
いや、それは、彼女には選べたのだとしよう。
たった一人の命で、星が割れるのを防ぐことが出来た?
テレビで"超新星爆発"という、星の爆発のCG映像を見たことがある。
その星に"連星"がある場合、もう片方も無事ではすまない程の大爆発。
仮に地球上で"第三次世界対戦"でも起こったとして、地球は割れるか?
いや。割るほどの力がかかったとして…それを止める事が、一人の人間に――?
「お前さんの疑問は分かっとる。"メイルーア"一人でそんな技が使えたのか、じゃろ?
答えはな、無理じゃ。」
「え。だったら…。」
レトは、既に全てを知っているのだろう。一言も口を挟まずに。静かに紅茶を飲んでいる。
「"メイルーア"は、星が割れる事を前もって予知しておった。
同時に沢山の命が犠牲になる事も。
彼女が使った"大魔術"とは、
爆発で犠牲になる全ての生命を星を繋ぐエネルギーにするものだった。」
「!!!」
「彼女は星が割れる前に、"最初の一人"として人柱になったんじゃ。
爆発の衝撃は凄まじかった。
命有るものは次々に、吹き出す地殻エネルギーに焼かれ、荒ぶる海に飲まれて、断層に落下し、吹き出すガスに吹き飛ばされる。
大気は汚染され窒息し、次々に飛び交う石礫に、あるいは撃ち抜かれ、あるいは潰される。
ありとあらゆる生命が費やされた。
そして失われた命は、全てメイルーアの魔術によって、次々に星に留められ、飛び去ろうとする星の欠片達を繋ぎ止めた。
もしかしたら、"メイルーア"すら、全ての生命を使ったとしても星が残るのかは賭けだったのかもしれんが。
とにかくも、少しは生命が残るところでギリギリに爆発は止まった。
そして、今の、浮島の連なるイビツな星になってしもうたんじゃ。
その後に星を割る原因となった種族間の争いを避けるために、色毎に島を分ける事になった。
元々"種族"として弱かった空の部族は、この天変地異で次々に翼を失って行った。
この頃じゃの。
翼を無くした"空の部族"が"ギザ"の祖たる魔獣を飼い始めたのは。
今では1人1羽。生涯の絆と言われるほど強固な関係じゃ。
話を戻すが…とにかく"空の部族"は翼を失いギザと共生し始めた。
だが、"メイルーア"の血筋の女性、代々たった一人だけには"翼"が現れて、彼女の力を継ぐと言われとる。
それが、"女神の名前"を継いでいくしきたりになった。
ただ、"星の救世主"の名前を継いでいくだけとは、どうにも違うようでな…。
これが…なかなかワシにも分からんのじゃよ。
メイヤードは、各色国と交易はほとんどなく"信仰の対象"じゃ。
内部事情を知るものはほとんどおらん。」
たった一人。
"最初の一人"が使った大魔術が、
犠牲者の命を全てエネルギーに変えた…。
途方もない規模の話に圧倒され、スペクタクル映画でも一本見たような気持ちになる。
まるで現実感を持って受け入れられなかったのだ。
身体中から力が抜けてしまったようだ。
ずっと黙っていたレトが、話を引き継いだ。
「僕達が"メイルーア"の力を継いでいるって、言ったでしょう?
本来であれば"女神"が生まれるはずだった。
"最初の一人"が女で、何故だか代々、何等かの意味があって力を持つ女性が"女神"として祀られている。
僕達は男で、印も半分づつしかなかったから、生まれて直ぐに"出来損ない"としてメイヤードから"白国"へ下げ渡されたんだ。
実は僕達自身、なぜいまだに"翼"が必要なのか、本来であれば"メイルーアを継いだ者"に課せられる役目なんかも知らない。
"いらない"と国を追い出しても、白国に"手厚く保護"させている事も疑問だ。
僕達をここに置いておくことに、なんの意味があるのかわからない。」
「そんなの!!」
―出来損ない…下げ渡す?
"いらない"だなんて!
そんなの、あり得ない!
「生まれて来た意味なんて、
他人の思惑になんか重ねなくていい!
誰かの都合なんてどうでもいい!
レトも、トーヤも、人生を楽しむために生まれて来たんだよ!
毎日美味しいご飯食べて、大好きな人たちとおしゃべりして笑って。」
誰だって、生まれて来る場所を選べない。
もし選べたなら、飢えて死んでしまう子供がいるもんか。
虐待される子供がいるもんか。
「トーヤも、レトも、誰かとか、何かの役に立つために生まれて来たわけじゃないの!
自分達で、意味を見つけるんだよ!!」
悲しくて、悔しかった。
やるせなくて、苦しくて、
吹き出す想いに、視界がゆらゆらと霞んで行く。
この世界に来て、二人を知って、時々無性に湧き出る感情。
―――この想い、どこから来るの?
レトは、私のいきなりの爆弾トークを、目を丸くして聞いていたが、"先生"はなぜだかツボだったらしく、笑って誉めてくれた。
「ふぁっはははははっ!
更紗ちゃんはいいのぅ。真っ直ぐだのぅ。」
いきなり爆発してしまった私は、慌てて表情を作り、服の袖で目を押さえる。
…"話を聞く"のだった。
「そうじゃのう。レト坊。
更紗ちゃんの言う通りじゃ。」
「先生…?」
「そろそろお前さん達は、"答え"を見つけに行かなければならんのぅ。」
「…答え、ですか?」
「そう。お前さんが先程自分で"わからない"と言っていた事の答えじゃ。
―代々引き継がれる"女神の力"の役割。
―何故、レト坊達は"白国"に保護されておるのか。」
「でも、先生!」
レトは焦ったように詰め寄るが、先生は全てはお見通しといったように続ける。
「トーヤ坊の事もわかっとる。あいつはぶっきらぼうだが、優しいからな。自分を責めとるんじゃろう。お前さん達に顔向け出来んとな。
だが、あれは、暫くは見つからないじゃろうの。」
「「え?」」
トーヤを見つけに行こうと決めたのだ。
"暫く見つからない"とは、どういうことだ?
「まてまて、話を最後まで聞きなさい。
"時"というのがある。
全ては"起きるべき時"に起こるのじゃ。
"出逢い""別れ""発見""破壊""成就"。
時を逃せば、また運命は変わってしまう。
更紗ちゃんが"来た"。そしてトーヤ坊が"旅立った"
次はレト坊。お前さんが"探しに行く"番じゃよ。」
私が"来た"ことは、運命―?
どうしても、聞かずにはいられなかった。
「私がこの世界に来た事も、何か意味があるんですか?!」
先生はにっこり笑うだけで、また話を続ける。
「全ては"時"が決める事。
来るべくして更紗ちゃんは"来た"し、トーヤ坊は暫くは"見つからん"。
レト坊は"探しに"いかねばならんし、
更紗ちゃんは…先程言うたように、暫くは"帰れん"じゃろうの。」
私が目的にしていた2つ。
"トーヤを探して連れ帰る"事。
"私が帰る方法を見つける"事。
どちらも急速に遠退いて行き、血の気が引いていくのを感じる。
先生はまた言葉を続けた。
「やれやれ。
"暫くは"…と言ったんじゃ。
大サービスじゃぞ?
トーヤ坊は見つかるし、更紗ちゃんもちゃんと帰れるわい。
ただ、それが"今すぐ"ではないだけじゃ。」
トーヤは見つかるし、私は帰れる。
確定的な言い方にため息が出るほどほっとした。
"今じゃない"って、どのくらい先なんだろう?
もう一度聞こうとして、レトが難しい顔でうつむいている事に気づく。
「レト?大丈夫?」
「レト坊は…今の"仕事"を気にしとるんじゃな?」
「…はい。あの屋敷に僕しか居なくなった以上、僕は本当にトーヤを探しに行って良いのか…あの"屋敷"を離れても構わないのかと…。
今日は、そこについて助言を頂きたくて参りました。」
「結論から言うと、かまわん。
そもそも力の半分が帰らん時点で、問題は起こっとる。
逆に、早く探しに出た方が"廻り合いの時"も早まるだろう。"被害"は無くはないが、多少なりとも少ないじゃろうて。
"ユーリー"が遣わされたのも、そのためじゃ。」
「「!!」」
"女神のパートナー"ユーリーが遣わされた。
"何かを成せ"と。
二人、顔を見合わせる。
出発が早い方が、"廻り合わせ"も早まる…!
となれば。
レトと二人同時に立ち上がると、レトは直ぐ様笛を吹いた。
《ピィ――――――!》
「先生。急ぎますので、これで失礼します!!」
レトに続き、私もお辞儀する。
「ありがとうございました!」
道が開けた気がしたのだ。
答えの無いものを探し回るのではなく、
"必ず見つかる"物を探すなら、どんなに気が楽だろう。
遠くから、力強い羽音が聞こえてくる。
「サラサ、行くよ。」
「うん。」
ドアを開け放して駆け出すレト。
彼らしくない荒い動作に、どれだけ気が逸っているかを知る。
少しでも早く続こうとすると、先生が呼び止めた。
「更紗ちゃん。コレを。」
「え?」
「困った時に役に立つだろうよ。餞別じゃ。
…レト坊トーヤ坊を頼む。」
飄々とした雰囲気を隠し、真面目に差し出されたそれは、
大きなオパールのような石のはまった指輪。
アンティークな雰囲気で、金の波模様の台は少し燻された色合いだった。
不思議な人だ。
若く見えるのに老人のような語り口。
全てを知っているようで、教えてはくれない。
ただ、"答え"のみを聞いたとして、"先生"は答えてはくれないのだろう。
でも、この瞳。
"二人を想う気持ち"だけは信じられる。
「はい。出来る限り、力になります。」
そう。
私は二人を助けたい。
先生が言うように、私が"来るべくして"ここへ来たのならば、そこには何か理由があるはずなのだ。
それは、レトとトーヤを助けるためなのではないだろうか。
先への指針を手にした私には、それが答えのような気がしていた。
もう一度先生に強くうなずいて、私はレトの後を追いかけた。