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翼ある者達  作者: 天野 月子
6/17

~永遠に想う~


10、


「現・メイルーアって…"女神様"?」

「うん。」

「トーヤとレトのお母さんの?」

「うん。そうなるね。」

"そうなる"とはまた、ビミョーな言い回しではあるが。

「その、"女神様"のギザが、なんでここにいるんだろう?」

当たり前の問いだったが、レトにもわからないようだった。

「サラサは僕達と"ギザ"との関係、わからないよね。」

「うん…。ギザは主人を選ぶってことと、ユランとソランとは、生まれた時から一緒ってことだけ。」

「"ギザ"って、本当は"メイヤード"にしか生息していないんだ。」

「え?」

「まず、この世界の事から話そう。」

そう言ってソランに鞍を取り付ける。

話は帰ってからなのだと思ったが、レトは私にも(ロープ)を投げてよこした。

「サラサはユーリーに乗って?」

「えぇ?!」

だって、ユーリーは"女神様"のパートナーでしょ?!

「む、無理だよ!"女神様"のギザなんて、畏れおおくて!」

「もう、ソランも待ちきれないし、僕もサラサと翔びたい。ユーリーはとても優秀だ。自分がするべき事をちゃんと解ってる。」

ユーリーを見ると、ユーリーもまた赤紫の瞳でこちらを見詰めている。

ソランの時と同じだ。

"信じて欲しい"と言っているようだった。

「ユーリー、私、いいの?」

《キュルルルルー》

優しい目。

「わかった。お願いします。」

鞍を着けると、ユーリーは優雅な仕草で片羽根を低く広げた。

そこに足をかけ鞍に飛び乗る。

「サラサ、風が冷たいからね。」

そうレトが言った瞬間、私は、厚手のフェルト生地で出来たクローク型のコートを纏わされている。

もちろん、同時にレトも同型のコートを羽織っていた。

「…ありがとう。」

慣れだ。慣れ。

「ソラン、行くよ!」

まずソランが舞い上がり、私もユーリーに意思を伝える。

「ユーリー。行こう。」

一度体勢を低くしてから強く蹴り上がり、翼を広げて舞い上がる。

広大な森。

屋敷の後ろの崖、キラキラと流れる滝。

繋がる川。水鏡のようなコバルトブルーの湖は、雲間から覗く日の光を反射し、その一部を白銀に染めている。

私を包む空は、薄雲が光をまばらに散らし、青空を隠していたが、その隙間からは、優しいレモン色の光線が、幾重にも地上に届いている。

"エンジェルズ・ラダー"天使の梯子と呼ばれる光景。

再び胸に込み上げる感動に息をを飲んだ。


「サラサ!今日は東へ!」

レトはソランを旋回させ、日の光に向かって翔びはじめた。

ユーリーは、やはりどうすればよいのかわかっているようで、すぐさま後を追い始める。

向かい風が強く声が届かないので、しばらくは無言で東を目指した。

初めてトーヤと翔んだ時は、北へ向かった。

セルストイ邸から北はほぼ森しか無かった。

今日も最初は眼下一面森だったのだが、次第にポツポツと深緑以外の色が目につきはじめる。

赤い屋根。オレンジの屋根。

更には、広大な黄緑色の丘と、木製とおぼしき柵。

畑のように、きっちりと整理された緑の一群もある。

目を凝らすと、なにやら動物が群れて草を食んでいるようだ。

サイロのような尖塔の建物もある。

レトが大きな声で教えてくれる。

「この辺りは牧草地帯。南東に向けて軽い斜面になっていて、牧草が良く育つんだ。赤い屋根は牧場経営で、オレンジは薬草を育ててる薬屋だ。青い屋根は魔女の家。」

「魔女?!」

「道具に魔力を与える。薬草なんかも使うから、だいたい薬屋の近くに居を構えるね。例外は"魔術師"魔力を使うのは一緒でも、目的が違うから、だいたいは都会にいる。目印はないな。」

「……。」

魔法がある世界なのはわかっていたが、実際に"魔女"や"魔術師"などと言葉にされると、どうにも想像が追い付かない。

更に翔び続けると、緑がだんだん少なくなり、その先には王城と城下町が見えてくる。

昨日の現場に戻るのかと少し身構えたが、レトはそちらには行かず、町外れのグレーの屋根(コンクリート造りに見える)の方へ降りて行った。

街からも牧草地帯からも外れ、周囲には小さめの林が覆っているだけ。

街道すら整備されず、獣道のような物しか通じていない。

だだっ広い草原だけは広がっているので、ユーリーやソランの着陸には困らなかった。

草原に降り立つと、レトは二羽の鞍を取った。

「ユーリー。ありがとう。帰りも頼めるかな。」

《クルルルー》

「じゃ、ソランと遊んであげてね。ソラン。行っといで!」

レトの話が終わると、二羽は連れだって深い森の方へ翔び去って行った。

「レト。ここに用事なの?」

「あぁ。ここには偏屈な魔術師が住んでるんだ。色々と話を聞こう。」

魔術師!!

いきなりコアな存在との対面だ。

少し緊張しながらレトの後に続く。

もう早朝という時間はとうに過ぎたのに、辺りは朝靄のように霞んでいる。

草原の中、岩や木の根がゴロゴロした獣道を、足元に気を付けながら進んでいくと、灰色の小さなコンクリートっぽい小屋だったソコは、どんどん()()()()()()いった。

「あ …ぅえ?」

近付く分大きく見えてくる、とかそういうレベルではない。

木製のいまにも倒れそうだったオンボロ柵は、近付くと、煉瓦と鉄の組合わさった堅牢な柵へ変化したし、金属製の蔦模様で飾られた、貴族屋敷のような門扉も現れた。

さらに奥の小屋に至っては、平屋一部屋と思われたものが、一歩近付く毎にまるで()()()()でもするようにムクムクと、縦にも横にも部屋数、体積を増やして行く。

その様たるや、一種異様。

増えていく部屋の壁や窓には統一性がなく、青いストライプの壁であったり、丸窓、格子まど、ナマコ壁、煉瓦作りに、ログハウス、紫のダイヤ柄…スペードの形の窓もある。

不思議の国も斯くや…。

「は…い?」

門扉から、すでに()()()へと変貌した、その玄関口まで、精緻な石畳の左右を石燈籠が飾り、無人のまま順に明かりが灯って、モヤをぼんやりと照らして行く。

「大丈夫。歓迎してくれてるから。」

「…へ?」

あまりに疑問とズレた解答にへんな声が出てしまった。

「入って欲しくない人間には()()しない。」

レトは当たり前のようにずんずんと近付いていく。

()()()()見てきた。

()()()()受け入れると決めた。

そう、これだって!

私は一つ深呼吸をして、小走りでレトを追った。


門扉は自動ドアのように開いて、私達を通してくれる。

モヤで足元がはっきりしないだけで、少しうすら寒く感じるようだ。

石畳を進むと、通り過ぎる側から明かりが消えて行く。

玄関へ着くと、観音開きのドアも勝手に開いた。

朝だというのに、火の玉でも飛び交いそうな雰囲気に、思わずレトのコートを掴む。

『いらっしゃいませ。レト=セルストイ様。藤宮 更紗様。』

「え?!」

フルネーム知ってる?! てゆうか、どこ?!

声の主を探して目線だけをさ迷わせていると、暗くて全貌の見えなかった内部から、古風なメイド服(アキバとかの尻下丈じゃなく、くるぶしまでありそうな。)を来た、透き通るようにキレイなお姉さんが出てきた。

分かりやすく形容すると、髪は高めおだんごで三角メガネの女教師風。

たおやかな身のこなしでお辞儀をすると、足音も立てずに案内を始める。

『お館様は、応接間でお待ちです。』

レトはそのままメイドさんの後に続く。

もういちいち驚いていられないが、一歩屋敷内に踏み出した瞬間に、ブーツはスリッパに替わっていた。

廊下は、やはり無秩序な装飾だった。

しばらく真っ直ぐ歩いたはずが、振り返っても玄関は無かった。

…ソウイウモノらしい。

一際厳かな(というか、ゴテゴテと飾られた)扉をノックし、メイドさんが呼び掛ける。

『お館様。お客様をお連れ致しました。』

「入りたまえ。」

またもや、観音開きのドアは勝手に開く。

「レト坊、久しいの。」

中で迎えてくれたのはとてもカラフルな紳士(?)だった。

細身の中背。真っ赤なドレスシャツに、金の重そうなネックレス。上は白いタキシードで下は白とピンクの立縞バルーンパンツ。ベルトの巻き付いた焦げ茶色のニーハイブーツ。

銀縁に緑のレンズが入ったモノクル。紫のマントを羽織って、

ハットはラメ紫のとんがりボウシ。10本の指全てに、それぞれ大きな宝石の入った指輪をはめている。

あぁ。奇抜なファッションに気をとられすぎたが、

本人は、まだそんなに年というわけでもなさそうで、30代だろうか?鼻下に八の字ひげを生やしている。

瞳はパープル。髪とひげはなんと緑色だった。

彼は早足で私に歩み寄ると、モノクルをしている方の左目をズイッと近付けて、何かを値踏みするように、あちこちの角度から観察を始めた。

「ぅ…」

あまりに近くてすこし仰け反ってしまう。

観察を終えると、彼は結論が出たとばかりに言った。

「更紗ちゃんは、…もうちっと帰れないのぅ。」

「え…?えぇ?」

帰る?え?

何処の話だ?!

レトの屋敷の話じゃなくて?

いきなりのカウンターパンチに、頭を押さえていると、レトが言う。

「サラサ、落ち着いて。先生も、藪から棒過ぎますよ。」

そのままレトは、"先生"と呼ぶ人物の脇にある、給仕用ワゴンで、紅茶をサーブし始める。

「ふむ。そうじゃな。先ずは茶にするか。更紗ちゃんも座りなさい。」

聞いた瞬間、応接間のやたらクッション性の良いソファーに近づき、思わず座ってしまう。

まるで操られているように。


レトのサーブした紅茶を一口味わったあと、たっぷりと時間をあけて、"先生"は話し出した。

「"(シア)"の話をするんじゃったかな。」

「はい。」

レトがうなずく。

「更紗ちゃんは、()()()()を読んどるね。」

…"星シアの祈り~メイルーアの役割~"のことだ。

これから始まる話の行方がわからず、無言で首を縦にふる。

「あれは、"(シア)"に実際に起こった事なんじゃ。」


え―――?


『――むかし、シアは一つの星だった。

ある時、流れ星がシアにぶつかり、星は6個に割れた。

そのまま星の破片は飛び散ろうとするが、

女神メイルーアが、星が飛び散るのを止めた。

そしてそれらが浮島になり、色国になった。

いまでもメイルーアは、星がこれ以上壊れないよう、力を尽くしている――』


「もう、文献すら残っとらん大昔のことじゃ。

"(シア)"は一度砕けた。

で、一人の人間"メイルーア"が、星を()()()

それから現代までずっと"()()()()()()()"。それだけじゃ。」


「え―…?」


たった一人の()()が?

"女神"ではなくて?

…今も、()()()()()()()

あまりに簡単に語られ過ぎて、どこに疑問をもって良いのやら判らなくなる。

「…たった一人が?」

割れた星を繋ぐ…。

そんなことができるなら、たしかに"神"だ。

「"メイルーア"は、"神"じゃぁない。"魔術師"だったんじゃ。」

「魔術師…。」

最早オウムのように、単語を繰り返すだけだ。

「事実は小説より奇なり。星を割ったんは"隕石"ではなく、戦争じゃった。」

まるで全てを見てきたかのように"先生"は語った。


「"(シア)は"小さな小さな星じゃが、"水"が存在する、希少な惑星じゃ。割れる前のシアは、緑豊かで凹凸もそれほどなく、海は青く澄んでいた。衛星、月を2つ持っとるな。

文明は瞬く間に栄え、肌、瞳、髪、様々な色の種族が、それぞれに交易し、栄華を誇っておった。

今は、色国は5つに別れとるが、昔はみんな"違い"があっても仲ようやっとったんじゃ。


―――今の"シア"はな、

西の白の部族 (セルトレーン)は、肌は白く、瞳は薄茶か金。髪はプラチナブロンド。

特性は"魔力量の多さ"で、物質に魔力を付与する技術に長けておる。

台所の、"火を放つ石"や、"水を転移させる管" 、"衣服の汚れを払う箱"などだな。

魔力とは便利なもんで、"白"は、他国と交易せんでも特に困ることはない。基本的には、王城が他国と細々とやり取りするだけじゃ。


南の赤の部族 (カガンツァ)は、肌は褐色、瞳はマゼンダからバイオレット、髪は赤から茶。

特性は"身体能力の高さ"で、狩猟や土木作業に長けておる。

鉱物資源や、地下資源が主な産業じゃ。

"赤"は"資源"はあっても、魔力も技術もあまり持っとらんのでな、"青"とは盛んに"交易"しとる。お互いの国に大使を遣わしあっとるな。


東の青の部族 (クィンブルート)は、肌は黄色、瞳はシアンからグリーン、髪は青からラベンダー。

特性は"明晰な頭脳"で、機械、テクノロジーの開発に長けておる。

魔力を使う者もおるにはおるが、"資源を利用したエネルギー"を、誰にでも使える形にして供給しておる。

難を言えば、魔力と違い"資源"が有限だという事と、使用した後の廃棄物が格段に多い所じゃな。

"青"は技術力は優れていても、作物の実りや鉱物資源といった、元になる産業が奮わんでな。こちらも他国に"技術力"を輸出し、エネルギー資源等を輸入しておる。

一番他国との交易を盛んにしとるのは"青"じゃな。

各国の大使を招いとるし、他民族に対する偏見も少ない。


…更紗ちゃんの居た世界に一番近いかも知れんのぅ。」


いきなり話を振られ、反応が遅れる。

「…あ…いや。そうなんです…ね?」

たしかに聞いた所では似ているのかもしれない。

"有限の資源"を利用して、"誰にでも使える電力"を作りだし、ゴミは増えていく…。


この"先生"は、どこまでご存知なのだろう。

"私が居た世界"と言った。

私がどこから来たのか知っている?

この人ならば、帰り方を教えてくれるかもしれない。

…でも、

郷愁と、トーヤとレトを救いたいという想い。

渦を巻くように、溺れるように、思考を埋めてゆく。


私は一つ頭を振った。

…今はとりあえず話を最後まで聞こう。

質問はその後だ。


そういえば、今日は"髪の色"を隠してはいなかった。

…まぁ、ご本人がこれだけカラフルなら、"排他主義"とかいう枠にはハマらないだろうが…。


私が落ち着くのを待っていたかのように、さらに話は続いて行く。


「黒の部族 (ゴング・ベラ・ジグレダ)は、肌は黄色、瞳は緋色からプラム、髪は黒またはグレー。

特性は"身体変化能力"。体の一部に動物の特性を付加できる。

あるものは足の速さ。あるものは嗅覚の鋭敏さ。あるものは聴力の強化。他にも、腕力、泳力、など。

実際に変化する身体は、他部族からは気味悪がられる事も多く、黒だけは昔から他民族とあまり仲良くはしとらんかった。

今は更に厳重に国を封鎖し、武力を溜め込んどるの。

唯一交易のあるのは、"青"だけじゃ。」


先生は一度話を切り、紅茶を一口。

私も喉の渇きに耐えかねて、一口いただいた。

優しい、レモングラスのハーブティーのようだった。

香り良く、スッキリと頭をリフレッシュしてくれる。


「空の部族は…今は神の国(メイヤード)か。

肌は白、瞳はサファイア、髪は金。

"空の部族"と、色以外で呼ばれたのは、生まれた時から背に翼を持っていたからだ。

更には出生率が低く、あまり種として強くなかったのでな、他民族と交わると、必ずと言って良いほど子は翼を失う。

で、空の部族もなかなかに他所(よそ)とは交わらんかった。

特性は"魔術"に秀でていて、"白"とは違い"薬草"や"鉱石"などの媒体が無くとも、"魔力"を発動出来る事。

かなり希少な民族じゃ。」


「翼を持って生まれてくる―?」

あれ?

それは、"神の力"を継いだ証ではないのか?

"メイヤード"の民は、みんな翼を持っている?


「慌てなさんな。まだ話は続くんじゃ。

"空の部族"は、元々はみな"翼"を持っておった。

星が割れるまでの話じゃ。」


星が割れるまで――。


「"空の部族"は魔術使い。

手の印や呪文など、様々な呪術を使いこなす。

そして"翼"が力の象徴だった。

翼があるということ自体が、魔術を使う"力の継承"だったのではないかと、ワシは考えとる。

その証拠に、星が割れる前、"白"の魔法は他民族にも伝わったが、"空"がいくら伝えても他民族に"魔術"は使えなかった。


そして戦争じゃ……。

コレを、語ると長いからの。

次の機会にするとしよう。


とにかくも、"(シア)"は割れてしもうた。

いや、割れる事が"わかっておった"。

空の部族の"メイルーア"にはな。

"メイルーア"はこの星を救うために、"命を掛けた大魔術"を発動したのじゃ。」


「命を――。」


すごい事だと思う。

本当に。

自分一人が犠牲になる事で、世界が救われる。

そんな二択があったとして、自分は世界を選べるか?


いや、それは、彼女(メイルーア)には選べたのだとしよう。


()()()()()()()で、星が割れるのを防ぐことが出来た?


テレビで"超新星爆発"という、星の爆発のCG映像を見たことがある。

その星に"連星"がある場合、もう片方も無事ではすまない程の大爆発。

仮に地球上で"第三次世界対戦"でも起こったとして、地球は割れるか?

いや。割るほどの力がかかったとして…それを止める事が、一人の人間に――?


「お前さんの疑問は分かっとる。"メイルーア"一人でそんな技が使えたのか、じゃろ?

答えはな、無理じゃ。」

「え。だったら…。」


レトは、既に全てを知っているのだろう。一言も口を挟まずに。静かに紅茶を飲んでいる。


「"メイルーア"は、星が割れる事を前もって予知しておった。

同時に沢山の命が犠牲になる事も。


彼女が使った"大魔術"とは、

()()()()()()()()()()()()()を星を繋ぐエネルギーにするものだった。」


「!!!」


「彼女は星が割れる前に、"最初の一人"として人柱になったんじゃ。


爆発の衝撃は凄まじかった。

命有るものは次々に、吹き出す地殻エネルギーに焼かれ、荒ぶる海に飲まれて、断層に落下し、吹き出すガスに吹き飛ばされる。

大気は汚染され窒息し、次々に飛び交う石礫に、あるいは撃ち抜かれ、あるいは潰される。

ありとあらゆる生命が費やされた。


そして失われた命は、全てメイルーアの魔術によって、次々に星に留められ、飛び去ろうとする星の欠片達を繋ぎ止めた。


もしかしたら、"メイルーア"すら、()()()()()()使()()()()()()()星が残るのかは賭けだったのかもしれんが。

とにかくも、少しは生命が残るところでギリギリに爆発は止まった。

そして、今の、浮島の連なるイビツな星になってしもうたんじゃ。

その後に星を割る原因となった種族間の争いを避けるために、色毎に島を分ける事になった。


元々"種族"として弱かった空の部族は、この天変地異で次々に翼を失って行った。

この頃じゃの。

翼を無くした"空の部族"が"ギザ"の祖たる魔獣を飼い始めたのは。

今では1人1羽。生涯の絆と言われるほど強固な関係じゃ。


話を戻すが…とにかく"空の部族"は翼を失いギザと共生し始めた。

だが、"メイルーア"の血筋の女性、代々たった一人だけには"翼"が現れて、彼女の力を継ぐと言われとる。

それが、"女神の名前(メイルーア)"を継いでいくしきたりになった。

ただ、"星の救世主"の名前を継いでいくだけとは、どうにも違うようでな…。

これが…なかなかワシにも分からんのじゃよ。

メイヤードは、各色国と交易はほとんどなく"信仰の対象"じゃ。

内部事情を知るものはほとんどおらん。」


たった一人。

"最初の一人"が使った大魔術が、

犠牲者の命を全てエネルギーに変えた…。


途方もない規模の話に圧倒され、スペクタクル映画でも一本見たような気持ちになる。

まるで現実感を持って受け入れられなかったのだ。

身体中から力が抜けてしまったようだ。


ずっと黙っていたレトが、話を引き継いだ。

「僕達が"メイルーア"の力を継いでいるって、言ったでしょう?

本来であれば"女神"が生まれるはずだった。

"最初の一人"が女で、何故だか代々、()()()()()()があって力を持つ女性が"女神"として祀られている。

僕達は男で、(ちから)も半分づつしかなかったから、生まれて直ぐに"出来損ない"としてメイヤードから"白国"へ下げ渡されたんだ。

実は僕達自身、なぜいまだに"翼"が必要なのか、本来であれば"メイルーアを継いだ者"に課せられる役目なんかも知らない。

"いらない"と国を追い出しても、白国に"手厚く保護"させている事も疑問だ。

僕達をここに置いておくことに、なんの意味があるのかわからない。」

「そんなの!!」

―出来損ない…下げ渡す?

"いらない"だなんて!

そんなの、あり得ない!


「生まれて来た意味なんて、

他人の思惑になんか重ねなくていい!

誰かの都合なんてどうでもいい!

レトも、トーヤも、人生を楽しむために生まれて来たんだよ!

毎日美味しいご飯食べて、大好きな人たちとおしゃべりして笑って。」

誰だって、生まれて来る場所を選べない。

もし選べたなら、飢えて死んでしまう子供がいるもんか。

虐待される子供がいるもんか。

「トーヤも、レトも、誰かとか、何かの役に立つために生まれて来たわけじゃないの!

自分達で、意味を見つけるんだよ!!」

悲しくて、悔しかった。

やるせなくて、苦しくて、

吹き出す想いに、視界がゆらゆらと霞んで行く。

この世界に来て、二人を知って、時々無性に湧き出る感情。

―――この想い、どこから来るの?


レトは、私のいきなりの爆弾トークを、目を丸くして聞いていたが、"先生"はなぜだか()()だったらしく、笑って誉めてくれた。

「ふぁっはははははっ!

更紗ちゃんはいいのぅ。真っ直ぐだのぅ。」

いきなり爆発してしまった私は、慌てて表情を作り、服の袖で目を押さえる。

…"話を聞く"のだった。


「そうじゃのう。レト坊。

更紗ちゃんの言う通りじゃ。」

「先生…?」

「そろそろお前さん達は、"答え"を見つけに行かなければならんのぅ。」

「…答え、ですか?」

「そう。お前さんが先程自分で"わからない"と言っていた事の答えじゃ。

―代々引き継がれる"女神の力(メイルーア)"の役割。

―何故、レト坊達は"白国"に保護されておるのか。」

「でも、先生!」

レトは焦ったように詰め寄るが、先生は全てはお見通しといったように続ける。

「トーヤ坊の事もわかっとる。あいつはぶっきらぼうだが、優しいからな。自分を責めとるんじゃろう。お前さん達に顔向け出来んとな。

だが、あれは、暫くは見つからないじゃろうの。」

「「え?」」

トーヤを見つけに行こうと決めたのだ。

"暫く見つからない"とは、どういうことだ?

「まてまて、話を最後まで聞きなさい。

"時"というのがある。

全ては"起きるべき時"に起こるのじゃ。

"出逢い""別れ""発見""破壊""成就"。

時を逃せば、また運命は変わってしまう。

更紗ちゃんが"来た"。そしてトーヤ坊が"旅立った"

次はレト坊。お前さんが"探しに行く"番じゃよ。」


私が"来た"ことは、運命―?

どうしても、聞かずにはいられなかった。

「私がこの世界に来た事も、何か意味があるんですか?!」

先生はにっこり笑うだけで、また話を続ける。


「全ては"時"が決める事。

来るべくして更紗ちゃんは"来た"し、トーヤ坊は暫くは"見つからん"。

レト坊は"探しに"いかねばならんし、

更紗ちゃんは…先程言うたように、暫くは"帰れん"じゃろうの。」


私が目的にしていた2つ。

"トーヤを探して連れ帰る"事。

"私が帰る方法を見つける"事。

どちらも急速に遠退いて行き、血の気が引いていくのを感じる。


先生はまた言葉を続けた。

「やれやれ。

"暫くは"…と言ったんじゃ。

大サービスじゃぞ?

トーヤ坊は見つかるし、更紗ちゃんもちゃんと帰れるわい。

ただ、それが"今すぐ"ではないだけじゃ。」


トーヤは見つかるし、私は帰れる。

確定的な言い方にため息が出るほどほっとした。

"今じゃない"って、どのくらい先なんだろう?

もう一度聞こうとして、レトが難しい顔でうつむいている事に気づく。

「レト?大丈夫?」

「レト坊は…今の"仕事"を気にしとるんじゃな?」

「…はい。あの屋敷に僕しか居なくなった以上、僕は本当にトーヤを探しに行って良いのか…あの"屋敷"を離れても構わないのかと…。

今日は、そこについて助言を頂きたくて参りました。」

「結論から言うと、かまわん。

そもそも力の半分(トーヤ)が帰らん時点で、問題は起こっとる。

逆に、早く探しに出た方が"廻り合いの時"も早まるだろう。"被害"は無くはないが、多少なりとも少ないじゃろうて。

"ユーリー"が遣わされたのも、そのためじゃ。」

「「!!」」

"女神のパートナー"ユーリーが()()()()()

"何かを成せ"と。

二人、顔を見合わせる。

出発が早い方が、"廻り合わせ"も早まる…!

となれば。

レトと二人同時に立ち上がると、レトは直ぐ様笛を吹いた。

《ピィ――――――!》

「先生。急ぎますので、これで失礼します!!」

レトに続き、私もお辞儀する。

「ありがとうございました!」

道が開けた気がしたのだ。

答えの無いものを探し回るのではなく、

"必ず見つかる"物を探すなら、どんなに気が楽だろう。


遠くから、力強い羽音が聞こえてくる。

「サラサ、行くよ。」

「うん。」

ドアを開け放して駆け出すレト。

彼らしくない荒い動作に、どれだけ気が逸っているかを知る。

少しでも早く続こうとすると、先生が呼び止めた。

「更紗ちゃん。コレを。」

「え?」

「困った時に役に立つだろうよ。餞別じゃ。

…レト坊トーヤ坊を頼む。」

飄々とした雰囲気を隠し、真面目に差し出されたそれは、

大きなオパールのような石のはまった指輪。

アンティークな雰囲気で、金の波模様の台は少し燻された色合いだった。

不思議な人だ。

若く見えるのに老人のような語り口。

全てを知っているようで、教えてはくれない。

ただ、"答え"のみを聞いたとして、"先生"は答えてはくれないのだろう。

でも、この瞳。

"二人を想う気持ち"だけは信じられる。

「はい。出来る限り、力になります。」

そう。

私は二人を助けたい。

先生が言うように、私が"来るべくして"ここへ来たのならば、そこには何か理由があるはずなのだ。

それは、レトとトーヤを助けるためなのではないだろうか。

先への指針を手にした私には、それが答えのような気がしていた。


もう一度先生に強くうなずいて、私はレトの後を追いかけた。

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